日曜
湘南
キョウくんの家
葉山むつみ18歳。
かろうじて18歳。
わたしが懇切丁寧に? 教えてあげた甲斐もあって、キョウくんの模試の成績は、着実に上昇気流を描いている。
「むつみちゃんのおかげだよ」
「いや~それほどでも~」
ありがとう。
「じゃあ今度は、おれ自力でこの問題を解くよ!」
「わかった。がんばって。」
「キョウくん」
「なあに」
「その……本棚の、『鉄道ファン』、読んでも、いい?」
「( ^o^)もちろん~」
× × ×
キョウくんは一心不乱に問題を解き、
わたしは床座りになって『鉄道ファン』のページをめくる。
「……」
「……」
「むつみちゃん」
「Σ(・_・;)」
「くつろいでるねw」
「Σ(・_・;)」
いつの間にか、腹ばいになって『鉄道ファン』を読みふけっていた。
いけないいけない。
「ごめんね…くつろぎすぎた」
「いいんだよ。
じぶんの家だと思ってよ」
「えっ」
「…なんでそこで赤くなるの?w」
(腹ばいから起き上がり、きちんと正座して、パッパッ、と洋服を手で払う)
「きょ、きょ、キョウくん」
「おひるごはん、つくりたいの。それで……、
キョウくん、お料理興味ある?!」
「(とっても嬉しそうに)教えてくれるの!?」
「うん。
教えてあげる。
キョウくんには、特別に」
× × ×
キッチン
「キョウくん、あの、料理とは関係ないんだけど、
きょうも15時台は、わたし、テレビ観させて」
「わかってるよw」
「えーっと、
(思案するふりをして、)
野菜の切り方、教えてあげる」
「こうやって切るの。
やってみて」
「こう?」
「んー、ちょっと雑かもw」
「じゃあもう1回切ってみるよ。
問題演習と同じだ。
ーーどうだろ」
「ーーなかなかいいわよ。
B判定。」
「えw」
「(ニンジンを切りながら)ね? こうやって切ると、綺麗な形になるでしょ?」
「ほんとだあ。ねえ、その切り方も教えてくれよ」
(手の置き方を教えてあげる)
「こうでいいのかな」
「ん~、ちょっとあぶなっかしいかもな~、
キョウくんちょっといい?」
そう言ってわたしは、
キョウくんの手に触れた。
その瞬間、
なぜだか胸の鼓動がトクントクントクンと、際限なく速くなる。
「……どうした?
固まっちゃって」
「な、
な、
なっ、なんでもないのっ」
× × ×
そんなこんなで料理ができた
ダイニングテーブル
「やってみると、料理って案外楽しいもんだね」
「そうでしょう?」
「だれに教えてもらったの?」
「6割か7割はお母さんで、あとは独学」
「へ~っ」
「ーーたぶん、お母さんの教え方が上手だったんだと思う」
「(笑顏で)そっか」
『いただきます』
「ねえ、キョウくん…」
「?」
「お願いがあるの」
「なんだい」
「……」
「?」
「(沈黙してしまう)」
「黙ってちゃ、わかんないよw」
「……、
きょ、
キョウくんの腕、さわってもいい」
「!?
そ、そりゃまたなんで!?」
「(穏やかに)…いいじゃない。
たまには、
理由なんてなくても。」
「…しょうがないなあw
(右腕を差し出して)はいよ」
ーーもっと触れたい。
もっとキョウくんに、近づきたい。