葉山家
キョウくんがきてくれた
「ごめんね、わざわざこんな天気の中」
「どうってことないよ」
「きょうはーー、
勤労感謝の日か…。
世の中を回してくれてるのは、
働いてる人なのよね。
なのに、わたしは、
なんで、
どうしてっ」
「(自分で自分の頭を殴ろうとしたわたしの両腕をつかんで)
だめだよーむつみちゃん、そんなことしちゃー」
手を握って、
わたしを落ち着かせる、
キョウくん。
「ーーだって、わたしおとうさんとおかあさんに食べさせてもらってるんだし、しかも学校行ってないし、それってつまりは、」
「おれも同じだよ。
親に食わせてもらってて、どこの学校にも入ってない」
「予備校に行ってるじゃないの、建築系の入試のために」
「細かいことはいいじゃんかw」
「…アバウトだよ、それは」
「そうだね」
「…そこでうなずいてどうするの」
「どうってことないって」
「!?」
「それよりーー、
2日遅れだけど、
むつみちゃん、
誕生日おめでとう。」
目の前にいるキョウくんが、
目の前にいるキョウくんが、
目の前にいるキョウくんが、
今まででいちばん、
かっこよく見える。
かっこよく見えるから、
かっこよく見えるから、
だから、わたしは、
キョウくんに身を預けようとしてしまう。
「(若干震えた声で)……むつみちゃん!?!?」
「ごめん…重い? わたしのからだ」
「いや…軽い…けど……、
どうしたの、具合でも悪いの」
「(キョウくんの胸の中で首を振って)…ううん、そんなことないよ。
ただ…キョウくん、かっこいいな、って…、そう思って」
♫こん、こん♫
おかあさんのノックの音。
あわててキョウくんから身を離して、正座するわたし。
「お茶持ってきたよー?
どしたのむつみ、あらたまっちゃって」
(下を見て、何も言い出せない)
「(何ごとかに気づいたように)あ!w
(テーブルにお茶を置き、お盆を抱えながら床座りになって、沈黙のまま向かい合うわたしたちふたりを順繰りに見て)
……ごゆっくりww」
× × ×
「ーー勉強どころじゃないね、きょうはw」
「…(ぽそりと)おかあさんをね」
「??」
「おかあさんをね、キョウくん、わたし、おかあさんを泣かせちゃったことあるの。
何回も。
そのときのことを思い出すとね、やりきれなくなるの。
おかあさんをもう泣かせたくない、
たいせつにしたいの。」
「…過去は、過去だし」
「うん…」
「その失敗を、バネにすればいいんだし」
「…うん」
「おかあさんをたいせつにしたいんだったら、さ、
(わたしの両肩に、ぽん、と手を置いて)
もっときみは、自分自身をたいせつにしなきゃだめだよ」
「うん…うん…うん…
約束しちゃったら、できなくなるから、約束はしない。
でもわたし、できるだけがんばってみるね。
…ダメそうになったときは、手助けして。
わたしを助けて。
お願い、
お願いキョウくん。」
「ーーわかった。
むつみちゃん、きょうからきみを、助けるよ。」