【愛の◯◯】丁寧に折り畳まれたルーズリーフ

 

「鎌倉幕府の滅亡」という項目を読んでいるけど、文章が全く頭に入ってこない。これじゃあ、鎌倉幕府が滅んだ理由なんて理解できるワケも無い。

日本史教科書のページを押さえている左手に過剰なチカラが入ってしまう。ページにシワができてしまうのは良くないって分かっているのに。

落ち着きを欠いているのは自覚している。

欠けた落ち着きをどうやって取り戻すのかが問題、なんだけど、

「全然集中できてないじゃーん、タカムラー」

と真向かいの美星(みほし)に言われるから、取り戻す方法を考えるドコロでは無くなってしまう。

美星に見抜かれた。

授業時間中から見抜かれていたのかもしれない。わたしと美星の席は近いから、美星がわたしの集中力の欠乏を見抜く難易度は低くなる。

「そんなんじゃあ、これ以上テスト勉強しても、意味が無いんじゃーないの?」

美星が、笑顔で、痛烈なコトバを放ってきた。

窓際でわたしと机を共有している美星は窓の外へと視線を伸ばす。

「お外の空気でも吸ってきたら? 美味しい空気だと思うよ、たぶん」

美星が提案してくる。

わたしは目線を下げる。

 

× × ×

 

旧校舎と距離が近めの石造(いしづく)りベンチに座って、雑草を眺めている。

陽(ひ)の光がたっぷりと雑草に当たっている。

楽しそうで幸せそうな雑草だ。

わたしからも養分を吸い取る勢いだ。

 

本日の『ランチタイムメガミックス』は急遽放送中止になった。わたしの判断で放送中止になった。

わたしがパーソナリティを務めるコトになっていたけど、パーソナリティを務められるような精神状態では到底無かったから、中止にした。

一昨日(おととい)までのモチベーションが、昨日の『出来事』によって消え去ってしまっていた。一昨日までは、あんなにモチベーションがみなぎっていたのに。『3月3日のお昼休みに放送するんだから、ひな祭りスペシャルにするんだ』って意気込んでいたのに。

 

× × ×

 

昨日、卒業式が終わったあとで、『伝説の樹』の下で、マスダ訓史(のりふみ)先輩に、封筒を手渡された。

ワケが分からない事態に直面して気が動転していたから、マスダ先輩を直視できなくなるのも当たり前だった。

あの時、上半身の制服のポケットに両手を突っ込んでいたマスダ先輩の表情は、どんな表情だったんだろうか。考えるたびに、怖くなる。

 

帰宅後、駆け上がるようにして階段をのぼったわたしは、自分の部屋に突入した直後、バッグのファスナーを激しい勢いで開け、封筒を鷲掴みにして取り出した。

ファスナーを閉めずにバッグを放り投げて中身を飛び散らせたわたしは、深呼吸するのも忘れて封筒の開封に取り掛かった。

丁寧に折り畳まれたルーズリーフが中から出てきた。ルーズリーフの枚数が多かったから寒気が一気にやって来た。

震える手指を動かした。マスダ先輩の文字が眼に食い込んできた。キレイな文字だった。わたしには真似するコトのできないキレイな文字で、卒業を迎えた先輩男子は手紙を綴(つづ)っていた。

読み進めていくのに比例して心拍数が上昇した。心拍数の上昇は右肩上がりというレベルではなかった。先輩の意図を正確に読み取るのを阻害するレベルの上昇ぶりになってしまっていた。

最後まで読み切れずにルーズリーフを勉強机の上に叩きつけるように置いてしまった。横長長方形のデジタルクロックが示す時刻が眼に飛び込んできた。弟の学武(マナム)の下校時刻が着実に接近していた。このままだと帰宅するマナムに落ち着いて対応できない、年の離れたお姉さんらしく振る舞えない……。迫りくるピンチを強く強く感じた。でも、ピンチの切り抜け方なんか思いつくワケも無かった。

ルーズリーフを放置したまま机を右手で強打するわたしがいた。マナムには決して見せてはいけない強打だった。