【愛の◯◯】全部真っ暗で、中身が無い

 

真夜中に起きたら部屋がとても冷たかった。3月の夜中の冷たさを甘く見ていた。ベッドの中でかなり長い時間震えていた。ベッドからの脱出になかなか踏み切れなかった。

チカラを振り絞ってベッドから抜け出した。LEDを点(つ)けた直後にエアコンのリモコンの「暖房」ボタンを押した。

エアコンのスイッチは入ったけどわたしのスイッチは入っていなかった。置き時計を置いている場所を思い出すのにかなり時間がかかった。冷たさがなかなか緩和されない部屋を彷徨(さまよ)って置き時計をどうにか見つけた。午前4時10分を少し過ぎたトコロだった。『NHKの『おはよう日本(にっぽん)』の放映開始まで1時間切ってる』と一旦思ったけど、『違う。土曜の朝だから『おはよう日本』は6時からなんだ』と認識を修正した。

土曜版『おはよう日本』が6時スタートなのが頭から抜けていて本当に情けなかった。

 

カラダもココロも冷(ひ)え冷(び)えとなり続けのわたしはベッドの掛け布団の中に戻ってしまった。

ナイトウェアに掛け布団を押し付けて雑念を消そうとした。

しかし、

『小泉(こいずみ)先生、その板書、2日前の授業とおんなじです……』

と指摘してくる教え子女子の声がよみがえってきて、頭の中が一気に雑念だらけになっていってしまった。

 

× × ×

 

朝ご飯を自分で調理する気力が無い。コンビニに買いに行くしかない。

だけど、コンビニまで向かうココロの準備が出来上がらない。

部屋は完全に明るくなっている。そして、大型液晶テレビの画面は未(いま)だ真っ暗なままだ。

テレビリモコンの赤くて丸いボタンが押せない。

テレビ番組に集中力を注ぐ自信すら出てこない。

 

テレビ文化リセット論・テレビ不要論・テレビ有害論のようなモノを頻繁に眼にする。そのたびに凹(へこ)んでしまう。

テレビの悪口を言われると、わたしも悪口を言われているような気分になる。

日本中のテレビ愛好者が追い込まれつつある。

四面楚歌(しめんそか)。周りを敵に取り囲まれて、絶体絶命な状況。

テレビ愛好者は項羽(こうう)で、テレビ愛好者以外はみんな劉邦(りゅうほう)……みたいな認識。

悪いのは項羽の方なのか劉邦の方なのか、という問題以前に、負けたのは項羽の方だという歴史的事実がある。

 

圧倒的な敗北者意識が、生まれながらのテレビ好きのわたしを絶えず襲っている。

『あなたのずっと好きだったモノは、この世界においてなんの意味も無い上に、この世界に害を与える危険性の極めて高いモノでした』

どこからか、そんな囁(ささや)きが繰り返し聞こえてくる。

 

× × ×

 

脳内がグチャグチャグシャグシャしていたからコンビニ弁当の味が少しも分からなかった。

 

土曜・日曜の予定がカラッポのわたし。

大型液晶テレビ画面が次第にどす黒く見えてくる。

大型液晶テレビ画面の1メートル前で体育座りのわたしは首を激しく横に振ってしまう。

虚脱感だけが残る。

 

わたしが苦しい理由。

それは、仕事ぶりの不甲斐無さとか、趣味の肩身の狭さとか、だけじゃない。

『彼』との関わりにおいて、空回りを繰り返して、それで、カンケイがダメになりかかっている。

テレビネットワーク解消寸前……って喩(たと)えたら良(い)いんだろうか。

今年に入ってから、大川(おおかわ)くんとの口論が、合計15回以上。

少しもお詫びできていないわたし。

謝るために連絡しようと思うたびに、重圧に押し戻される。

 

大川くんのコトがいちばん大好きだった頃のコトも上手く思い出せない。

 

全部真っ暗で、しかも中身が無い。