カフェ『リュクサンブール』
「戸部くんヤッホー♪」
「今日も来たのかよ…
ま、いいけど」
「あのね戸部くん」
「なんですかーはやまさーん」
「バイト上がったら、ちょっとだけ外で話さない?」
× × ×
お外
「寒いんじゃないのか、平気か?」
「重ね着してるから。
ありがと、心配してくれて」
「戸部くん、
今度、わたしんち、来ない?」
「はぁ!?」
「ダメなの?」
「ーーいろいろ、言われそうだから」
「(意地悪く)誰に、いろいろ言われるのかな~~」
「ーー行くんだったら、愛といっしょに行く。」
「なるへそ。
それだったら、いろいろ言われないで済むもんね~~ww」
「(-_-;)るせーな…」
× × ×
わたしんち
夕食後
今年に入ってから、おとうさんとふたりで、『フランス語勉強会』をはじめた。
「おとーさん、きょう、フランス語、できる?」
「できるよ、やろうか。
ちょっとまっててくれよ。」
夕食を片付けたテーブルで向かい合う父娘。
テキストを、かわりばんこに、声に出して読む。
「きょうは、所有形容詞の復習から。
モン・マ・メ、トン・タ・テ、ソン・サ・セ…
はい、おとうさん」
「モン・マ・メ、トン・タ・テ、ソン・サ・セ」
「よくできました。じゃあ一緒にもう一度」
『モン・マ・メ、トン・タ・テ、ソン・サ・セ』
「はい、完璧♫
おとうさんのことは、『モン・ペール』で、
おかあさんのことは、『マ・メール』、
ふたりあわせて、『メ・パラン』なのでした」
× × ×
きょうは、動詞aller(アレ)とvenir(ヴニール)について。
父「ヴーザレ・ア・パリ? ーーあなたはパリへ行くのですか。」
娘「ヴー・ヴネ・ドゥ・パリ? ーーあなたはパリから来たのですか。」
父「『ヴー(あなた)』の次の動詞が変化しているんだな」
娘「そうね、もとはaller(アレ)。『ヴーザレ』で、『あなたは行く』になる。ひとまとまりに『ヴーザレ』で覚えちゃうのが手っ取り早い」
父「ヴー・ヴネの『ヴネ』は……venir(ヴニール)の変化か」
娘「『行く』の反対で『来る』って意味ね」
父「『行く』と『来る』の区別って、意外と難しくないか?」
娘「意外とじゃないよおとーさん。普通に難しいよ。急に違いを説明しろって言われても、なかなかうまく説明できないでしょ」
父「たしかに」
娘「微妙にフランス語から脱線しちゃってるけど、さ」
父「たしかに」
娘「ーーallerとvenirの変化も重要だけど、このふたつの動詞には更に重要な役割があって、それぞれ『近い未来』『近い過去』を表せる」
父「ええっと……後ろに動詞の不定形をくっつけるのか」
娘「そうね。
allerに不定法の動詞で、『今から◯◯するところだ』、
venir deに不定法の動詞で、『今、◯◯したところだ』」
父「もちろん、代名詞によってallerとvenirは変化する、と」
娘「うん。でも、venirのあとにdeを忘れないで」
父「そうか、うっかり忘れてしまいそうになるところだな」
娘「まず、『近い未来』の例文」
父娘『ジュ・ヴェ・テレフォネ・ア・ロジェ。ーーこれからロジェに電話しよう』
父「『近い過去』」
父娘『ジュ・ヴィヤン・ドゥ・テレフォネ・ア・ロジェ。ーーロジェに電話したところだよ』
× × ×
「ふう。疲れただろう、むつみ。実を言うと父さんも肩がこってきたところだw」
「ちょっとまってね、おとーさん」
「?」
「使っているテキストは、猪狩廣志著『ゼロから始めるフランス語』、初版2000年、出版社は三修社、きょう読んだ例文は43ページと44ページのものです。
あしからず。」
「?????」
「出典をちゃんと明らかにしないとね♫」
「?????」
「じゃ、きょうはここまでにしよーか、おとーさん」
「そうしよう。
どうだ、コーヒーでも飲むか?」
「だめだよ、眠れなくなっちゃうよ」
「すまんすまん、父さんはべつに大丈夫なんだが、むつみが眠れなくなるのは、いちばん良くないな」
「ねぇ、おとーさんは、コーヒー飲むときって、角砂糖何個入れるの」
「1個」
「そうか…わたしは2個。
ミルクは?」
「入れないなあ」
「そうなんだ。
やっぱりおとーさんって、カッコいい」
「(^_^;)……どこが?」
「きょうね、戸部くんに会って、少し話したの」
「あー、夏に喫茶店でバイトしてたって子だな」
「大学、休みだから、またバイト再開したんだって。
羽田さんの彼氏クンよw」
「そ、そうなのか…」
「羽田さん、戸部くんの邸(いえ)で一緒に住んでるの。
だから、羽田さんのおにいさんみたいな存在でもあるし、おとうさんみたいな存在でもあるの」
「(^_^;)なるほどなるほど…羽田さんにも、いろいろ複雑な事情があるんだな」
「そうよ。だから、戸部くんが支えてくれるの」
「ふむ……」
「……わたしをキョウくんが支えてくれるのと、似てるかな」
「キョウくんは……どうだ、受験は、うまくいきそうか?」
「やってみないとわかんないよ」
「模試はーー」
「ーーE判定をB判定までもっていったのは、わたしの功績かな、って。
やってみないとわかんないけどさ、
きっとうまくいくよ、
信じてる…」
「(微笑んで、)
むつみはほんとうにキョウくんが好きなんだなw」
「(うろたえにうろたえにうろたえて)
し、しんじてるもん、きっとうまくいくもん、すきとかきらいとか、そーいうのいぜんに、
でも、すきじゃないと、こんなこといえないから……おとーさんのいじわるっ、
すきだからしんじてる、そう、わたしすきだし、しんじてるよ、おとーさんやおかーさんに『つつぬけ』なの、とっくにわかってるよ、わかってるんだから…、
でもすきなのっ、しょーがないでしょ……ね、おとーさん?」