【愛の◯◯】メロンソーダ、麻雀牌、葉山と愛の抱擁、そして--忘れられた藤村

戸部邸

昼下がり

 

♫ピンポーン♫

 

「やっほーい。来たぞ~、戸部」

 

来やがったな藤村、

だけでなく、

葉山と、

八木と、

小泉さんも。

 

女子4名が一度に邸(いえ) に押し寄せてきた。

 

『おじゃましま~す』

 

× × ×

 

「葉山、調子はどうだ?

 気持ちが後ろ向きだと、どんどん後ろ向きになっちゃうぞ」

「うん…。

 気づかってくれてありがとう、戸部くん」

「それと、誕生日、おめでとう」

「(照れくさそうに笑って)…ありがとう」

 

「それじゃおれ冷蔵庫から飲み物出してくるから」

「待って、戸部くん」

「ん?」

 

あの……ごめんね、前にここに来たとき、頭ごなしに怒るみたいになっちゃって

「へ?

 

 なんにも気にしてないよ。

 

 反省してんのは、おれのほうだから」

「(恐縮そうに)そう…それなら…よかったの」

 

× × ×

 

・ペットボトルを冷蔵庫から出して、持ってきた

 

「ほらよ。葉山、メロンソーダ入れてやるから」

「え、えっ、わたし自分で入れられるのに」

「きょうは葉山をお祝いする日だろが。葉山が主役なんだよ」

 

「(コップにメロンソーダを注(つ)いで)メロンソーダ好きなんだろ? 葉山」

 

どうしてわたしがメロンソーダ好きだってわかったの……

 

「そりゃ、愛と暮らしてるからな、教えてくれたんだよ、あいつが」

「とっ戸部くん、このメロンソーダ、コンビニやスーパーになかなか置いてないやつだよね」

「よくわかったなw」

「わざわざこれを買ってきてくれたの?

 大変だったでしょうに…」

 

「あーっ! 葉山、感激してるww」

「バカね小泉。感激しないわけないじゃないの…」

 

× × ×

 

「(テーブルにありったけのお菓子を置いて)

 ほれ。好きなだけ食え。カロリーは知らん」

 

小泉さん「こんなにドッサリと」

八木「こ、これも戸部くんがぜんぶ買ってきてくれたの?」

おれ「買い置きだよ」

八木「まじで」

おれ「まじで」

小泉さん「お菓子が欲しくなったら戸部くんとこ来ればいいね」

葉山「お菓子だけじゃないでしょ…UNOとかジェンガとか人生ゲームとかドンジャラとか、いたる所にいろんなモノがあるんだから」

小泉さん「夜通し遊べるじゃん!」

おれ「よく知ってるなあ葉山」

葉山「わりとしばしば来てるからねw」

おれ「真っ先に見つけたのは花札と麻雀牌だったみたいだけどなw」

葉山「うっ」

八木「戸部くん空気よめな~い」

おれ「(-_-;)すんません」

葉山「気にすることないから戸部くん。いまのは会話の自然な流れ」

 

八木「そうだ。流れついでに、葉山に麻雀のルール教えてもらおうよ」

葉山「な、なにを言い出すの八重子」

八木「戸部くん持ってきてよ麻雀牌」

おれ「今度は八木が無茶ぶりかよ」

小泉さん「でもルールって言ったって、わたしネットで少し調べたことあるけど、あれかなりややこしいでしょ」

八木「えー」

おれ「ど、ドンジャラで我慢しないか」

葉山「たしかにルールを説明してたら、日が暮れちゃうわね。

 でもーー」

おれ「な、なにおれの顔見てんだよ。おれだって詳しいことはわかんねえよ」

葉山「『役』ぐらいは知ってるんじゃないの」

小泉さん「あー、国士無双とか?!」

葉山「まあそういうことね。

 (乗り気になって)どんな役があるか、みんなに見せてあげる」

 

× × ×

 

葉山「これがピンフ

 

葉山「これがタンヤオ。正確にはメンタンピン」

 

葉山「これがチートイツ」

 

葉山「純チャン三色」

 

葉山「大三元

 

葉山「国士無双

 

葉山「四暗刻

 

葉山「小四喜

 

葉山「字一色

 

 

(-_-;) ーーどうしてこうなった。

 

 

おれ「なんでそんな手つき慣れてんだ」

八木「きょうの戸部くんひとこと多いね」

小泉さん「いいじゃん細かいことは。

 葉山の眼、キラキラしてるよ」

 

葉山「……そう?」

 

八木「(肩をすくめ、)ま、何であれ、夢中になれるものがあるのは大事なことだよね。

 顔色もなんだか良くなったみたい、葉山。」

 

葉山「そう……」

 

 

<ガチャッ

 

葉山「だ、だれか帰って来た」

おれ「たぶん、愛だな」

 

(急いで片付けようとする葉山)

 

八木「いいんじゃないの? 慌てて隠そうとするみたいにしなくても」

葉山「(焦って)いや、羽田さんの教育上よくないから」

八木「(ソファーにもたれて)そのままでいいじゃん、ありのままでいいじゃん

 

おれ「たしかにな。

 愛の前では、葉山はありのままでいてほしいと思うな」

葉山「なんで…?」

おれ「愛の教育上

 

 

× × ×

 

「アツマくん、いつの間に麻雀のルール覚えたの!?」

 

葉山「誤解だよ羽田さん。

 これは、わたしのワガママ」

八木「ちがうでしょ、葉山じゃなくてわたしのワガママ」

愛「?????」

 

愛「アツマくんなにか粗相をしませんでしたか」

葉山「まっさかあ。

 

 

 ーー楽しかった」

 

愛「よかったです、

 それがいちばんよかったです。

 

 センパイ、誕生日おめでとう。

 

 

葉山「(愛に歩み寄って、胸元で)ありがとう、羽田さん。

 

 

 

 

小泉さん「泣けるねえ」

八木「こら、茶化さないのっ」

おれ「そういえば……、

 なんかきょう、藤村の存在感がずっと薄くねえか!?

 

藤村「そっ、そんなことないよ、わたしちゃんといるよ」

おれ「じゃあなんで口数極端に少なかったんだよ、八木や小泉さんとももっと打ち解けろよ」

藤村「いや、そういう問題じゃなかったの」

おれ「(゚Д゚)ハァ?」

藤村「ブログの事情で」

おれ「便利な言葉だな」

藤村「大丈夫だよ、責任は管理人さんにあるから」

おれ「キャラクター運用の失敗ってやつか」

藤村「こうやって多人数になると処理できないのね」

おれ「そうやって藤村の口を使って自己弁護するんだな。いいかげんにせいや

 

小泉さん「あのー」

八木「メタフィクション中、すみませんが」

小泉さん「(ウキウキして)藤村さん!!

八木「(ワクワクして)戸部くんの高校時代のこと、教えて!!

 

藤村「あ、お安い御用で♫」

 

おれ「(~_~;)」

 

 

 

【愛の◯◯】おれんち貸すのはいいけど、パジャマパーティーは勘弁だ!!

都心

某・学生街…っぽい所

 

「やっはろー、

 じゃなかった、

 ヤッホー、戸部」

 

「なぜ言い直した」

 

「べ、べつにいいじゃん」

 

「で?

 用件をはよ言え、藤村さんよぉ」

 

「うん……。

 

 あした戸部ん邸(ち)、貸してよ」

 

「なんでまたどうして…」

「(ねだるように)おねがい~、

 できれば昼間っから借りられないかな? って」

「…悪運が強いな藤村」

「どゆこと?」

「(頭を抱えるようにして)あしたは昼から、講義入れてないんだ…」

それって昼間っからお邸(やしき)借りられるってことじゃん!!

 (∩´∀`)∩やっぱアンタ最高だよ、戸部!!

 

「…とほほ」

 

× × ×

 

「葉山あした誕生日なのか」

「そう。

 それと、はーちゃんイマイチ元気ないみたいだから、元気づけたいの」

「おまえと葉山の他には?」

「八木さんと小泉さん」

「キョウくんは……」

「ばっかじゃないの!? 来るわけないでしょ。

 はーちゃんは、キョウくんとは週末に別個で会って、お祝いするの」

「はは…そうかあ。

 でも、ってことは、参加者は全員女子……」

「戸部も参加してなんかしてよ」

「でもおれ以外全員女子なんだろ…」

ビビってんの?w

 

× × ×

 

「ーーで、夜までいていい?

 愛ちゃんが帰ってくるのを待つの。

 愛ちゃんと会ったら、はーちゃん、きっと元気でるよ」

「あのふたりは特別な絆で結ばれてるみたいだな」

「でしょ? そんであすかちゃんとも一緒になってパジャマパーティーすんのよ」

却下。

 

 

「ところで」

「なによ」

「藤村さんは…、

 ママとは仲直りできましたか? あれから

 

 

(藤村、絶句)

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】みんなで葉山の期間限定おかあさんになってあげよう作戦!?

わたし小泉小陽(こいずみ こはる)。

大学1年生。 

 

昨晩、中学高校の同級生で現在予備校生の八木八重子が電話で泣きついてきた。

しばらくなだめていたら落ち着いたけど、

差し迫る2度めの大学入試以外にも、何やら抱えてるものがあるみたい。

 

そして今日は、

なんと! わたしのマンションに、

おなじく中学高校の同級生の葉山むつみがやって来たのである。 

 

 

 

ポケモン発売されたねえ。やってるー?」

『俺ガイル』の最終巻も発売されたわね」

 

「おれ…が…いる??」

「『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』っていうライトノベルの最終巻」

「へ…へぇ…ごめんよく知らなくて」

「小泉にしては疎(うと)いわね。テレビアニメにもなってるのに」

「ドラマとアニメは不得意なの」

「テレビ番組なのに?」

「残念ながら」

「(はーっ、とため息をつき)ま、いいわ」

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (14) (ガガガ文庫 わ 3-24)

 

↑本日発売!!!!!!!

 

 

「葉山、もしかして調子悪い?」

「ちょっと疲れただけ」

「…頑張ったんだね」

「…なにが。」

「このマンションまで来ること。」

「(ちょっとムッとして)そのくらいの体力はあるからっ。

 …でもちょっと疲れた」

「わかった。休んでいきなよ。思う存分」

「……(沈黙)」

 

 

ーーご機嫌斜め、

というよりも、

調子の波が、

低くなってるみたい。

 

どうしてあげればいいかな? 

 

 

× × ×

 

(ぐっすりと寝ていた葉山がゆっくりと眼を覚ます)

 

(しかし、なかなか起き上がれず、まどろんでいる様子)

 

「はーやまっ」

「小泉…いけない、わたし、」

「無理しちゃだめだよ、葉山」

「わたしなにもむりしてない、

 

 でも……気持ちがこわばってるんだと思う」

 

「不安なんでしょう」

「やっぱりわかったみたいね…」

「『先が見えない病』」

「うまいこと言うね、小泉は」

 

「こわばってるんだったら、気持ちがほぐれるまで休み続けるんだよ。

 決して焦らないで」

 

「あんたにそんなこと言われる日が来るなんてね」

 

 

(葉山の真横で寝っ転がる)

 

「わたしが『いい』って言うまで起き上がっちゃダメだよ」

「…なにそれ」

「いいから休むの!w」

 

「……」

「……」

 

× × ×

 

「暗くなってきちゃった」

「まだわたし『いい』って言ってないよ」

「暗いと…心細いから」

「わたしがいても?w」

「…ごめん」

「わかった。

 じゃ、電気つけるついでに起き上がろっか。

 ゆっくりね。

 手、貸してあげる」

 

× × ×

 

「わたし…こんなんじゃ…社会の足手まとい……」

「こらっ、そーゆー考え方しないっ」

「じゃあわたしってなんなの、なんなのよ、小泉」

「んー?

 あさって、11月21日が誕生日の、美人でかしこくて料理とピアノも大得意で、そのほかいろいろと魅力的な、健気でほっとけない女の子」

「けな…げ?

 

 

 あっ

「ど、どした、葉山」

あさってが誕生日なの忘れてた

 

アチャー。

こりゃ、相当まいってんな~。

自分の誕生日忘れるなんて。

 

 

 

どうしてあげればいいかな?

 

 

「ふーーーーーーーーーーーーーむ」

 

「ど、どうしたのよ、腕組んで、考え込んだみたいに」

「や、おかあさんどうしよっかなーって」

「おかあさん!?」

「そ。わたしが今だけ葉山のおかあさん。エプロンも着たし」

「ほんとだ。小泉、エプロンなんて持ってないかと思ってた」

「ちょっとまってねー。おかあさん考え中だから」

「な、なにを考え中なの」

「きょうの晩ごはん」

「じょっ…冗談言わないでよ」

「ごめん、冗談w

 

 

 

 …

 (手を合わせて)おかあさんひらめいちゃった!!!

 

「ーーえ?」

 

戸部くんと羽田さんにも、葉山のおかあさんになってもらうの

 

「(^_^ ;;)ーーい、いや、戸部くんはおかあさんじゃなくておとうさんでしょ、性別的に」

 

 

 

【愛の◯◯】京都大学でおいしい空気を吸いたい工藤くん!?

どうもお久しぶり。

わたし、八木八重子。

限界ギリギリを生きる浪人生。 

 

葉山の誕生日(11月21日)が近づいているので、会って、お祝いしてあげなきゃなあと思う。

その一方で、刻一刻と大学入試シーズンが近づいてきていて、余裕がなくて、じぶんのことを考えるのだけで精一杯なときも多くある。

でも、葉山は特別。

親友だから。

いくら余裕がなくても、葉山には、わたしの顔を見せてあげたい。 

 

ところでーー、

 

工藤くん。

工藤卓くん。 

 

 

× × ×

 

・同じクラスの男女4人(わたし、工藤くん、Aちゃん、Bくん)で夕ごはんを食べた

・そしたら……

 

Aちゃん「(幾分わざとらしく?)いけなーい! このあと予定があるんだった!!」

Bくん「(大仰に?)奇遇だなあ!! おれも今日は家に帰らなきゃ!!」

 

 

 

 

「( ゚д゚)ポカーン」

 

「なんで放心状態なの、八木さんw」

「( ゚д゚)だって、AちゃんとBくん帰っちゃった」

「用事があるんだったらしかたないよ」

「(; ゚д゚)わ、わたしも帰ろうかな、」

「まあまあ、もうちょっといいじゃないか」

 

わ、

わたしと工藤くんが、

飲食店に、

ふたりだけの状態。

 

しきりに窓の外に知り合いがいないか、眼を走らせる。 

 

「の、のこってどうするの、工藤くん」

「どうするってw

 ーーどうもしないよ」

 

「(下のスクランブル交差点を見て)…八木さん。

 東京はほんとうに人が多いよなあ。

 多すぎるくらいに」

「…そりゃそうでしょ。

 なにがいいたいの」

「僕、生まれも育ちも東京なんだ」

「わたしもそうだよ」

「ーーちょっと、疲れちゃってさ。」

「なにに?」

「東京に」

「なんで?」

「都会すぎて」

「わたしにはそういう感覚はないけど」

「修学旅行で、京都に行った」

「ぜいたくね、修学旅行なんて」

「!?」

「わたしの出身校は修学旅行なんてぜいたくなモノはなかったの」

「そ、それはすまなかった」

 

ーーなにが「すまない」のかしら。 

 

「とにかく、空気がおいしかったよ、京都は」

 

ーー京都の空気が吸いたいから、

京都大学が第一志望だとでも言うの? 

 

「それ錯覚じゃないの」

「行ってみないからわからないんだよ!」

 

「き、北関東の温泉街の空気はおいしかったわね。

 修学旅行はなかったけど、

 卒業旅行はしたのよ。

 そう、女二人して、北関東の某温泉にーー。

 

 あ、あ、あのころは、よかった」

 

「ーー今だって良いじゃないか」

「だ、だ、だけど、工藤くんあなたは京都の空気が好きなんでしょう。

 わたしはこっちに残るけど、工藤くんは『西』に出ていっちゃうーー」

 

「なにがいいたいの、

 もしかして、僕が京大受けるのがーー、」

それ以上言っちゃダメっ

 

1000円札をテーブルに叩きつけて、

走って逃げるように、店を飛び出した。

 

 

ーーだめ。

素直になれない。

なれないし、

工藤くんの前だと、

なんだか支離滅裂になる、

「そんな地点」まで来てしまったみたい、

高校時代の放送部のことでも話の「まな板」に出したらよかったのに、

工藤くんとのあいだに「わだかまり」ができちゃう。

 

 

……工藤くんとのことは、じぶんでなんとかするとして、

とりあえず、昂(たか)ぶる気持ちを落ち着かすために、

温泉旅行のパートナーだった小泉小陽(こいずみ こはる)に、

スマホで助けを求めたのだった。

 

 

 

 

【愛の◯◯】福岡にソースケのごはんを作りに行くんだ

笹島マオ。

もうすぐ高校卒業。 

 

 

 

 

ソースケ……。

どうして? 

 

 

 

「ーーなんでもっとはやく言ってくれなかったんだろっ」

 

 

 

 

放課後

サッカー部グラウンド

 

気の抜けた状態で、部員の練習するすがたを見つめている。

わたしの存在意義って。 

 

♫LINEの通知音♫

 

「藤(フジ)先輩からだ」

 

『ヤッホー。今からそっち行くね』 

 

× × ×

 

「どうしたマオ? 元気がぜんぜんない。

 男にフラれたりした?」

 

「ちょっと……近いです」

 

「えっどゆこと、気になるじゃん」

 

ソースケが……東京からいなくなっちゃうんです

 

「ソースケって、スポーツ新聞部の中村創介くんのことだよね」

「はい。」

「東京からいなくなるってことは……創介くん、関西の大学を受けたりするの」

関西よりもっと遠いんですっ

「そ、そんなヒステリックにならないでも」

九州に行っちゃうんですっ」

「九州って……福岡?」

「はい」

「新幹線でつながってるじゃないの」

そういう問題じゃないんですっ

「ちょ、ちょーっとおちつこうか、マオちゃん」

「……」

 

 

「創介くんと離ればなれになるのがさみしいんだ」

「……」

「創介くんが自分の近くからいなくなるのが、こわいんだね」

「………こわいです、

 でもどうしてこんなにこわいのかわからないんです、

 わたしじぶんのきもちがわからないんです」

 

「ーーそっか。

 じゃあその気持ちは、1週間ぐらい寝かせておこう」

「…寝かせたら、どうなるんですか」

「気持ちの整理ってやつ」

「…どうやって寝かせたらいいんですか」

「目の前のことにひたすら集中する。

 

 ほら、

 グラウンド見なよ、

 ハルがこけたよww」

「ほんとだwww」

 

そうか…、

わたしはわたしの仕事をがんばる。

残り少ないサッカー部のマネジ業をがんばる。

そしたら気持ちに整理がついてくる、

といいなあ。

 

 

「マオはさ」

「なんですか」

「創介くんとは、いつから一緒だったの」

「中学からです」

「ふーん」

 

「…ポテトチップスに、九州しょうゆ味ってのがあるんだって」

「そんなの売ってるんですか!?」

「地域限定。九州と中四国だけ」

「都市伝説というわけではないんですね」

 

「先輩……」

「ん?」

「辛子明太子って、おいしいですよね」

「おいしいよね~」

「ですよね。

 

 ……ソースケ、『あっち』で“九州しょうゆ”や辛子明太子ばっかり食べて、からだ壊さなきゃいいんだけど」

「し、心配するとこ、そこ!?」

 

福岡までーー、

 福岡まで、

 ソースケにごはんを作りに行ってあげたい。

 

 でも、福岡なんですよね。

 遠すぎますね、やっぱり。

 

…そんなことないよ。

 

 マオ、あんたがその気なら

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】17歳の朝、アツマくんのサプライズプレゼント

「おねーさん、誕生日おめでとうございます!!」

 

「ありがとう、あすかちゃん。」

 

「(*´ω`*)愛ちゃん、ハッピーバースデー」

 

「ありがとうございます、明日美子さん。」

 

「愛ちゃん、17歳のお誕生日おめでとう。」

 

「ありがとうございます、流さん。」

 

 

 

「愛……」

「なにボーっと突っ立ってんのよ」

「愛…その…誕生日だな」

「そうだけど?」

「(微笑みかけて)おめでとう。」

「(ちょっとドキマギして)…ありがとう。」

 

「そろそろ言わなきゃならんな」

「なにを? アツマくん」

「おれからおまえへの誕生日プレゼントのことだ」

「(ワクワクして)えっ!? なにかくれるの!!」

「ーーで、これはあすかへのプレゼントでもあるんだけど」

「ど、どゆこと」

 

「そーだよ、どーゆーこと? おにーちゃん」

 

愛、あすか、

 年末におまえら2人を、

 旅行に連れてってやる!!

 

「ほ、ほんとうに!?」

「それでクリスマスより先の予定を空けといてってお兄ちゃん言ってたのね」

 

「で、行き先は?」

「おまえらの学校、どっちも修学旅行ないだろ?

 京都や奈良に行ってみるのはどうだろうか」

 

奈良がいい!!」

「そうですね! シカがいっぱいいるし」

 

「(;´Д`)え……京都は……」

「京都にも行こうよ。

 でも奈良に泊まろうよ」

「(;´Д`)でも奈良は宿が少ないっていうぞ、愛」

「なんとかしてよ」

「そうだよなんとかしてよお兄ちゃん」

 

「まあ、無茶ぶりはこのくらいにして。

 

 アツマくんーー。

 

 

 

 (飛びかかって抱きついて)

 (ノ≧∀)ノだーいすき♫

 

「わたしも!

 お兄ちゃんっ!

 

 

 (飛びかかって抱きついて)

 (ノ≧∀)ノだーいすき♫

 

 

 

「(ふたりごと受け止めて)

 (^_^;)激しいな…朝から」

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】「いっぱいケンカして、いっぱい仲直りしようよ」

はい、あすかです!!

まさかの3日連続登板!!! 

 

……、

飽きましたか?

ま、いいや。

 

今日の舞台はスポーツ新聞部、

ではありません!!

 

バンドの練習です。

方向性の違いで脱退したメンバーの代わりに、友だちの「奈美」のバンド『ソリッドオーシャン』のギターとして急遽加入したわたし。

楽器の演奏経験はなかったけれど、いろいろと振り切りたくてーーその気になったわたしは、戸部邸の住人の流(ながる)さんやお母さんの支援によってマイ・ギターをゲットして、本格的にギターの道を歩み始めたのでした。

 

@練習場

 

レイ(ベース)「うん、だいぶサマになってきたよ、あすかのギター」

わたし(ギター)「(ノ≧∀)ノほんとう!? うれしいうれしい」

レイ「まだまだ登るべき山は高いけどね」

わたし「(ノ≧∀)ノ……」

 

ちひろ(ドラムス)「レイは口が悪いんだよぉ」

レイ「ち、ちひろだって、ときどき毒舌が飛び出すじゃない。

 ちひろは、は、はらぐr」

わたし「(手を叩いて)はいはい、腹黒なんて言わない」

ちひろ「あすかが言っちゃった」

レイ「(・_・;)……」

わたし「口悪いとか腹黒なんて言い合ってたら、バンドに亀裂が入っちゃうよ」

レイ「(・_・;)……。

   (-_-;)ごめん、あすか」

わたし「謝る相手が違うでしょっw」

レイ「(-_-;)ちひろ、ごめん」

わたし「はいよくできましたーw」

 

レイ「(ピリピリして)…子供扱いしてない? あすか」

 

あ、あれっ。

レイって、もしかして、短気!?

 

場の空気がよどみ始めた…。 

 

レイ「(ピリピリピリピリ)あんま茶化すとあたし、怒るよっ」

 

ちひろ「レイ、おさえておさえて」

レイ「でもねぇっ」

 

わたし「ごめんなさい、わたしが調子に乗ってたから。

 バカにされたように感じたなら、謝る。

 言い方を考えるね。」

 

レイ「…『言い方』って、なによ」

わたし「(カーっとなり始めて)そこ!?

 わたし謝ってるじゃん!?

 もうちょっと素直にならないと、損じゃないかなあ💢

 

レイ「(そっぽを向いて、)ーーあたし今日はもう帰る」

 

ちひろ「レイ……。

 

 レイ、あすかは間違ったこと言ってないよ」

 

レイ「(ムスッとして)ふんっ」

 

 

ちょーっとまったあ、レイ

 

 

レイ「な、奈美。」

奈美「頭冷やすのはとてもいいことだけどさー、バックレる前に、ちょっと1曲聴いていきなよ♫」

 

わたし「奈美、そのCDって、

 トライセラトップス

 

奈美「わかるの!? あすか」

 

 

 

TRICERATOPS

 

 

わたし「トライセラトップスっていうバンドの、『TRICERATOPS』っていうアルバム。

 これはリマスターだけど、オリジナルは、1998年発売」

 

ちひろ「98年って、わたしたち産まれてないよ」

奈美「エヘンw」

ちひろ「エヘンw じゃないよっ。

 でもなんであすかも知ってたの」

わたし「いい音楽に、わたしたちが産まれる前も後も関係ないよ」

奈美「ほら! あすかいいこと言ってんじゃん!!

 ね、レイ?」

 

(だんまりを決めこむレイ)

 

奈美「…あんま素直じゃなさすぎるの、損だよ、絶対。

(と言いつつCDプレーヤーの再生ボタンを押す)」

 

「Raspberry」

 

 

ちひろ「わぁ、こういう曲のテンポやリズム、なんだか好き」

奈美「ちひろは気にいったみたいね」

わたし「ーー気づいたら、邸(いえ)のCD棚にあって。

 お母さんが聴いてたのかな。

 もしかしたら、お父さんがーー」

 

眼を閉じて、

『Raspberry』のメロディーを、

息を吸い込むように、からだに馴染ませる。

 

ちひろ・奈美『……あすか?』

 

わたし「ーーご、ごめん。自分の世界に入っちゃったみたいにして」

 

奈美「よし、わかった。

 クリスマスライブでこの曲、演(や)ろう

 

わたし「うん…それが、いいかもね」

ちひろ「わたしも賛成。

 問題はレイだよ」

 

レイ「ーーあと何回か聴き込まないと、納得できない」

 

わたし「(レイに向かって、できるだけやさしく)そうだよね。

 レイの気持ち、わかる気がする、わたし

 

レイ「ーー他人(ひと)の気持ちなんて、わかるわけないじゃんっ

 

(バーン、とドアを閉めて、レイが出ていく)

 

わたし「あっ……!

 レイ……

 

奈美「アフターサービスだな、こりゃ」

ちひろ「それを言うならアフターケアでしょっ」

奈美「するどい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

その夜。

レイが、とつぜん通話してきた。 

 

 

『(即座に)ごめんなさいっ、あすか!

「(びっくりして)レイ……」

『あたま、冷やしたから』

「わ、わたしも、かなり怒ってたし、悪かったのはお互いさま」

『あ、あすかは…』

「?」

『悲しいときとかーー泣きたいときに、素直に泣くこと、できる?』

 

「ーーできるよ。

 最近、そういうことがあった」

 

『すごいよ、あすかは。

 どうしてあたし、そういう人間らしいことが、フツーにできないのかなー、って』

 

「レイのほうがーーよっぽど人間らしいと、思うけどw」

 

『…………』

 

だって、ケンカしたら、仲直り、できるじゃん?

 

『………あたしの負け。』

 

「勝ち負けじゃないでしょーがっ!w

 

 いっぱいケンカして、

 いっぱい仲直りしようよ。

 

 きっとそのほうが、楽しいよ

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】友情よりも努力よりも勝利よりも……勇気。

お元気ですかー!? 戸部あすかです!! えっ、「きのうの当番もきみだったよね」って?  なんの当番なのかわたしにはよくわからないですが、2日連続の登板であるのは事実です!

 

え? 「ローテーション結構ガバガバだよね」って? よくわかりません!! すみません!!

 

ーーつ、つい取り乱してしまいましたが、きのうはスポーツ新聞部のセンパイのうち、中村創介(なかむら そうすけ)部長以外の3人を紹介したのでした。

となると、残るは中村部長の紹介になるはずなんですけど、きのうにひきつづいて、中村部長がどこかに消えてしまったのです。

 

それでわたし、必死に中村部長を捜索しているところなんです、今…。

 

・校舎

 

「あっ、発見!!

 

× × ×

 

「部長、見つけましたよ、もう逃がしませんよ!!」

「……」

「部活に行きましょうよ!」

「……」

 

(・・;)あれっ?

 

中村部長、

なんかイラついてる?

 

だって、そんな表情。

舌打ちでもしそうな感じに、イライラしてる。

 

部長っぽくないーー、

ストレス?

やっぱり、受験前特有の、ストレスみたいなものが、表に出ちゃってるのかな。

でも、それはやっぱり、部長っぽくないーー。

 

ちくしょう

「(ビクン)」

「ああ、つい口に出ちゃったね、イライラしてるのが。

 ごめんあすかさん」

「(・・;)あの、無理に部活に出なくても、学業、というか受験勉強優先で…」

「ボクはそんなことでイライラしてるんじゃないの」

「Σ(・・;)えっ」

ジャンプが」

「じゃ、ジャンプが?」

「ジャンプが…、

 ジャンプが…、

 

 売り切れだったorz」

 

「(-_-;)部長のストレスの原因、もしかして」

「orz そう、ジャンプが売り切れで読めないこと」

 

「(-_-;)……、

 (^_^;)…き、『鬼滅の刃』が人気出過ぎで、売り切れちゃったんでしょうか」

『鬼滅』は関係ない

「Σ(^_^;)ビクッ」

「orz 鬼滅のせいじゃない…連載漫画や編集部のせいじゃない…おれの力が至らなかっただけだ。

 おれがコンビニにもう少し早く行っていれば!!

 おれに空が明るくなる前から起床できるガッツがあったなら!!

 

 ちくしょうちくしょう(廊下をガンガン叩く)」

「ろ、廊下を叩かないでください」

「あすかさん、週刊少年ジャンプの三原則は知ってるよね」

「友情・努力・勝利…でしたっけ?」

「(大声で)努力!!!

「ヒエェッ」

「努力が足りなかった、努力!!!

 

あ、

中村部長が廊下を殴ったはずみで、

部長のカバンから、

部長の志望校の赤本が、転がり出た。

 

「orz 安西先生…ぼくはまるで成長していませんでした…ジャンプが、ジャンプが読みたいです……」

「部長」

「orz」

「ジャンプも大学受験も、あきらめたらそこで試合終了だと思うんですけど、」

「う」

「(赤本を見せて)この大学、偏差値どれくらいなんですか」

「(赤本をさりげなく奪い取って)あ、ああ、そんな高くないよ。無理して勉強して入るような大学ではない」

「それって、つまり、いわゆるボーダーフ」

じ、地元では、わりと有名らしいぜ!?

 

 

ーー、

中村部長の言う『地元』とは、

九州地方のことなのだ。

 

そう、

中村部長の志望校、

実は福岡県の大学なのです。

 

つまりーー、

もし、部長が志望校に合格したら、

部長は福岡に住むことになる。

それは、つまり、

もちろん部長がここ(東京)を離れて、はるか九州の福岡に移り住むということであって、

そのことが、なにを意味しているかというと、

 

中村部長と、

マオさんが、

離ればなれになってしまうということ。

 

マオさんは、卒業したら、実家の『笹島飯店』を継ぐ。

中村部長は、大学に合格してしまったら、九州に飛んでいって、

マオさんの近くから、いなくなってしまうーー!

 

 

「部長。」

「はい…。」

「部長は。

 ジャンプとマオさんの、どっちが大事ですか?」

 

「…それは、答えるまでもない」

 

「い、言ったんですか、もう、マオさんには」

「うんにゃ」

「でも、いつかは言わなくちゃ、部長!」

 

苦虫を噛み潰したような顔になる、部長

 

わたしは…、

友情も、

努力も、

勝利も大事だけど、

 

勇気だって、大事だと思う。 

 

自分を信じて、部長。

ジャンプの主人公が自分を信じるみたいに、自分を信じて。

勇気を振り絞ってください。

マオさんに、打ち明けてください。

 

マオさんーー、

悲しむかな。

泣くかな。

 

でもーー『ここから先』は、

部長とマオさんの問題。

わたしが踏み込んじゃいけない。