【愛の◯◯】謎がいっぱい、ワンダーランドなスポーツ新聞部(!?)

ハロー元気ですか? 戸部あすかです!! なんだか寒くなってきて朝起きるのにエネルギーが要りませんか? 大丈夫ですか? わたしはかろうじて大丈夫で、今朝はなかなかベッドから出ることのできない自分の兄をベッドから引きずり下ろしたりしたんですよ。

 

えっ?

 

「お兄さん、かわいそう」って? 

 

(;・∀・)……。

 

そ、それはともかく!

 

わ、わたしは「スポーツ新聞部 」という部活に入っているんでして!

 

週明けということで(?)、今回はあらためて「スポーツ新聞部」の構成員であるところのセンパイがたを紹介したいかなー、と思うんです!!

 

 

× × ×

 

瀬戸 宏(せと こう)さん 2年

 

「2年の瀬戸さんはスポーツ新聞部の【水(みず)】担当で、主に水泳の記事を作っておられます」

 

「(^_^;)…どこに向かってしゃべってるの? あすかさん」

「不特定多数です」

「(^_^;)………、

 おれ水泳ばっか取材してるわけじゃないんだぜ。ほら、ボート部だったりとかさー」

「でも瀬戸さんは元スイマーなんですよね」

「(゜o゜; ど、どうしてそれを!?」

「あれ?

 瀬戸さん言ってませんでした? 自分から」

「(゜o゜; そ、そうだっけ」

 

「水泳部といえば、瀬戸さんの同級生の神岡恵那(かみおか えな)さんは練習熱心で有名ですね。今や代替わりした水泳部の女子のエースと言ってもいいという評判でーー」

「(^_^;)恵那はおれが取材するのを嫌ってるけどね」

「でも、

 瀬戸さんに取材されるのが嫌いなんであって、

 瀬戸さんのことは嫌いじゃないんでしょう?

 同じ中学で、むしろーー」

「(-_-;)恵那とはなんにもないよ」

 

ガタッ

 

 

「桜子さん!?」

「さ、桜子どうしたんだ!? おまえの机が激しく揺れ動いたぞ」

 

一宮 桜子(いちみや さくらこ)さん 2年

 

「なんでもないわよ」

「ほ、ほんとですかぁ、桜子さん」

「あすかさん」

「は、はい」

「わたしを日本全国のはてなブロガーの皆さんに紹介したいんじゃないの?」

「あ、あくまで、不特定多数という名目ですから!」

 

「日本全国のはてなブロガーの皆さま」

「その気になってる、けっきょくw」

「桜子さんはスポーツ新聞部の貴重な女子で」

ポリティカル・コレクトネス」

「ど、どういう文脈でポリティカル・コレクトネスなのかはわかりかねますが…」

「日本全国のはてなブロガーの皆さん、お初にお目にかかります。

 一宮(いちみや)です。

 なぜか、『いちのみや』ではありません。

 

 格闘技担当で、

 柔道部や剣道部の取材に行くことが多いと思います。

 あ、この学校、ボクシング部もあるんですよねー。

 高校ボクシング以外にも、先日の井上尚弥選手の試合の記事も担当したりしました。

 あすかさんも当然あの試合、観たわよね?」

「む、無茶ぶりはやめてください、」

「あれ、あすかさんはボクシングに詳しいと思ったのに」

「なぜに!?」

「お兄さんの影響で」

「あ、兄はボクシング部にはあまり出入りしなかったと言っておりましたが」

「隠したって無駄よ」

「(;・∀・)……」

 

「(;・o・)さ、桜子さん、」

「なあに?」

「わたしのこと『さん』付けで呼ぶんですね、前は『ちゃん』付けで呼んでくれたのに……」

「さみしそうw」

「どうして…」

「あのねえ。

 気分によって、『さん』付けになったり『ちゃん』付けになったり呼び捨てになったりするものよ。

 わたしのクラスの担任の先生がそうだから」

「(;・o・)……」

 

「『ちゃん』付けに戻してほしい?」

「ど、どちらでもっ」

「じゃ、

 あすか『ちゃん』。」

「す、少しうれしいかもです」

 

 

岡崎 竹通(おかざき たけみち)さん 2年

 

「2年の岡崎さんです。【陸(おか)】の担当で、陸上競技そのほかいろいろ。ラグビーワールドカップのときはいろいろ手伝ってくださいました。いろいろお世話になってるセンパイです」

 

「いや~それほどでも」

「ところで岡崎さん、」

「?」

この部活、顧問の先生は誰なんですか

 

「え、えっ、部員の紹介じゃなかったの」

「でも部員を紹介するからには顧問の先生も取り上げないと」

「そ、そんなもんかな」

「そんなもんでしょう」

 

「(ほっぺたをポリポリかきながら)こ、顧問については、部長を窓口にしてほしいかなーって」

 

「でも部長、今いませんよ」

「そっそうだね。神出鬼没だし部長は」

「せっかく部長にも突撃インタビューしたかったのにぃ」

「もっ、もういくつ寝ると大学受験だしさあ。

 いろいろ忙しいんじゃないのか? なんだかんだ言ってもーー」

 

「置き手紙みたいのがあります、部長の机の上に」

「あ、ほんとだ」

「ルーズリーフに、何やら大きな文字で、カタカナのーー人名ですか? これ」

「カタカナ4文字だ。

 ダイイング・メッセージじゃあるまいしーー、

 なになに、

 

 

 

 

スミヨン』」

 

「ーーどちら様ですか? スミヨンさんは」

「知らないよ。

 (;-_-)…でもどうせ、競馬の騎手の名前とかだと思う……」

「…だとしても、この『スミヨン』の4文字は、いったい何をいわんとしてるんでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】チキンライスたべさせてくんなきゃやだやだやだやだ!

ニチアサ

 

「~ムニャムニャ」

 

♫ピンポーン♫

 

あれ、誰かおれんちに来た。 

 

『おはよう、おばさん。

 ギン、まだ寝てるの?』

 

ルミナかよ。 

 

ドドドドドドドドドド

 

階段を駆け上がってくる足音。

起こされる。 

 

ガンガンガンガンガンガン

ドバーン

 

「(布団にもぐったまま)ああルミナちゃんおはよう」

 

「もう10時なんだけど」

「ほんと? さむいねー」

「(布団を剥(は)ごうとして)起きなさい💢」

 

× × ×

 

「何の用」

「べつに…」

「おれを起こすためだけに来たとかw」

「べつに……」

 

まあいいや。

ルミナの好きにさせておこう。

音楽雑誌でも読むか。

 

 

音楽誌『開放弦のバックナンバーより

 

1999年の邦楽について

 

圭二「1999年。ノストラダムスの恐怖の大王とか言われてましたが、もう20年前ですよ。はやいですねえ~」

小鳥遊「わたし4歳でした」

圭二「わかいですねえ~」

イチロー「ぼくと圭二は11歳」

圭二「小学5年生だったわけだ」

イチロー「この年いちばん売れた曲は--言われなくてもわかるよ。

『だんご3兄弟』だろ」

小鳥遊「幼稚園で毎日歌ってましたね~」

イチローモーニング娘。の『LOVEマシーン』も、だんご3兄弟同様、社会現象みたいだったけれど…」

小鳥遊「幼稚園で毎日歌ってましたね~」

イチロー「(=_=;)」

 

圭二「宇多田ヒカルも社会現象だったね」

イチロー「宇多田といえば、浜崎あゆみも社会現象だった」

圭二「椎名林檎のナース服も社会現象」

小鳥遊「社会現象のオンパレードですね!!」

イチロー「(=_=;)」

 

 

「ーーとまあ、こんな調子で、この雑誌、どこまでがギャグでどこまでが本気かわからないわけだ。

 とくにこの『圭二』っていうひとが担当してる記事は。

 新入社員の『小鳥遊』さんが登場してから、さらに収拾がつかなくなっちゃってるのが、逆に前よりも面白おかしくてーー」

 

「ギン、自分の世界にはいんないでよっ」

「ああごめんごめん、この『開放弦』って雑誌、売れ行きがどうかは知らないけど、ぼくは面白いと思って読んでるんだ」

「あ、そう。

 

 ギン、あんたのPCに入ってる音楽、流すね」

「ひとのパソコンを断りもなく…」

「エロ画像でも隠してんの?」

「…やれやれ」

「隠してないんならいいでしょ」

「…やれやれ」

村上春樹かっ💢」

 

「ギンこのPC重すぎ💢」

「買い換えるお金がない」

「このPCがかわいそうだよ」

「いまあるものを大事にするしかないんだ」

「ギンが物を大切にするようにはみえない」

「(棒読みっぽく)ひどいな~」

 

「ああっもうイライラする💢」

「どして?」

「というかアタマ痛い💢」

「偏頭痛?」

「そんなところかもね💢」

「ストレスだな」

「ちがうもん💢」
「ルミナが『ちがうもん』って言うときは、違わないときだw」

 

(押し黙るルミナ)

 

ギン……、

 

 あたし疲れた……

 

「公務員試験の勉強」

 

どうしてわかるの……

 

「なんとなくw」

 

(ルミナ、床に腰を落とし、ベッドに力なく寄りかかる)

 

「大丈夫か? 魂が抜けたみたいに。

 頭が痛いんならバファリンでも持ってきてやろうか」

 

(ルミナ、おれに寄り添い、右肩にじぶんの頭を乗っけてくる)

 

「おいおい」

 

ギンにたすけてほしかったの

 

「おれんちに来た理由が?」

 

ギンのへやにきたら……おちつくとおもって

 

「まいってんなあw」

 

ギン……どうなったら、あたしげんきになれるとおもう?

 

「ま、もうすぐ昼だし、メシでも食ってけよw」

 

おばさんのチキンライス。

 おばさんのチキンライスがたべたい

 

「ーー5年ぶりだな。

 おまえが母さんのチキンライスを所望(しょもう)するの」

 

おばさんのチキンライスたべたい、たべさせて。

 チキンライスじゃなきゃやだ

 

「わがまま言うなよ、材料がないかもしれないだろう?」

 

やだやだやだやだ!

 

「ーーわかったよ。

 母さんにチキンライス作れるか、訊いてくる。

 材料なかったら、おれが近所のスーパーまで買ってくる。

 それでいいだろ?」

 

「(おれの右肩に顔をうずめて)

 ギン……ごめんね。

 あんたのパソコンに、ひどいこといって

 

「謝るの、そこかよww」

 

ギンにはあやまりたくない。

 

 

 ありがとうーー、って、いいたいんだもん

 

 

 

【愛の◯◯】愛とさやか、ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』を出発点にしゃべり倒し、いろいろ脱線して、川又さんの眼を回す

放課後

図書館(愛の文芸部の、活動場所)

 

「アッさやかだ」

「ハロー、愛」

「(右手をさかんに振りながら)さやかがここ来るなんて、めずらしいじゃな~い」

 

「(・・;)…どしたの、愛?

 …その挙動は。」

 

「ん?

 あっw

 いけないいけない…、

 無意識のうちに、シェイクハンドしてたw」

 

 

「(゜o゜; …シェイクハンドって…卓球?」

「そう。きのう、卓球したの」

「どこで? だれと?」

「児童文化センターで。

 小学5年生の男の子と」

「(゜o゜; えっ………」

「大人げないなー、わたしw

 

 10連勝しちゃったw」

 

ーーほんとうに大人げない愛なのだが、 

でも結局、その男の子の要望には応えて、

エレクトーンでKing Gnuの「白日」を弾いてあげた、

そうな。

 

× × ×

「『白日』、ねえ。あの曲、GRAPEVINEと紛らわしいよね」

「そうなのよ。

 それで間違えて、さいしょはGRAPEVINEのほうの『白日』弾き始めちゃって」

「そりゃーその男の子も戸惑うよ」

 

「ーーで、

 こんな話するために、わたしはここ来たんじゃないの」

「なんの話、しに来たの?」

「(少し恥ずかしくなりながらも)…、

 文学談義。

 ここ、文芸部なんだし。

 

「へー」

「愛はさ、」

「なに?」

「この小説…読んでるよね」

 

(カーディガンのポケットから文庫本を取り出す)

 

 

シッダールタ (新潮文庫)

 

 

シッダールタ (新潮文庫)

シッダールタ (新潮文庫)

 

 

「もちろん読んでるけど、

 これ、わたしが知ってる『シッダールタ』じゃない」

「!?」

「表紙がもっとシンプルだった。

 新潮(文庫)のヘッセっていえば、薄い水色みたいな装幀で、表紙の上のほうに題名が明朝体で書かれてて」

「あー…愛、あんたの言わんとしてることは、だいだいわかる」

「小綺麗になったのね」

 

・愛の文芸部の後輩の川又さんが、旧・新潮文庫『シッダールタ』を書棚から持ってきてくれる

 

「羽田センパイ、青島センパイ、これのことですよね」

 

「あ~そうそう、川又さんありがとう」

「ゴメンね、川又さん。

 こんど『メルカド(←喫茶店)』でなんかおごってあげよっか」

(@_@;)!? 青島センパイ!?!?

 

そんなにおどろかなくてもw 

 

 

「さやか、本題はもちろん装幀のことじゃないのよね」

「うん。

 

『シッダールタ』のいちばん最後の章でさ、シッダールタの親友だったゴーヴィンダが、川の渡し守になったシッダールタと再会するじゃない?」

「そもそも章名が『ゴーヴィンダ』だったでしょ?」

「(^_^;)…よく憶えてるね。」

「それでシッダールタ君とゴーヴィンダ君が最後の対話をするのよ」

「(-_-;)…よく憶えてるね。

 シッダールタ君もゴーヴィンダ君も、このときはもうおじいちゃんだけどね」

「で?」

「わたしが考えてることはね、

『ことばを否定しつつことばを紡(つむ)ぐ』っていう作家の営みって、いったいなんなんだろうか、って。」

「(即座に)ああ、それでヘッセの『シッダールタ』なのね」

「わかる?」

「わかる」

 

「最終章で、シッダールタは『ことば』から解き放たれてるように思う。

 もっといえば、『ことば』を重く見ない、どころか『ことば』に否定的になってる。

 でも『シッダールタ』っていう作品ーーというより、テクスト、っていったほうがこの場合いいのかなぁーーともかく『シッダールタ』自体は、間違いなく『ことば』で紡がれてる、『文学』なの」

「わたしには文学理論のことなんてよくわかんないけど」

「うん……」

「テクストとかテクスト論とか『作者の死』とか受容理論とかどうこうはおいておくとして、シッダールタはヘルマン・ヘッセじゃないし、ヘルマン・ヘッセもまた、シッダールタじゃない」

「でも『シッダールタ』読むときに、ヘッセっていう作家の存在や、ヘッセの意図を全部カッコに入れちゃうなんて無理でしょ」

「そうね。『作者』を殺すのもケースバイケースね」

「だったらやっぱりシッダールタと同じようにヘッセも『ことば』を否定してる。

 否定しながら、シッダールタが『ことば』を否定する『ことば』を『ことば』によって創(つく)り上げてる」

「ややこしいわねw」

「うん…でも、ここでは、『文学』が矛盾のようで矛盾じゃない。

 ーーいったんはそう理解するけど、やっぱり矛盾じゃないようで、矛盾してるようにも思っちゃう」

「『シッダールタ』の矛盾?」

「『シッダールタ』の矛盾だし、『シッダールタ』に出てくるシッダールタの矛盾だし、『シッダールタ』を書いてるヘルマン・ヘッセの矛盾でもあるし」

「でも、気づいてみれば、一貫性を認めてしまうんでしょ」

「うん。もう一度ふりだしに戻る。『シッダールタ』では、『文学』が矛盾のようで矛盾じゃないよね、って」

 

「…わたしはね、この最終章だと、

『愛こそいっさいの中で主要なものである』と自分は思ってるんだ~ってゴーヴィンダに言い放つように、シッダールタが『愛』を強調しているのが、ことばや思想の否定っていうテーマよりも気になっちゃうんだけど」

「でもシッダールタは『ことばを愛することはできない』って言ってるよね、『私はことばをひどく疑う』って言ってるよね。

 それはやっぱり、ことばに対して『愛』や『信頼』がないってことでーー、

 だからここでいちばん重要なのは、ことばに対する否定的なニュアンスであって…、

 ごめん、読み込んでないからうまく整理できなくて。

 わたしが言い出しっぺなのにね」

「『ことばを愛せない』『ことばを信じられない』ってシッダールタは言うけどさ」

「うん…」

「ヘッセは絶対ことばを愛してるし、ことばのちからを信じてるよねw」

「ーーほんとだ。きれいに矛盾してる」

「そう、矛盾してるけどその矛盾が清々(すがすが)しいほどきれいなのよねw

 だってことばを愛してなくてことばを信じてなかったら、絶対こんなの書けないよっ!」

「ーーそこが、ヘッセが一流の書き手である所以(ゆえん)なのかも」

「一流・二流・三流っていう分けかたはわたしは好きじゃないけど、ヘッセが後世に残る、残っている所以、『シッダールタ』が読まれ続けてる所以…っていうんだったら、しっくりくる」

「そうだよねえ、『一流の書き手』なんて形容、ちょっと紋切り型過ぎたかw」

 

「『ことばを否定しつつことばを紡(つむ)ぐ』、だっけか」

「そう、ヘッセに限らず、そういう作家の営みってなんなんだろうか? って」

「ほんとにヘッセって、ことばを否定してるのかしら」

「えっ!?」

「こう言ったほうがいいかなーー『単なることばの否定じゃない』『ことばを否定するということに留(とど)まっていない』」

「ことばを否定する『だけでない』としたら、ことばをどうしたいんだろ、どうしたかったんだろ、ヘッセは」

「うーん、

 まず、ことばに対する圧倒的な信頼があって、」

「ことばに対する圧倒的な信頼、って、一般論ぽくて、正直わたしはあんまし好きじゃないな」

「でも、さっきも言ったとおり、ヘッセはことばを愛してるし信じてるよ」

「……」

「……」

 

(しばし無言になる)

 

× × ×

 

「わかった」

「えっ、なにがわかったの? 愛」

「さやか、ヘッセは、ことばをことば以上のものにしたかったんだよ」

「ことば以上のもの……、

 しっくりくる気もするし、しっくりこない気もするし、個人的にはあんましっくりこないかもしれないw」

「わかるよw思いつきだったしw

 

 でも、たとえばカントの哲学書を読むとして、やたら『超越的◯◯』とか出てくるじゃない」

「『純理(『純粋理性批判』)』とかね」

「そーそー。ドイツのほかの哲学者も含めて、『超越』って概念が共有されている、気がして」

「気がするだけかもしれないよ」

「それでもさ、ドイツ語で考えたり書いたりするうえで、哲学者だけじゃなくて文学者も含めて、『超越』っていう、うまくまだ説明できないけど…『超越』っていう働きが、作用する……って言えばいいのかな? とにかく書かれたものには、『超越』っていう働きが介在してて、その『超越』の働きはテクストとテクストのあいだで共有のもので」

「『超越』『超越』って、なんか堅苦しくない?w」

「うん、堅苦しいね、哲学事典も参照してないし、やたら『超越』を連発するのは良くない気がしてきた。

 でも、『ことば以上のもの』ってわたし言っちゃったけど、『超越』が堅苦しいなら、そうだな、たとえばさやかが読者としてヘッセの書かれたものを読むよね、そのとき、眼の前で記(しる)されてる『ことば』を『飛び超(こ)えていく』、なにか…を感じることは、ない?」

「その『なにか』が『なんなのか』が肝心だと思うけれど。

『シッダールタ』に関しては、とくに最終章で、ことばを否定するような語りかたをして、そのうえで、ことば『によって』ことばを『乗り超(こ)える』ような試みをヘッセという書き手が『実践』している。

 そういう印象、かな」

「ねえさやか、ヘルダーリンっていう詩人、知ってる?」

「名前だけは…」

ヘルダーリンの詩を読んだりすると、『ことばを飛び超えていく』、あるいは『ことばを乗り超えていく』感覚が、ヘッセよりもあからさまに鋭く印象づけられるなー、って」

ヘルダーリンか…」

 

「なんか脱線しちゃったね、さやか」

「ずいぶん時間が経っちゃった」

川又さんも眼を回してる

「(^_^;)あっ…。

 なんか、わたしと愛で、二人だけの世界に入っちゃった」

「まあ機会があったらヘルダーリン読んでみたら」

「ヘッセがヘルダーリンに化けちゃった」

「まあ…文学談義なんて、ねじれてナンボでしょ」

「(^_^;)それはどうかな……。

 

 ま、いいや」

 

 

 

 

【愛の◯◯】小学5年生の感想。JKってよくわかんねーや

おれ、長野源太(ながの げんた)

 

小学5年生。

 

好きな教科は、社会。

 

ちょうど1年ぐらい前

児童文化センターで、

とあるJKのねーちゃんと出会い、

日本史の話しをした。

 

それから数カ月後

たしか2月だった、

そのJKのねーちゃんに、

また児童文化センターで出くわして、

エレクトーンで米津玄師のLemonを弾いてもらった。

 

それ以来、

児童文化センターには、

行っていなかった。

 

だけど、

小学校でとあるウワサが広まっていて、

そのウワサを確かめるために、

ひさびさに、きょう、放課後、

おれは児童文化センターにやってきたわけだ。 

 

「彼女」は、

そのウワサの張本人であるJKのねーちゃんは、

おれが来てから30分後、センターの入り口の自動ドアに、

すがたをあらわした。 

 

「こんにちはー、

 

 

 

 !!

 

「やぁ」

「ひっ久しぶり!! 去年の冬以来じゃないの!?

 何やってた? 元気してた?」

「そっちこそ」

「そもそも、どうしてここに来たの?」

「来ちゃ悪いかよっ」

「ごっごめんそうね、そうね、

 でもなんだかあんた、わたしを待ちかまえてたみたいーー」

「そうだよ」

「どして?」

「そのまえに『あんた』はやめてくれ」

「名前で呼んでほしいってこと?」

「ーー源太って名前が、あるんだけど、」

「ゲンタくんね」

「漢字だと、源氏の『源』に太郎の『太』」

「わざわざ説明ありがとう」

「…」

「ど、どしたの」

「…くん付けはあんまり好きじゃない」

 

「えっ……。

 

 わたし、じぶんの弟以外の男の子、呼びすてにしたことない…」

 

「そんな困った顔しないでくれよぉ」

 

「………やっぱ、くん付けにするね、源太くん」

「なんで?」

「ーーそれよりも!

 源太くんはどうしてわたしが来るのを待ってたのかな?」

「ねーちゃんの目撃談」

「(ギクッとなって)あ、あっちゃー、バレちゃったかー」

「ねーちゃんがここに通ってること。

 それに加え、

 ジョギングしてたとか、サイクリングしてたとか、

 プールに泳ぎに来てたとか、いろいろ」

「そ、そんなにあるんだ、目撃談」

「だからねーちゃんがほんとにここの常連なのか確かめたかっただけ」

「バレたか」

「ねーちゃん、高校でぼっちなの?」

「ぼっち、って、ひとりぼっちってこと?」

「そこからかよ」

「そんなわけないでしょ」

「完全否定かよ」

「あなたこそ、前に会ったときは2回ともひとりで来てたよね、

(なぜか心配そうに)友だち、いないの」

「…いないんじゃない。

 でも、小学生は、いろいろいそがしいんだ」

「たとえば?」

「塾とか」

「受験の?」

「そう、中学受験」

「わたしも中学受験していまの学校に入ったのよ」

「知ってるよ。名門なんだろ」

べつに?

「ねーちゃん髪が長すぎるよ。きびしくないの? そんなに伸ばすなとか言われないのかよ」

べつに♫

 

× × ×

 

「…まあ、友だちと遊べなくて、さみしくなったら、ここに来ればいいんじゃないのかな。そのための、児童文化センターなんだし」

「さみしくねーよ」

「ウソでしょ」

「…べつに」

 

「なー、ねーちゃん」

「わたし『ねーちゃん』っていう名前じゃないの」

「バカっ知ってるよ。教えてくれよ、名前を」

「言った気がするけど」

「バーカ忘れてるに決まってんだろ、何ヶ月前だと思ってんだよ」

「『バカ』って言わなくなったら教えてあげる」

「やだ」

バカ!

 

「…ほんとにかしこいのか? ねーちゃん」

「(恥をかいたような顔になって)…はねだあい、

 羽田空港に、恋愛の愛。

 愛って漢字、書ける?」

「うん」

 

「……どうして書けるの……」

「ナメてんのか💢」

「(スケジュール手帳みたいなのを出して)じゃあここに書いてみて」

 

(書く)

 

「…うん、あんまり字はきれいじゃないけど、あってる」

「愛ねーちゃんって呼ぶぞ」

「そうね、みんな『アイねーちゃん』って呼んでるから」

「どんだけなじんでんだよ、センターに。

 やっぱぼっちなんじゃないの!?」

「ちがうから。女子高生もいろいろいそがしいんだから」

「恋愛とか?」

 

 

「源太くん、あなた何年生なの…」

「5年だよ」

卓球

「は!?」

卓球、やりましょ?」

「はぐらかす気かよ!?

 図星、ってやつかひょっとして!?」

「いい言葉を習ったわね」

「あんまりいい意味じゃないんじゃないのか、『図星』って」

てかげん、してあげるから」

「そんなに卓球やりたいのかよ!?」

「(立ち上がって)いっとくけど、わたし強いわよ、てかげんしないと源太くん勝てないんだから」

「どこ行くんだよ」

「卓球場にきまってるでしょ」

「おれが勝ったらエレクトーン弾いてくれよ」

「いいわ。

 でも源太くんが勝つまでに、わたしは何連勝するかしら」

「キレてんのかテンパってんのかわかんねーぞ、愛ねーちゃん」

「フフフ…w」

「なに笑ってんだよ」

 

 

 

 

 

× × ×

 

ところがーー、

 

愛ねーちゃんは、

ほんとうに強かった。

 

 

 

【愛の◯◯】四の五の言わずアップルパイ食べないとオーブンにブチ込むわよ!?

こんにちは!

だいぶ、寒くなってしまいましたね!

アカ子です! 

 

ーー、

えーっと、

きょう、朝からずっと自宅にいるんですけど、

サボりとか登校拒否とかではなくて、

ほら、わたしの学校、土曜が文化祭だったでしょう?

それでーー振替休日です。

 

 

 

そして、

なぜかわたしは、

蜜柑のために、

アップルパイを焼いているんです。

 

蜜柑が焼いてるんじゃないんです。

わたしが焼いてるんです、

アップルパイを。 

 

「ーー料理は、作るより食べるほうが好きなんだけれど、じつは」

 

『きこえてますよおじょーさま』

 

「蜜柑💢

 まだ焼き上げてないわよ?」

 

「お嬢さまのエプロン姿も微笑ましいですねえ」

 

「は、ハルくんには内緒よ」

「見られたくないんですか?」

「は、はずかしいんだからっ」

 

「アカ子さん、料理できないわけじゃないのに、作るより食べるのが好きなんですか…ちょっとガッカリです」

「作るのが嫌いなわけじゃないわ。

 でも、蜜柑、あなたがいつも作ってくれるごはんが美味しすぎるのがいけないのよ

「え~っ、なんですかそれ」

 

構わず、オーブンに向かうわたし。

 

「でも食べるのが好きだっていうの、アカ子さんらしいかも」

「らしい、ってなによ」

いくら食べても太らない体質w」

「あのねえ…💢(ピクピク)

 

 オーブンにブチ込むわよ!!

 

× × ×

 

「ごめんなさい…言い過ぎた」

 

(焼きたてのアップルパイをテーブルにのっける)

 

「あなた、これ好きだったでしょう」

「はい、わたしこれ大好きなんですよね」

「『アップル』パイがいいの?」

「リンゴが好きなんですよ♪」

「名前が蜜柑のくせに。」

「オレンジパイってあるんですかね?」

「さあ? レモンパイよりポピュラーではないわよね。

 それより、早くしないと冷めるわよ。

 あなたが『焼いてほしい』ってわたしにリクエストしたんじゃないの。」

「そういえばそうですね」

 

(黙々とパイを切り分けるわたし)

 

「(紅茶をお互いのカップに注ぎ入れながら)う~ん、いい匂い♪」

「『わたしのワガママを聞いて下さいっ!』って突然あなたが言い出したときは、ちょっとビックリしたけど」

「(アップルパイに眼を落とし)……」

もっとワガママ言ってもいいのよ、蜜柑

「………いいんですか?」

「今回はそのワガママの結果がアップルパイだったわけだけれど、ほかのことでも」

「ーーー」

「どうしてそこで静かになるのかしらw

 

 蜜柑、最近あなた、なにか思い悩んでいたんじゃないの?

 なにか、暗い過去を思い出したとか」

 

 

 

どうしてわかったんですか……

 

 

「(椅子の背にもたれて)ま、あなたも昔はいろいろあったからねえ、高校生のときとかーー、」

そ、それ以上はダメっダメダメっ

「あーらw

 蜜柑らしくない慌(あわ)てかたね?w

 

 熱いうちにアップルパイ食べて、

 元気出しなさいよ。

 

アカ子さん…

「どうしたの?」

いえ……

「感激して、口数が少なくなっちゃったのかしら」

そうではないんです、

 わたし…わたし…

「??」

猫舌で

Σ(^_^;)

 

 

 

【愛の◯◯】さやかさん、大変なんだから…。

・11月2日(土)

 

蜜柑です!

きょうは、お嬢さま…アカ子さんの忘れ物を届けに、文化祭が催(もよお)されている学校までやってきたわけです。 

 

それで、無事アカ子さんに忘れ物を渡して、これからどうしようかな~と思っていたら、何やら野外で吹奏楽の演奏会がやっているではありませんか。

……、

吹奏楽部も、あいみょんの曲とか演奏するんですねえw

 

わたしには演奏の良し悪しなんてすこしも分かりませんが、指揮棒を振っているのが、ずいぶん若い男の先生なのは気になりました(いやらしい意味ではなく)。

 

曲目がいきものがかりの「ブルーバード」に変わったところで、ふと眼を転じると、

アカ子さんのお友達の、青島さやかさんが、

一心不乱に、吹奏楽部の演奏を見つめているではありませんか。 

 

演奏終了

 

\パチパチパチパチ/

 

「こんにちは~」

「!? みみみ蜜柑さん!? どうして学校に」

「(^_^;)…そんなに衝撃を受けなくてもw」

 

 

× × ×

吹奏楽、お好きなんですか?」

「クラシックは好きですけどーー、

 す、すみません、答えになってなくて」

「いえいえ、わたしの訊きかたが悪かったかもしれませんし」

 

「ずいぶんお若い先生が指揮をされてましたね」

「荒木先生です。

 わたしの兄より年下なんです」

「へぇ~へぇ~」

「と、トリビアでもなんでもないと思うんですけど……、

 荒木先生には音楽の授業で、中等部のころから教わっていて、」

「なるほど、」

「(・・;)ーーなにを納得されたんですか?」

「さやかさんは、

 好きだと」

 

「え、え、え、え、え、え、」

 

「荒木先生のことが好きなんですね」

 

「どうしてわかったんですか……」

 

「それはですね…、

 さやかさん、ブラスバンドのほうじゃなくって、指揮者の荒木先生のほうを、さっき、ずっと見つめてましたし、

 ましてやいま、すごい狼狽(あわて)ぶりですから」

 

年上ーー、

しかも教師かあ。

 

その発想はなかった。

 

でもーー、

わたしがKくんのことを見つめてるみたいな、

見つめかたで。

 

不意に、

Kくんに失恋して絶望に陥(おちい)ったことが思い出されて、

わたしの気分は暗くなる。

 

さやかさんーー、

その恋は、つらくきびしい恋になってしまいそうな気がして。

大変ーー。 

 

「大変なんだから。」

 

「み、蜜柑さん!?」

「(;・・)すみません、独(ひと)り言です。」

 

「ーーなにかあったんですか蜜柑さん!?

 すごく後ろ向きな顔してるーー」

 

「(肩を落として)わかりますか。」

「アカ子と大ゲンカでもしたとか!?」

「そんなわけではないんです。

 少し前のことを思い出してたんです」

「もしかしてーー蜜柑さんも、こ、高校時代にーー、」

「いえ、わたしは『先生』ではなかったんですけれど、」

「は、はい…」

 

「さやかさん…、

 さやかさんは、強いんですね」

!?

「逆境を、恐れない」

「逆境…ああ、まあ、わかります」

「フラれるとつらいですよ」

「それは十二分にわかってます、覚悟してます」

「強いですね。」

「いいえ、蜜柑さんと比べたら…、

 

 それより、どうしちゃったんですか、きょうの蜜柑さん。

 天真爛漫というかーーいつもニコニコしてて、元気で明るいのが蜜柑さんだって、勝手ですけど、わたし思ってます。

 

 たまにはーー弱音を吐いてもいいと思うんですよ」

「だれに?」

「アカ子に。

 帰ったら、アカ子とお話ししてみたらどうですか」

「お話し、ですかーー」

「気分が乗らないときには、正直に伝えたらいいじゃないですか」

 

ああ、

そっかーー。

 

アカ子さんに、ストレートに自分の感情を表現できたこと、

言われてみれば、

そんなにない気がする。 

 

自分の感情に素直になれなくて、

それでアカ子さんを困らせたことのほうが、

ずっと多かった。

 

「蜜柑さん、おなかすいてませんか?

 あそこで焼きたてのアップルパイが食べられるみたいですよ」

「いいですね、アップルパイ。

 食べたら元気が出そう。

 

 お嬢さまにも焼いてあげようかしら、アップルパイ」

「そこは逆にアカ子にやらせるんですよ、アップルパイ作るのw

 職務放棄ですよw」

「まあ、職務放棄とか、物騒なwww」

 

 

 

 

【愛の◯◯】元気な愛が好き

文化祭がある、ということなので、

愛の学校に来てやった。

 

校舎

 

「いろんな出店があるなあ。

 

 愛のクラスは……、

 ここか」

 

お好み焼き、食べませんかぁ!?』

 

お好み焼き屋をやってるらしい。 

 

「そうだなあ。もうお昼だし、食べていくよ」

『やったあ! ありがとうございます』

「それとさ……」

『?』

「羽田愛って子、いるだろ」

 

その瞬間に、おれを呼び込んだ愛のクラスメイトの子が、

ニヤけた。 

 

× × ×

愛のクラスの教室(お好み焼き屋)

 

『羽田さん、アツマさんが来てくれたよwwwwwwwwwwwwwwww』

 

(一心不乱にホットプレートでお好み焼きを焼き続ける愛)

 

(一方、おれの周りに女子生徒が群がってくる)

 

なぜか、質問攻めにされるおれ。 

 

「わ、わかった、順番に答えるから、」

 

アツマくん!!

 

 その前に、さっさと席に座ってよ💢」

 

「(-_-;)はい」

 

 

・愛がお好み焼きの皿を運んでくる

 

「このお好み焼きなんでこんなデカイんだ」

「アツマくんだから」

「は?」

「アツマくんだったらこれぐらい食べると思って…」

 

『へぇ~へぇ~』

 

とたんにほっぺたが紅潮する愛

 

「ま、いいか。

(割りばしをパチンと割って)いただきまーす」

 

・・・・・・

 

「愛」

「なによ」

「やっぱりソースはオタフクソースだよな」

「あたりまえよ」

 

「……」

「……」

 

 

・完食

 

「ごちそうさま。美味しかったよ」

 

「(萎縮したような声で)アツマくん……」

「なんだい」

「……」

「(^_^;)いや、なんか言えよ」

 

ーー突然、愛がおれの腕に手を回して、

教室の外までダッシュで連れて出た。

 

 

 

× × ×

 

(息せき切って喘(あえ)ぐ愛)

 

「なんなんだよ、落ち着けよ」

 

「(弱々しく)ひとこと言ってよ。

 わたしのクラスのお店に来るときは」

「ああ、アポ無しじゃまずかったかw ごめん」

「素直ね」

「まあね」

 

「なあ、愛……、

 おまえ、ほんとにくたびれてるんだな」

 

「どうしてもうちょっと早くわかってくれないのかしら」

 

(優しく、愛の頭に手を置く)

 

「でも、わかってくれるだけで、うれしい」

 

すがりつくように、

座ったまま、

おれの上半身に抱きかかる愛。 

 

「(弱々しい声で)クラスのみんなが、わたしのぶんもがんばってくれるって」

「じゃあ甘えればいいじゃないか、クラスの子に」

「うん…」

「ただ」

「ただ…?」

「おれに甘えるのには」

「」

「TPOってのを考えてほしいかなー、とは思う」

 

(おれを抱きしめる愛の腕力がいっそう強くなる)

 

「…文化祭のパンフレット、もらってるよ。

 どこか行きたいところあるか?」

「(抱きついたまま)それこそ、TPOよ」

「おれがいたら不都合か」

そんなわけ…ないじゃない

「じゃあなんでTPOなんだよw」

「ごめん、わたしこんらんしてる」

「誰だって混乱するさ」

 

少し間があって、

ようやく、愛がおれの身体(からだ)から腕を離した。 

 

(パンフレットを受けとる愛)

 

「ジャズ喫茶やってるとこがあるの」

「ジャズかぁ…」

「不都合?」

不都合なのは筒香

「そこはボケるタイミングじゃないでしょうが」

「ジャズ、だめ?」

「あんまりジャズはわかんにゃいけど」

「あなた大学のサークルで何してたの、音楽鑑賞サークルでしょ」

「ごめん。

 おまえが行きたいのなら、どこでもOK」

 

 

× × ×

・ジャズ喫茶

 

「アツマくん、この曲弾いてるピアニスト、誰だかわかる?」

「ーーわかんにゃい」

バド・パウエルよ」

 

「アツマくん、この曲弾いてるピアニスト(以下略)」

「ーーわかんにゃい」

セロニアス・モンクよ」

 

「アツマくん、このサックス吹いてるの誰かは、さすがにわかるよね」

「ーーわかんにゃい」

コルトレーンよ!! どうしてわかんないの!?

 

(一身に注目を浴びる)

 

「…アツマくん、曲が変わったけど、このサックスはーー」

「…そろそろ戻らなくてもいいのか」

スタン・ゲッツよ」

「(^_^;)ーーま、いいか。

 しばらくここにいようか、愛」

「ーーいいの?」

「しんどいんだろ」

「もうあんまりしんどくないから…」

「強がるの禁止な」

「強がってなんかないもん。

 

 

 でも…ありがとう」

 

 

 

おれは、愛の握りこぶしに、さりげなく手を置くことにする。

 

「どうしたの、びっくりするじゃないのっ」

「はやく元気になーれっ」

「ここ、メイド喫茶じゃなくてジャズ喫茶なんですけど。

 

 

 

 …だいぶ元気になったよ、

 アツマくんが来てくれたから。

 

 

ーー愛の声に、

自信が、戻ってきた。

来てよかったな。

 

 

【愛の◯◯】姫とフィッツジェラルドと『偶然の一致』と一目惚れと…

星崎姫。

大学1年。

 

大学生になったら、図書館に通い詰めるぐらいにならないといけないって、

とある講義で先生がおっしゃっていた、

から、ではないかもしれないけど、

わたしは意外と真面目ちゃんなので、

大学の図書館に来ていて、

書棚にお目当ての本を見つけ、

抜き取るためにその本に手を触れよう、

と、

したら、

 

 

 

 

 

 

わたしが一目惚れした『あのひと』が、

同じ本を書棚から取ろうとしていて、

つまり、

わたしと『あのひと』の手が、

触れ合った。

 

!!!!!!!

 

「あ、ごめんなさい」

 

す、すみません、この本…どうぞ

「いいの?w」

いいんです

「よく会うね」

ええっ

「ほら……この前も、ぶつかっちゃったじゃん。

 おぼえてるよ」

 

「図書館でおしゃべりはできないし、これもなにかの縁だから」

そう言って、『あのひと』は、人気(ひとけ)のない屋根下のベンチにわたしを誘った。

 

「きみ、教場で見たことあるよ、同じ講義受けてたでしょ」

文学部、だったんですか

「そ。

 英米文学じゃないけどね」

 

どうしてわたしが英米文学だってわかったんですか…

 

「ごめん見ちゃったんだよ。

 講義が始まる前、きみが『グレート・ギャツビー』の文庫本のページをぱらぱらめくってたの。

 

 それに、きょうも図書館でフィッツジェラルドの本を取ろうとしていたじゃんか。

 いいよね、『グレート・ギャツビー』」

 

…何年生ですか。わたしは1年です

「何年生だと思う?」

3年

「あったりー!」

 

 

ーーー

 

「? どうしてそこで押し黙っちゃうw」

 

せ、せんぱいは

「ああ、ぼく、『トキタ』っていうんだ」

どんな字を書くんですか

「時間の時に田んぼの田」

じゃあ時田せんぱい、

「せんぱい、はいらないかなw」

じゃ、じゃあ時田さん、あらためてお訊きしますが、

「はい」

 

フィッツジェラルドサリンジャーだったらどっちが好きですか

 

 

(・∀・;)