笹島マオ。
もうすぐ高校卒業。
ソースケ……。
どうして?
「ーーなんでもっとはやく言ってくれなかったんだろっ」
放課後
サッカー部グラウンド
気の抜けた状態で、部員の練習するすがたを見つめている。
わたしの存在意義って。
♫LINEの通知音♫
「藤(フジ)先輩からだ」
『ヤッホー。今からそっち行くね』
× × ×
「どうしたマオ? 元気がぜんぜんない。
男にフラれたりした?」
「ちょっと……近いです」
「えっどゆこと、気になるじゃん」
「ソースケが……東京からいなくなっちゃうんです」
「ソースケって、スポーツ新聞部の中村創介くんのことだよね」
「はい。」
「東京からいなくなるってことは……創介くん、関西の大学を受けたりするの」
「関西よりもっと遠いんですっ」
「そ、そんなヒステリックにならないでも」
「九州に行っちゃうんですっ」
「九州って……福岡?」
「はい」
「新幹線でつながってるじゃないの」
「そういう問題じゃないんですっ」
「ちょ、ちょーっとおちつこうか、マオちゃん」
「……」
「創介くんと離ればなれになるのがさみしいんだ」
「……」
「創介くんが自分の近くからいなくなるのが、こわいんだね」
「………こわいです、
でもどうしてこんなにこわいのかわからないんです、
わたしじぶんのきもちがわからないんです」
「ーーそっか。
じゃあその気持ちは、1週間ぐらい寝かせておこう」
「…寝かせたら、どうなるんですか」
「気持ちの整理ってやつ」
「…どうやって寝かせたらいいんですか」
「目の前のことにひたすら集中する。
ほら、
グラウンド見なよ、
ハルがこけたよww」
「ほんとだwww」
そうか…、
わたしはわたしの仕事をがんばる。
残り少ないサッカー部のマネジ業をがんばる。
そしたら気持ちに整理がついてくる、
といいなあ。
「マオはさ」
「なんですか」
「創介くんとは、いつから一緒だったの」
「中学からです」
「ふーん」
「…ポテトチップスに、九州しょうゆ味ってのがあるんだって」
「そんなの売ってるんですか!?」
「地域限定。九州と中四国だけ」
「都市伝説というわけではないんですね」
「先輩……」
「ん?」
「辛子明太子って、おいしいですよね」
「おいしいよね~」
「ですよね。
……ソースケ、『あっち』で“九州しょうゆ”や辛子明太子ばっかり食べて、からだ壊さなきゃいいんだけど」
「し、心配するとこ、そこ!?」
「福岡までーー、
福岡まで、
ソースケにごはんを作りに行ってあげたい。
でも、福岡なんですよね。
遠すぎますね、やっぱり。」
「…そんなことないよ。
マオ、あんたがその気なら」