【愛の◯◯】もうじき帰国の両親と国際通話で◯◯

 

日曜だけど早起き。

アツマくんはわたしの隣でまだグースカ寝ている。

寝させてあげておいて、わたしは顔を洗いに寝室のドアに向かっていく。

 

× × ×

 

日曜だから平日よりも手間をかけて作った朝ごはんを食べ始めている。

ソーセージを箸でつまみながら真向かいのアツマくんを見る。

眠気が残っているご様子。

「起きてるー? アツマくん」

「起きてるが」

「しんよーできないわねえ」

「や、眠ってたら、こうやって喋ることはできねーだろ」

「それもそーね。だけど、まだ眠そう」

「まあ……眠気あるのは、認めるけど」

「眠気覚まし代わりの話をしましょーよ」

彼はなにかを覚(さと)ったのか、

「もしや」

と言い、

「『おまえのご両親が、海外赴任から戻ってくる』ってことについてか?」

「大当たり」

 

× × ×

 

そう。

わたしの両親、日本に戻ってくることになったんですよね。

都合良く一戸建ての物件が見つかったらしく、そこに夫婦で住むそうです。

『距離が近いと安心だな。それに、嬉しいだろ』

アツマくんのお言葉。

そうね。嬉しいわ。

特に、おとうさんが、間近に居てくれるコトが……。

 

× × ×

 

夕方。

ダイニングテーブルに置いたノートパソコンで、おとうさんと国際ビデオ通話。

幸福な時間。

「幸せそうな顔だな、愛」

「おとうさんが帰ってくるのが待ち遠しいんだもん♫」

「オイオイ。お母さんも帰ってくるんだぞ?」

しょーがないな、と言わんばかりに苦笑のおとうさん。

痛いところを突かれてしまって、口ごもる。

「お、おとうさん?? 日本に戻ってきたら、日本の美味しいモノを、わたしと……」

懸命に言うけど、

「完全におれのことしか眼中に無い感じだなぁ」

と呆れ笑いで言われ、

「お母さんと利比古はどこに行ったよ。寿司屋に行くにしても料亭に行くにしても、家族4人で……だろっ?」

と明るくたしなめられて、すっごくつらくなる。

つらくなると同時に、恥ずかしさも感じてしまい、

「やっぱり、ファザコン過ぎるのかしら、わたし」

と熱くなった顔面で言ってしまう。

「そんなこたーない」

おとうさんは、柔らかに、

「空港でおまえがどんな抱きつきかたをしてくるのか、今から楽しみだ」

頭のてっぺんまで熱くなってしまったわたしは、

「だ、だ、だきつくにしても、TPOのことはちゃんとかんがえて、ハグするからっ!」

と、混乱にまみれたリアクションを……。

 

× × ×

 

おとうさんの次は、お母さん。

「熱でもあるの? 顔が赤いわよ」

ご指摘を完全に無視して、

「後期が終わったけど」

と言い、

「試験もちゃんと受けたし、レポートもちゃんと出した。ひとつも単位こぼさないっていう確信がある」

と言う。

「あら」

お母さんは意味深な微笑で、

「あなたのことだから、1つぐらいサボタージュした科目があるんじゃないかって思ってたけど」

「そ、そんなことするわけないじゃないの!!! わたしだって必死なのよ!? 2年生のとき少しも単位取れなかったんだから、挽回しなきゃって、全力で……!!!」

「落ち着きなさいよ」

穏やかなお母さん。

わたしの眼つきだけが険しくなっていく。

「からかって悪かったわ。あなたの頑張りぶりがさっきの派手なリアクションで伝わってきたから、良かった」

右拳を握りしめ始めるわたしに、

「ところでところで」

と余裕たっぷりなご様子でお母さんは言い、

「アツマくん、不在?」

と問う。

「彼は午後から勤務なの。夜まで帰ってこない」

答えるわたし。

どうしても答える口調がトゲトゲしくなっちゃう。

「ふうん」

お母さんは、

「それはそれは」

と言ったかと思うと、

ゴハンの用意とオフロの用意、どっちを先にしてあげるつもりなのかしら?」

と、イジワルめいた口調で……!!

 

× × ×

 

「はーーーっ」

大きく溜め息をついてしまった。

ダイニングテーブル。眼の前には食べ終えた夕食のお皿。

「なんだよ。くたびれてるんかいな」

「あなたは……タフね」

「おまえもタフだという認識なんだが」

「あなたには負けるから」

沈み込むように、うつむく。

「ご両親と国際ビデオ通話したんだよな」

「したわよ」

「お母さんにお説教されちまったとか?」

「違うわ。『遊ばれた』のよ」

「それが、くたびれの要因ってか」

「まあそういうことね……。そのあとで、夕ごはん作りに取り掛かったから、くたびれ度合いが、より一層」

「メシはちゃんと旨かったぞ」

言われて、嬉しくて、

「ありがと」

と伝えて、椅子から立ち上がり、ゆるりゆるりとソファに歩み寄っていき、すっぽし、とソファに身を預け、

「ねえアツマくん。わたしのワガママなんだけど」

「おう」

ゴハンを美味しいって言ってくれて、嬉しかったから」

「うむ」

「こっち来て、もっと嬉しくさせてくれない??」

「具体的には」

「スキンシップ」

「やっぱりそーなるんかいな」

「いいでしょ」

わたしは軽く苦笑い。