【愛の◯◯】このメンツの年忘れ会が収拾つくわけもなく

 

「じゃー始めっか」

会長の白井さんが、コーラの入ったコップ片手に、

「みんな今年はお疲れ様だった。乾杯しよう。『CM研』の年忘れ会の始まりだ」

そうなのである。

大学でぼくが所属しているサークル「CM研」のお部屋。今日はこの部屋で年忘れ会を催すことに決めていた。

ソフトドリンクで乾杯したぼくたち。

「羽田くんが20歳以上だったら、会場も居酒屋で、アルコールもOKだったんだがな。でも、羽田くんの19歳という年齢は動かせない」

白井会長が言う。

「白井。おまえはそんなに飲み会好きだったのか? 毎年学館(がっかん)のサークル室で良かろう。アルコールじゃなくても別にいい」

白井会長に寄っていきながらそう言ったのは、荘口(そうぐち)さんだった。

「よっぽど羽田新入生のハタチの誕生日が待ち遠しいんだな」

荘口さん、まだ『新入生』って付けてる。

ぼくはウンザリして、

「荘口さーん? 普通に羽田『くん』呼びのほうが良(い)いんですけど、ぼくとしては。『新入生』呼びにこだわるのは、やめてください」

「ええーーっ」

「なんですかその間の抜けた反応は」

「『くん』は付けたくない」

「『新入生』を付けないのなら、呼び捨てにしたいと?」

「だが、呼び捨てもしっくり来ない」

「だ、だったらぼくのことをいったいどう呼ぶのっ」

「決まってる。学年上がっても、『新入生』だ」

どうしようもなく、どうにもならない。

飲みかけのコップを置き、俯く。

荘口さんは明るく、

「なんだなんだー、元気ないなー。かっぱえびせんでも食べて元気を出したらどーだ」

彼女は皿に山盛りのかっぱえびせんを差し出してくる。

のだが、

「そんなに盛られても食べ切れませんよ。それにぼく、かっぱえびせん、正直そんなに美味しいと思えない……」

「私の提供したかっぱえびせんが食べられないって言うのか!?」

彼女は一気に威圧的になって、

かっぱえびせんが美味しくないだなんて、カルビーの人が聞いたら悲しむぞ。かっぱえびせんカルビーが産んだ偉大な発明品なのに!!!」

どうしようもなさにどうしようもなさを重ねないでくださいよ……。

泣きたくなってきたら、ぼくの後ろから馬場さんが近寄ってきた。

彼は、

「パワーによるハラスメントはやめましょうよ、荘口さん。かっぱえびせんを日本が産んだ偉大な発明品だと言いたい気持ちは理解できますけど」

と苦笑しつつ言う。

荘口さんは舌打ち。

「馬場はいつも丁寧なコトバづかいで非情なことを言う。ちょっとは上級生に優しくしろ!」

「荘口さんだって、しょっちゅう非情になるでしょう?」

あああん!?

殺気立った荘口さんに馬場さんは背を向ける。

容赦がない。

「羽田くん羽田くん。荘口さんのかっぱえびせんについては僕がなんとかしてあげますから。せっかくの年忘れ会なんですし、この1年を振り返ってみませんか」

馬場さんはそう言いながら、荘口さんから山盛りのかっぱえびせんを強奪し、

「結構激動の1年間だったんではないですか?」

「そうですね……。受験して、入学して、すぐに『CM研』に入って、忙しくなって」

「羽田くんはCMの実作(じっさく)もかなりしてましたもんね」

「はい。いい経験になりました」

「来年は、テレビCMだけでなく、ラジオCMにも手を伸ばしたらいいと思います」

「ラジオCMですかー」

「研究と実作の両方で、ね」

 

『羽田くんは絶対ラジオにも詳しいよね~~』

 

そういった声が飛んできたかと思えば、馬場さんと同期の吉田さんが、素早くぼくの右サイドに寄ってきた。

吉田さんの髪のリボンがいつもより大きい。白色のリボンと緑色のリボンを組み合わせているのはいつも通りだが。

気になる。

「ちょっとちょっとぉ。ボーッとしてないで、早くあたしにラジオの知識をひけらかしてよ」

「ひけらかすことができるほど、詳しくは……」

「どうして謙遜するの。かっぱえびせん、あなたの口に突っ込むわよ」

「き、危険なこと言わないでください」

溜め息をつく吉田さん。

苦笑して、両手を『お手上げポーズ』みたいにして、

「羽田くん。あなたが『ラジオ博士』な側面もあたしたちに見せてくれるようになったなら、やめられないし、止まらないのに」

かっぱえびせんのキャッチコピーをパクらなくても」

「パクってないわよっ!! 引用」

今度はぼくが溜め息をついてしまった。

しかしすかさず彼女が、

「罰ゲーム。パクリ疑惑をかけてきたから」

「罰ゲームとか……。初期の『遊☆戯☆王』じゃないんですし」

「サークル員が全員産まれてない頃の漫画の話はしないの!!」

「はいはい」

「ひどい態度ね。ひどい態度にはそれ相応の罰を与えてあげないとね」

「いったい吉田さんは、どんな罰ゲームを」

「俳句」

「はいく……??」

「冬の季語で1句作るのよ!! この場で!!」

「どうして俳句なんですか」

「CMのキャッチコピーを思いつくためよ。俳句もキャッチコピーも短いコトバでしょ」

「ぼくにはそもそも、創作文芸的な才能が無く……」

「バカね」

「……」

「才能だとか言ってる場合じゃないの」

かっぱえびせんを2本かりかりとかじったあとで、吉田さんは、

「あたしの好きな俳人(はいじん)、教えてあげる。『かとうしゅうそん』」

「『かとうしゅうそん』? 名前は漢字でどう書くんですか?」

「バカのバカ」

「よ、よしださんっ」

「表記は、見せるのがいちばん早いから」

そう言って、どこから出てきたのかも分からないがいつの間にか携えていた俳句歳時記を開いて、

「鮟鱇(あんこう)の 骨まで凍(い)てて ぶちきらる」

と……『加藤楸邨(かとう しゅうそん)』なるお人の句を、読み上げる。

「またもや引用ですか」とぼく。

「そうよ引用よ」と吉田さん。

「引用マイスターですね」

ぶちきられたいの!?!?