「CM研」の活動は、CMの研究だけではない。
「実作」もしているのである。
「実作」とはすなわち、実際に自分たちでもCMを制作してみるということ。
地域のケーブルテレビから、放送するCMを制作してほしいという依頼が来るのである。
これが、どのくらいスゴいことなのかは、分からない。
とにもかくにも、ウチのサークルは実制作もやってるんですよ……ということ。
白井会長をはじめとする上級生メンバーは、4月に入ってから2本目のCMを制作している最中だった。
『新入生のぼくも、そのCMの制作に協力したほうがいいのかな』と思っていた。
ところが、会長に「こっちは間に合ってる」と言われてしまったのである。
そしてさらに、2年生女子の吉田奈菜(よしだ なな)さんから、
「羽田くん、あなた主体で、CMを作ってみるのはどうかな?」
と言われてしまったから、さあ大変。
言わば「無茶振り」か。
ぼく、大学に入学したばっかりだし、サークルに入会したばっかりなんですけどね。
入学してからひと月も経過していない人間に、いきなりCMの制作を任せるとは……。
× × ×
大学近くの小さな個人経営の書店からの依頼だった。
なにもない地点から始めるのではなく、地元書店のPRという前提があって制作する。そういった意味では、作りやすいとは言うことができる。
高校3年間放送系クラブだったので、ノウハウは少しはあった。
だから、なにもかも自信の無い状態で制作に向かわねばならない、というわけではない。
大学ノートへの書き込みも、20ページを超えた。
ペンを置き、5分間休憩に入り、座ったまま軽くストレッチをする。
それからお茶の入ったペットボトルに手をつけようとしたら、ぼく同様サークル部屋に居残っていた2年生男子の馬場好希(ばば こうき)さんが、
「羽田くんは楽しそうにペンを動かしますね。少年みたいだ」
と言ってくる。
「あ、まだきみは10代だから、『少年』であるとも言えるのか」
とも。
「アウトプットを最大限に楽しんでますよね。眺めてると、こちらもモチベーションが湧いてくる」
……そうですか?
「吉田さんの無茶振りを物ともしてない。――羽田くん、やっぱりきみは、大物ルーキーです」
……どうも。
× × ×
馬場さんって、だれに対しても、「です・ます」調を使うんだろう。
たぶん。
ところは変わって、お邸(やしき)の広間。
大学ノートを35ページ以上消費して、CMの構想を形にしていくぼく。
「街の本屋さんのCMなんだよな。
本屋さん、か……。
もう少しぼくが、本について詳しかったのなら、アイディアがもっともっと浮かんできたんだろうけど。
読書量が不足してるから、アイディアの量も物足りなくなってしまうんだ。
こんなとき、超・読書家のお姉ちゃんが一緒に住んでたら、アドバイスを幾つもくれるんだろうけど……。」
『利比古くんって、ひとりごとがそんなに得意だったっけ?』
う。
あすかさん。
あすかさんが、広間に来た……!
ひとりごとをやめて、軽い深呼吸をするぼく。
深呼吸の動作がマズかったのか、
「なにかなー、その動きは。まるで、わたしがここに来ちゃうのが、不都合だったみたいに……」
「ちがいます」
とりあえず、キッパリ。
「ふーーーん」
やや不機嫌に、あすかさんはソファに寄ってきて、ソファ2個分の間隔をとって、ぽす、と着座する。
それから、
「ノートが……文字で埋め尽くされてる」
と、ぼくの努力の跡に気づく。
「なぐり書きで、マックロクロスケだ」
なぐり書きとは失礼な。
あと、マックロクロスケ、って……。
「あすかさん、そんなにジブリアニメが好きだったんですか」
「ちがうから」
「え? ちがう??」
それは……どういう……チョイスかな!?
「利比古くんは、『千と千尋』あたりが好きそうだよね」
「……適当なこと、言うもんじゃないですよ」
「フフッ」
「そ、そうやってすぐ、唐突に笑い出すんだからっっ!」
「だって。だってわたし、唐突なリアクションと、話題を脱線させることが、大の大得意なんだもん☆」
……そんなにぼくに、頭を抱えさせたいんですか。