【愛の◯◯】CM雑誌をめぐる対立が◯◯

 

映像を観るだけではなく、CM雑誌を読んで、文章から想像をふくらませるのも、重要な研究活動の一環だ。

というわけで、今ぼくは、サークル部屋にて某・CM雑誌とにらめっこしている。

 

『ライブハウス。

 4人組ロックバンドが演奏中。

 NUMBER GIRL田渕ひさ子的立ち位置といえる女の子が、ギターをソリッドにかき鳴らす。

 と思いきやその娘(こ)はギターに加えボーカルでもあり、スタンドマイクを倒さんが勢いで、ボーカルをシャウト。

 歌をシャウトし続ける彼女。

 その次に、もう1人のギター(男)→ベース(男)→ドラムス(男)と、演奏する姿が順番に映り込む。

 ――止(や)む演奏。

 ギターボーカルの女の子が、右手でマイクを掴むやいなや、

タウン情報誌『サタデー&サンデー』、毎月20日発売」』

 

……例えば、こういうCMがあるというわけだ。

読者は、これだけ短い記述から、実際の映像を想像しなくてはならない。

 

× × ×

 

たった数百字の記述なのに、数百字の記述であるからこそ、読んでイメージするのに大変な時間を要する。

タウン情報誌の宣伝に、ロックバンドを取り合わせた意図は? バンドの曲の歌詞とタウン情報誌との関連性は? ギターボーカルだけ女の子であることの意味は?』

こういったことを真剣に考えながら、雑誌のページとにらめっこするぼく。

しかし、副会長的ポジションたる強面(こわもて)女子の荘口節子(そうぐち せつこ)さんが、ヒョイ、と雑誌を取り上げて、

「……」

と、ムスッとした眼つきで、さっきまでぼくが読んでいたページを眺め始める。

「荘口さん……? 読みたいのなら、ひとこと声掛けを……」

やんわりとした表現で、雑誌強奪をたしなめるぼく。

であったのだが、彼女はまったく意に介さず、

「羽田新入生。きみも、『百聞は一見にしかず』という諺(ことわざ)を知っているよな」

「知ってますが」

「私は、こういった雑誌に、あまり価値を認めていないんだ」

えええっ。

「だって、『百聞は一見にしかず』だろう?? CMは、文字じゃなくて映像だ。実物を見ずにどうするんだ、って話だ。特に昨今は、You Tubeだとか、WEB上でいくらでもCMの現物(げんぶつ)にアクセスできるじゃないか。こういった雑誌はそろそろ、廃れていくと私は――」

ここで、いつの間にかぼくの席に近づいてきていた白井世紀(しらい せいき)会長が、

「荘口。その理屈は、おかしい。おれの考えは、真逆だ」

「なにっ」

「おれの創作した諺(ことわざ)だが……『百読(ひゃくどく)は一見に如(し)く』」

なにィ!?

そ、荘口さんッ。

落ち着いて。もう少し落ち着いて。

「ヴィジュアル抜きの文章こそが、想像力を育てる。たしかに、実際の映像を見て、『思ってたのと違う!』と感じることもある。だけど、そういうふうに実物とのギャップを感じるのも、自分自身の成長の糧(かて)になるんだ」

す、すごいぞ。

白井会長の反論、すごく筋が通ってる……!

これに比べると、荘口さんのCM雑誌批判は、いかにも分が悪い……!!

 

劣勢になってしまった荘口さん。

力(ちから)なく、ぼくから強奪したCM雑誌を右手にぶら下げていたが、やがて白井会長の眼の前に向かっていき、

「詭弁(きべん)は慎め。ばか」

と、力なく罵倒し、力なく……CM雑誌で、白井会長の頭頂部をぽすん、と叩くだけ。