兄貴とおねーさんのマンションに来ている。
兄貴は仕事中なので、おねーさんと1対1。
ダイニングテーブルで向き合う。おねーさんは当然ブラックのホットコーヒー、わたしはホットカフェオレ。
「最近の調子はどうかしら?」
コンディションをおねーさんに訊かれた。
「まあまあです」
とりあえず答える。
「そっかぁ。また気持ちが塞ぎ込んだりしちゃったら、すぐに言ってきてね」
わたしは苦笑いで、
「当分は、大丈夫じゃないかな」
「そっかそっか」
今日も超絶美人なおねーさんが微笑む。
それから、右腕で頬杖をついて、より一層ニッコリとして、
「この前ここに泊まりに来たとき、あなたのお兄さんにあっためられて、本当に良かったわよね」
と言う。
わたしはくすぐったい気持ちになって、
「甘え過ぎだったでしょうか。兄貴に」
「そんなことないわよ~」
「でも……わたし、もう大学生なのに」
「わたしも大学生だけど、アツマくんには日常的に甘えまくってるわよ?」
「お、おねーさんっ!」
「なぁに」
「……」
「あはは。しょーがないわね」
黙ってホットカフェオレに口をつけるわたし。
おねーさんが椅子を引き、立ち上がった。
「え、なんでおねーさん、立ち上がって」
「あすかちゃんにも立ってほしいの」
「なんで?」
「なんでも。」
彼女の勢いに負け、ゆるりと席を立つ。
ダイニングテーブルの横で、立って向かい合う。
見つめ合い。
「この前は、アツマくんがあすかちゃんをあっためて、助けてくれてたけど」
「はい」
「わたしだって、あなたを包み込んであげたいのよ」
「ほ、ほえっ!?」
「可愛いリアクションするのね」
「もしや、わたしに、スキンシップ!?」
「正解よ」
次の瞬間、抱きしめられていた。
おねーさんの柔らかい感触がわたしの肌に満ち溢れてくる……。
「もっともっとあなたを元気にしてあげたいのよ。なんてったって、わたしはあなたの『おねーさん』なんだから」
おねーさんの愛情に負けて、ふにゃーっ、と引っ付く度合いをこちらから上げる。
「あ。積極的、あすかちゃん」
「だって。おねーさん、わたしよりやわらかいんだもん……」
「そう思う?」
「思う」
「嬉しい。もっとも、あなただって十分柔らかいと思うけど」
「お世辞はNG」
「なーに、それ」
ベッタリ引っ付いていても、おねーさんのステキな苦笑いが眼に浮かぶ。
× × ×
丸テーブルでロック雑誌を読んでいるわたし。
正面のソファにはおねーさんが座っていて、編み物をしている。
「おねーさんは手先が器用ですね」
「そうよ。器用なのよ」
「冬だから、編み物?」
「そんな感じ」
「兄貴になにか作るんだ」
「そう。アツマくんに」
「クリスマスプレゼント的な?」
「ううん。クリスマスプレゼントは、別枠」
「別枠かー。兄貴もホント幸せ者」
「ちょっとちょっとあすかちゃん、『兄貴』じゃなくて『お兄ちゃん』って呼んであげなさいよー」
「イヤだ」
「どーしてかなあ」
「『お兄ちゃん』って言っちゃうの、照れくさい」
「えー、そういうもの?」
そういうものなんですよ。
ロック雑誌の記事のことは最早どうでもよくなり、おねーさんのご尊顔をひたすら見上げて見つめ続ける。
「おねーさあん」
「?」
「わたし、おねーさんのこと、ホントに好きで、尊敬してる。好き過ぎて、尊敬し過ぎて、勢い余って、ケンカになっちゃったりしたこともあったけど」
「ええっ。ケンカになった原因が、好き過ぎと、尊敬し過ぎ??」
「わたしは『そーなんじゃないかなー』って思う」
「よく分からないロジックねぇ」
「わたしのおねーさんに対する想いが空回りした結果なんです。これまでのギクシャクやイザコザは」
「そう思うんだ」
と言ってから、苦笑混じりに、
「でも、これからはもう、ケンカなんかしないでしょう? ずーっと、なかよし」
「ですね」
わたしは丸テーブルの前から立ち上がる。
おねーさんのソファの眼の前に腰を下ろす。
「どうして移動したの? わたしが今履いてるロングスカートが間近で見たかったとか?」
「違います」
少しだけ腰を上げて、
「おねーさんと、ケンカの反対のことがしたいの」
と言って、前のめりになる。
それから、わたしのほうから、おねーさんのカラダに、むしゃぶりつく。
むしゃぶりつくというのは具体的には、おねーさんの上半身を強く強く抱きしめて、おねーさんのささやかな胸の上のあたりに自分のオデコをベターッと当て続ける。
おねーさんの栗色の長~~い髪から甘~~い匂いが漂ってくる。
「あててあげよっか? おねーさんが今使ってるシャンプー」
言うんだけど、おねーさんのほうは完全にうろたえてしまって、
「そそそそーいう問題じゃないでしょあすかちゃん。いきなり飛びつかれたから、編み針とか編んでたモノとか落としちゃったじゃない」
「ごめんなさい。でもわたし、おねーさんをもっともっと知りたいから。全身でおねーさんのことを知りたいってコト」
「わ、わたし……女の子には、押し倒されたくないかな」
「戸惑わないでよ。」
× × ×
わたしがベッタリベタベタして、15分経過してから。
「……わかったわよ。あなたのまだ知らないわたしのこと、教えてあげるから。もう少し引っ付くチカラを弱くして。できるわよね? あすか」
と、呼び捨てで、おねーさんが言ってくれた。