スッキリした。
泣きたいだけ泣いたから。
泣いたのは、相談室。コドモになって、ワガママになって、椛島先生に吐き出して、寄りすがって、甘えた。
涙腺はしばらく刺激されないだろう。それぐらい取り乱して、泣いた。
土曜日の朝は、明るい陽(ひ)の光が窓から部屋に差し込んできて、嬉しかった。
パジャマを脱いで着替えたら、新しい自分に着替えられた気がして、嬉しかった。
お兄ちゃんと向き合いながら朝ごはんを食べて牛乳を飲んで、お兄ちゃんの「からかい」が少しも少しも気にならなくって、そのことも自信になったし、『強くなれた』という思いも強まった。
勉強机に向かって、ワセダの文学部と文化構想学部の過去問集を積み上げた。
2時間半いっさい気を散らさずに勉強を続けた。
× × ×
LINEアプリを開き、まず、本宮(もとみや)なつきちゃんに『時間が空いてたら、通話がしたいけど、どう?』と送信した。
『引き継ぎのことですか?』という返信が来た。
『カンが良くて素敵だね』と送り返す。
『またまたー。
いいですよ。時間空いてますよ』
そんな返信が届いてきた。
そして、通話。
「引き継ぎとかの前に、あたしから謝んないとね」
「あやまる?? ヒナさんが??」
謝るよ。
「10月も11月も、あたしの態度、おかしかった。ゴメン。部長だけど、部長になってなかった。部長らしいこと、ぜんぜんできてなかった」
「考え過ぎなんでは」
「なつきちゃん優しいね。その優しさは、今後も大事にしてね」
「もう引き継ぎが始まっちゃってるみたい」
「アハハ」
打ち明けようかな。打ち明けちゃおうかな。
ギクシャクにギクシャクが重なって、こんがらがりが複雑になり過ぎて、その末に、ソラちゃん・会津くん・あたしの『三角関係』に終止符が打たれたこと。
失恋の打ち明け。
……やっぱ、やめとくかな。
引き継ぎに失恋の話題を混入されてもねえ。
空気、読めない。慌てさせちゃう、なつきちゃんを。
「ヒナさーーん」
「いけない、いけなかったー。まるでラジオの放送事故だ。通話しようって言い出した本人が無言になるなんて、申し訳ない」
「譲るんでしょう? 部長職を」
「うん」
スーッと優しく息を吸い込み、
「11月25日土曜日、午前11時40分。ここに、本宮なつき部長の就任を宣言いたします」
「なーんですかっ、それ」
笑いながらなつきちゃんは言ってくれる。
「イマこのときから部長だよ。なつきちゃん」
「承知しました」
「えへへっ」
「ここまでテンション高くて元気なヒナさん、久々な気もする」
「やっぱ、感じる?」
「感じます」
あたしは15秒から20秒ぐらい『タメ』を作って、
「うれしい。」
と、新たなる部長に、伝えてあげる。