【愛の◯◯】まだ両手があったまらないから葉山ちゃんに◯◯

 

あたし、ルミナ。社会人3年目。

今日は仕事休みの土曜日。世田谷区的なトコロに所在する某駅で下車して、葉山むつみちゃんの実家に足を運んでいく。

 

玄関で、

「あなたひとり?」

と葉山ちゃんに訊けば、

「はい。両親はデートに」

「ステキね」

「ステキですよね。というわけで留守番です」

「あたしが来たから、寂しくないよ。葉山ちゃん」

「ありがたいです。気温も一気に下がったし、わたし独(ひと)りお留守番の土曜日だったら、絶対心細かった」

でしょでしょ。

 

葉山ちゃんルームに入ったあたしはベッドに腰掛ける葉山ちゃんを見上げる。

「朝ごはんは食べたの?」

「自分で作って食べました」

「そりゃ偉い偉い。朝食後は?」

「えーっと……。今日の『じぇいあーるえー』のレースの『けんとう』を」

「『じぇいあーるえー』? 『けんとう』?」

しまった!! という顔になって、

「わ、忘れてもらっていいですっ、こっちの話にすぎないのでっ」

と早口で言って、お馬さんのぬいぐるみを胸で抱きしめる。

ふーーーーーん。

 

「葉山ちゃんってパチンコやるの」

「きゅ、きゅ、急な質問過ぎませんかっ!? ルミナさん」

「葉山ちゃんが抱きしめてるお馬さんのぬいぐるみから連想した」

「……ノーコメントで」

「まあ、なにごともホドホドにねー」

「だっ大丈夫ですから、根はマジメなんですからわたし」

「ジブンで言っちゃった~~」

可愛い葉山ちゃんはアタフタして、

「ピアノの練習がしたいんですよね!? もう好きに使っちゃってください!?」

「好きに使っちゃって、って、なにを?」

「ピアノの部屋とか、ピアノとか」

「ふふ~ん」

「たっ企み顔になんか、ならなくたってっ」

あたしは、葉山ちゃんルームの出口のほうを立ちながら見やりつつも、

「朝で寒くて、まだ両手があったまらないし」

と言い、

「もうちょい葉山ちゃんに寄り添ってみても、いいよねえ?」

と言う。

「寄り添う!? 寄り添うって、いったいぜんたい」

「あなたの隣に座りたいだけよ」

「ルミナさん……。わたし、そんなにあったかくなんか」

「うそぉ」

「でっですから、ピアノ練習に着手したほうが」

「拒否」

「!?」

 

問答無用で――葉山ちゃんが座っている右隣に、すとんと腰を下ろすのだった。

 

「おはなししよーよ」とあたし。

「……」と困惑の葉山ちゃん。

「今日のために、たくさんおはなしをストックしといたんだから」

「そんなに、わたしの家に来るのが楽しみだったの!?」

「あたりまえでしょ♫」