原宿のカフェに来ている。
テラス席。だいぶ冷え込んできたから、今年テラス席でコーヒーが飲めるのも残り少なくなってきたかもしれないわね。
朝とかだいぶ寒いし、このブログの管理人さんとか掛け布団の中でPC操作してそう。
『……流石にそれは無いかな』とココロの中でヒトリゴトを呟いて、改めて本日のカフェの他のメンバーを見渡す。
わたしの左隣にはさやか。
そしてわたしの前方には、さやかと同じ大学に入った娘(こ)がふたり。
わたしたち4人は全員同じ女子校の出身で、わたしを除く3人は、日本でいちばん格の高い国立大学に通っている。
わたしから見て左前の東大生の娘は、山部(やまべ)さんといってわたし&さやかと同期。
わたしから見て右前の東大生の娘は、岡林(おかばやし)さんといってわたし&さやか&山部さんよりも2期下の後輩である。
「愛に是非会いたかったんだってさ、山部さんも岡林さんも」
さやかが言う。
「ふたりとも、愛が卒業してからなかなか会う機会が無かったから、恋しかったって」
恋しかったんだ。
「さやかさんの言う通り。嬉しいよ羽田さん、あなたに会えて、こうしてオシャレなカフェで……。ほんとに卒業してから一度も会ってなかったし。顔を見ることがなくて寂しかったの」
山部さんが喋る。
『顔を見ることがなくて寂しかった』というところから不穏さを感じ始めていたら、
「ますます美人になったよね〜〜!!」
とやはり(?)言われてしまった。
「美少女から脱皮して、美人に進化した。虫系ポケモンじゃないけど」
「む、虫系ポケモンと言われても、ちょっとよく分かんないかなー」とわたしはうろたえる。
すると岡林さんが、
「そうですよー山部センパイ、虫系ポケモンの喩えは分かりにくいし、トランセルがバタフリーに……とか羽田センパイに失礼ですってー」
とたしなめて、
「『進化』って言いたいのは共感できますよ? わたしも生物学好きだし」
とリケジョ的な発言を。
「『進化』ねえ」
ここでなぜかさやかが口を挟んできて、
「ポケモンっていうよりも、デジモンじゃないかなあ。知らない? 山部さんと岡林さんは。『完全体』とか『究極体』とか」
「知ってるよさやかさん!」
興奮して山部さんが、
「もしかして、『デジモンアドベンチャー』観たことある!?」
「無印?」
「無印。99年のやつ」
「うん。観たもなにも、わたしの兄さんのいちばん好きなアニメなの」
「あ〜っ、さやかさんのお兄さん、直撃世代だもんねえ〜」
「山部さんも好きなの?」
「ダイスキ。わたしは親の影響。幼少期に1年中ビデオ観てた」
思わぬ弾みで盛り上がりまくっている。
わたしは、
「それで結局、デジモンでどう喩えたいのよ? さやかは」
「え? 決まってるじゃん、メタルグレイモンがウォーグレイモンに進化したんだよ。完全体から究極体」
「わ、わかんないって、それじゃあ」
山部さんがクスクスと笑いながら、
「アニメだと『ワープ進化』になっちゃうけどねー」
即座にさやかが、
「ねーっ」
と反応。
『デジモンアドベンチャー』か……。
わたしも漫研系サークルに3年間所属してきて、漫画やアニメの知見をそれなりに得てきたはずなんだけども。
まだ『浅かった』のね。
「もぉーっ。山部センパイと青島センパイ、ふたりだけでデジモンで盛り上がり過ぎですよーっ」
岡林さんのたしなめ。
「羽田センパイが置いてけぼりでかわいそう」
「あはは……」と苦笑いのわたし。
「でも、まさに『究極』の女子高校生でしたよね、羽田センパイって!」
え!?
な、なに……その、『究極のメニュー』的な言いかたは。
「岡林さん……わたしのどこらへんが『究極』だと思ったのかしら」
「そういう気品あふれる話しかたとか」
「き、気品!?」
「絶滅危惧種な気品ある話しかたですし、単なるお嬢さまコトバではない美しさが、コトバの端々から……」
わたしの喋りコトバを真っ先に褒めちぎるなんて。
こういう喋りかたしかできなくって、何割かはコンプレックスなのに。
「そうそう。愛の喋りかたって、お嬢さまコトバのうわべをなぞっただけとは、ちょっと違うんだよね」
さやかが同調する。
「実際、あんたは大企業の社長の娘でもなんでもないわけで」とさやか。
「そうだけど……それが?」とわたし。
「それでいて、岡林さんが言うように、気品にあふれた喋りコトバするじゃん? スゴイよ。スゴイんだよ、やっぱり」
「わたしより……アカちゃんのほうでしょ。気品ある話しかたを完璧に使いこなすのは」
思わずここに居ないアカちゃんを持ち出して、
「ホンモノの社長令嬢なんだし、アカちゃんは。しかもそれでいて、単なるお嬢さまコトバじゃない、深みというかなんというかが……」
「羽田センパイと青島センパイは、アカ子センパイと仲良かったですよね?」
「そ、そうよ、岡林さん。わたしとさやかとアカちゃんは昔から親友」
なぜか急に声のトーンを落とした岡林さんが、
「あの……アカ子センパイ、なんだか交際してる男子(ひと)との絡みで、今いろいろと大変なことになってるって……」
「そ、それはデリケートだからね、そっとしておくのがオススメね」
さやかも、
「そうだね。そっとしておこう。岡林さんは心配してくれて立派だけど」
と、首を数回縦に振る。
× × ×
「なかなか手ごわかったわね、あのふたりも」
代々木公園。
山部さん&岡林さんと別れ、さやかと歩きつつ、山部さん&岡林さんコンビに接した感想を言う。
「まーね。大学一緒なわたしだって手ごわいと思うよ。なによりクレバーだからね。なんだかんだで東大入試を突破してきてるんだし」
「それに加えてリケジョ」とわたし。
「それもだなー」とさやか。
某公共放送の放送センターに近付いてきた。
ので、
「さやか」
と微笑しながら顔を向け、
「さやかはNHKにエントリーしたりしないの?」
「だだ出し抜けに就職のハナシ!?」
「だって、NHKって東大卒の坩堝(るつぼ)みたいなとこでしょ」
「……そもそもね、わたし、たぶん、就職活動は、やんない」
「エッ初耳」
「だっけか……」
「留年コース? わたしと同じく」
「ばっバカバカ、んなわけないでしょーが」
ツッコミを入れたあとで、ココロを落ち着けるような素振りをして、それからさやかは、
「院に行く、つもり」
と告知する。
「入院だ」
「は!? なに言うの、愛」
「文系の学生は、とりわけ」
「……あのねえ。真剣に考えてんのわたしは。院進して、真面目に研究に取り組みたいと……」
「それぐらい分かってるわよぉ。さやかを長年見てきてるんだからぁ」
「じゃあそんなおフザケ目線で見てくるなっっ」