「あっ、さやかさんだ!」
並木道を歩いていたら、同じ女子校出身の山部(やまべ)さんに声掛けされた。
「元気?」
と訊かれたので、
「まあまあ元気かな」
と答える。
山部さんの隣に女子がもうひとり。
女子校の後輩……だった子だよね?
ええと、名前は……。
「青島センパイ! 憶えてますか!? 岡林(おかばやし)ですよ、岡林!」
わたしが思い出す前にハイテンションでその子が言ってきた。
そうだ。
岡林さんだ。
結びつきが強かったわけではないけど、わたしの2つ下の後輩。
2つ下ってことは、今年度に入学してきたってことか。
「ねえ、さやかさん」
山部さんが、
「せっかくだから、お茶にしよーよ。この子、さやかさんに会いたがってたんだって」
と、岡林さんを指差しながら誘ってくる。
× × ×
で、某プラザでお茶。
「青島センパイ、スゴい雑誌読んでるんですね。『現代思想』なんて」
『現代思想』を持ちながら並木道を歩いていたのが、岡林さんの興味を引いたらしい。
「割りと有名な雑誌だと思うけど……」
と言うが、
「根っからの理系なんで、そういった雑誌には少しも詳しくないんですよ」
あー。
なるほど。
「ごめん、こっちは完全に文系なものだから、半ば知ってる前提になっちゃってた」
「いえいえ」
岡林さんはこれっぽちも気にせず、
「学者肌なんだ、青島センパイって」
え……。
学者肌?
ちょっと唐突。
「もしかしたら、教授になるのを目指してるとか??」
んーっ……。
「まだ分かんないかなあ」
とりあえず、岡林さんにそう応答。
すると今度は、
「さやかさんが教授かぁ。それもステキかもね」
と正面の席の山部さんに言われる。
山部さんはさらに、
「さやかさんってコンタクトレンズしてる?」
「コンタクト?? なんでまた。裸眼(らがん)だよ、わたし」
「じゃ、メガネも使ったこと無いんだ」
「無いよ」
「残念だな」
「え」
「絶対サマになるのに」
「え……」
「この上なくインテリジェンスなのにぃ、メガネをかけた『青島さやか教授』とか」
や、山部さん……!?
× × ×
井の頭線を使えばすぐそこの下北沢に降り立つ。
夕暮れの下北沢。
山部さん&岡林さんがプラザで粘っていたので、くたびれを感じてしまっている。
くたびれたから、下北(しもきた)に寄るか迷ったんだけど、結局は寄ってみることに。
古書店に行くつもりで寄ったのだ。
何軒か古書店をまわった。
何冊か購入した本の中には学術書もある。
その学術書をレジに持っていったとき、山部さんの「インテリジェンス」発言が浮かんできてしまった。
「インテリジェンス」の8文字だと聞こえはいいけど。
略せば「インテリ」の4文字になってしまう。
「インテリ」っていうコトバは……ダサい以前に、肯定的な意味で用いられることは滅多にない。
というか、否定的な含みしか無いように思える。
山部さんや岡林さんを恨む気持ちなんて当然無いけど、彼女たちにヨイショされ過ぎた感じがして、くたびれにくたびれが重なっていってしまう。
下向き目線で信号待ち。
思わず下向き目線になっちゃうんだけど、気持ちを立て直したくて、前を向いて歩くように努力する。
横断歩道を渡った先には小劇場などが点在している。
演劇には全然詳しくない。
『だけど、教養学部後期課程の人間としては、こういった文化にも触れておくほうが良いんだよね。教養、教養……』
心の内でそう呟きながら、前を向いて歩くように努力し続けていた。
そしたら。
そしたらば。
信じられない再会を、わたしは……!!