きのうに引き続き、サークルの面々とのビデオ通話。
「ダルそうね、羽田さん」
4年生で副幹事長の有楽碧衣センパイが、言ってくる。
「はい…。気分が上がらず」
「無理をしたらダメよ」
「…分かってます」
「みんな、ついてるんだから」
「みんな……。」
有楽センパイは微笑する。
……わたしには、サークルのことで気になっていたことがあって、
「有楽センパイ、ひとつ、いいですか?」
と訊いてみる。
「なぁに?」
「たしか――有楽センパイ、副幹事長をだれかに譲るようなことを、春先におっしゃっていたような」
「あー、そのこと?? そのことはねぇ……」
――ここで、やはり4年女子の日暮真備さんが、画面に登場し、
「けっきょくウヤムヤになっちゃったんだよ、副幹事長継承問題は」
と伝えてくる。
「ちょっと真備(まきび)。いきなり割って入ってこないでよ」
有楽センパイがむくれた顔で言うが、日暮さんはむしろ、有楽センパイにひっ付いて、
「ウヤムヤになったのは、クボのせい。ぜんぶ幹事長のクボの責任」
と、毒舌を繰り出していく……。
「心外だな」
あちゃあ。
久保山幹事長がとうとう姿を現した。
日暮さんと有楽センパイの背後に、どーんと立つ久保山幹事長。
さすがの巨体であり、さすがの貫禄である。
幹事長は穏やかに、
「調子はどうだい? 羽田さん」
と気を配ってくれる。
苦笑しつつ、
「良くないです」
と正直に言うわたし。
「まあ、だれだって、そんなときもあるさ」
と幹事長。
「いつか、良くなるから」
とも。
「いつか……。」
PCモニターに前のめりになりつつ、幹事長の大きな顔をわたしは見つめる。
「羽田さん」
「……はい。」
「止まない雨はないよね」
「……!」
幹事長……!
「ちょ、ちょっ、羽田さん、なんで感極まってんの!? クボ、『止まない雨はないよね』って言っただけなのに……!?」
もう。
日暮さんったら。
「な、なんか、羽田さんの顔色、良くなってきてるんだけど。クボと会話した途端に……。通じ合ってるってわけ!? 信じられないよ」
「日暮さぁん。
…信じられなくなんか、ないですから」
「だっ大丈夫!?!? 羽田さん」
「日暮さんってば」
「……」
「めっ♫」
「あ、あああっ、羽田さんに怒られたっ」
有楽センパイまで……呆れ笑い。
× × ×
後輩も、ビデオ通話に参加しに来てくれていた。
男子ふたり。
幸拳矢(みゆき けんや)くんと和田成清(わだ なりきよ)くんの1年コンビ。
まずは、拳矢くん。
「羽田センパイ……いつか、戻ってきてくれますよね!?」
わたしの復帰をほんとうに待ち焦がれてくれているのが、表情から伝わってくる。
「久保山幹事長も……止まない雨はないって、おっしゃってたし。ぼくも、センパイが元気になるのを……祈ってます」
彼の顔をわたしはジックリと見る。
わたしがジックリ見たせいか、彼の視線が少し逸れる。
「――拳矢くん」
「は、ハイ」
「もちろんよ。戻ってくるわ、きっと。…ううん、きっとじゃなくて、ぜったい。」
「センパイ……!!」
逸れていた視線が、わたしに向かってまっすぐに。
「声優さんのこと、たくさん教えてね♫」
「は…ハイッ!!」
拳矢くんも、熱血だな……なんて思っていると、画面上に和田成清くんが現れて、
「あの……羽田センパイ」
と遠慮気味の声で呼んできた。
「なーに? わたし、遠慮しちゃイヤよ、成清くん」
「……」
「ねっ」
「……あの。
羽田センパイと、まだ一度も、カラオケ……行けてないっすよね」
「わたしと『サシ』でカラオケがしたいの??」
「そ、そういうわけではっっ」
「成清くん、」
「……」
「遠慮は禁止って言ったでしょ♫」
「……。
おれは……センパイの歌声が、どうしても聴いてみたいってだけっす」
「あら」
「元気になったら……是非」
「――わかったわ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして♫」
「……」
…あれ??
成清くん、まだなにか、言いたそうじゃないの。
「羽田センパイ……。欲張っても、いいっすか」
「??」
「ピアノも。
ピアノも、弾いてほしいっす」
あらら。
欲張りなのね――予想以上に。