夏休みが始まっちゃった。
けっきょく、調子を崩してから約2ヶ月間、まったく講義に出席することもなく。
不登校のまま夏休みに突入しちゃった。
朝、遅く起きて、シャワーを浴びる。
いったんはスッキリする。
でも……すぐに、重い現実が、ズーン、とのしかかってくる……。
× × ×
いろんな考えが渦を巻く。
勉強机の前に座って考え続けていると、やがてイライラが募ってくる。
右拳(みぎこぶし)で机を叩く。
痛い。
――充電中のスマホに眼を転じる。
取り上げて、画面を見ると、通知が来ていた。
『もうすぐビデオ通話スタンバイするけど、オッケーかな?』
メッセージの主は――同級生の脇本浩平くん。
脇本くん。
第一文学部の同級生であるとともに、サークル仲間。
× × ×
PC画面に脇本くんの姿が映っている。
「ごめんなさい。脇本くんのメッセージ見るまで、きょうのこと、忘れちゃってたの」
「そんなこともあるさ、羽田さん」
「や……優しいわね」
「当然だよ」
「えっ……」
脇本くんは爽やかな笑顔。
『ワッキー!! なにカッコつけたこと言ってんだ、おまえらしくもない』
脇本くんの背後から声。
みるみるうちに脇本くんを押しのけて、学年がひとつ上の郡司センパイ&松浦センパイが画面を占め始める。
脇本くんはちょっと可哀想だったが、
「羽田!! ちゃんと眠ってるか!?」
と、熱のこもった声で郡司センパイが言ってくるから、
「…眠ってますよ。眠りすぎなくらいに」
とわたしは答える。
満足したように、
「そこは大丈夫みたいだな」
と言ってから、郡司センパイは、
「食欲はどうだ!? あるか!?」
と、立て続けに問うてくる。
「ふつうです」
答えるわたし。
「ふうむ。睡眠や食事に問題がないとすると……」
腕を組んで、郡司センパイは思案モード。
彼のとなりの松浦センパイが、
「郡司おまえ、勢いありすぎだぞ」
と呆れたように軽くたしなめる。
「勢いありすぎって、なんだ」と郡司センパイ。
「羽田がビビってしまう勢いだったってことだよ」と松浦センパイ。
「む……」と郡司センパイ。
「羽田はデリケートな状態なんだ。そこを分かってやれ」と松浦センパイ。
みんな、優しい。
…郡司&松浦コンビの背後に、やはりわたしより1学年上の高輪ミナさんが現れた。
腕を組んだミナさんは、
「郡司くんも松浦くんも、わたしと交代して。とくに郡司くん」
と命令。
「!? おれ、なんかイケないことでもやったか」
郡司センパイは疑問の表情。
だが、
「お説教はあとでタップリ」
と、ミナさんは、郡司センパイを強硬的に押しのけてしまう。
「松浦くんも後ろにさがってよ」
「え、なんで?? 高輪」
「松浦くんはそんなにバカだったの!?」
「い、いきなりバカ呼ばわりは自重」
「お説教の要る男子……ふたりに増えたね」
× × ×
ミナさんもやっぱり優しかった。
女子同士でタップリ話すと、こころもだいぶ楽になっていく。
「羽田さん、いつか、わたしとデートしない??」と、何割まで本気なのか分からないお誘いをもらって、わたしは思わず笑ってしまう。
× × ×
脇本くんと同じくわたしと同学部・同学年の新田俊昭くん。
今度は、彼との対話。
「……大井町さんが気になる?」
新田くんはズバッと切り込んだ。
「気にならないって言ったら、大嘘になっちゃうわ」
とわたし。
「……そうか」
新田くんはマジメ顔。
大井町さんといろいろあって、こうなってる……ということを否定するのは難しい。
「大井町さんにも声をかけたんだけどね。案の定、きょうは不在だ」
と新田くん。
……まあね。
「仕方ないわよ。なかなか、こういう場には出づらいでしょ……彼女も」
「まあ、それはそうだけど」
「? …新田くん?」
「ほんとうに、大井町さんを『このまま』にしておいて、いいのかなぁ? って」
「え。」
「――彼女を諭(さと)す勇気なんか、いまの俺には無いんだけど、さ」
新田くんは苦笑いする。
……新田くんの予想外な一面が、わたしに焼き付く。