「利比古くん、きょうは短縮版じゃないよ」
「ず、ずいぶん意表を突く始めかたですね、あすかさん」
「それと、地の文もなし」
「…なるほど。語り手を担当する人物の不在、というわけですね」
「そうだよー。きのうに引き続き、わたしと利比古くんの会話だけで進行していくの」
「――きのうは、700字ポッキリでしたけども」
「きょうは、その倍ぐらいだね。1500字にギリギリ届かないぐらいまで、かなあ」
「――話題は?」
「なにを話のタネにするかって?」
「まさに」
「そこは、『音楽と本』だよ、利比古くん」
「……なるほど。」
「気合いを入れないとね」
「気合い?」
「このブログのタイトルからあんまり遠ざかりすぎないように、『音楽と本』を取り扱って、ブログに気合いを注入するの」
「……なるほど。」
「――利比古くんっ!」
「え、どうしていきなりそんな鋭い眼つきに!? あすかさん」
「利比古くんあなた、いつも以上に、相づちがワンパンマンになってるんじゃん!!」
「わ、ワンパンマン…とは」
「『なるほど。』って、もう3回も言ったでしょ」
「…言いましたっけ」
「言ったよ。言ってるから。もっと相づちのバリエーションを増やしてくれないと…」
「……がんばります」
「がんばってね。わたしに『ワンパンマン』って言わせないでね」
× × ×
「はい。Spotify、スタンバイOK」
「どんな音楽を聴きましょうか?」
「利比古くんがリクエストしてよ」
「……」
「利比古くんが聴きたい曲を検索してあげるから」
「……」
「あーっもう、浮かばないの!?
主体性がないねえ、ほんっとう」
「……バービーボーイズが、聴きたいです」
「え、聴きたい曲、あったの!??! しかも、バービーボーイズ」
「古すぎますか……?」
「古い新しいはいいとして、どういう経緯でバービーボーイズを認知したの、利比古くんは」
「話せば長くなるんですけど……」
「いいよ。話してよ」
× × ×
「ふーーん。
そういうことかー。
実はね、わたしもね、あそこらへんの邦楽バンドをちょくちょく漁ってるんだよ」
「あそこらへん、というと……」
「80年代後半というか、バブル期というか、バンドブームというか……定義付けは微妙になっちゃうけどね」
「完全に、ぼくたちの親の世代で流行った音楽ですよね」
「このブログの管理人さんが生まれた頃の音楽でもあるね」
「余計な情報を付け足してる場合なんでしょうか……」
× × ×
「音楽の次は読書だよ、利比古くん」
「もう少し――音楽をじっくり聴きたかった気もしますが」
「文字数がないんだよ」
「あー……」
「――というわけで、わたしは東野圭吾の『魔球』という小説を読もうと思います。利比古くんは??」
「なんにも考えてなかったので、地下書庫に行って探そうと思うんですが――」
「それは良くないわね」
「!??! なぜ、唐突に、そんな口調に……」
「あなたのお姉さんリスペクトよ」
「ご……語尾までリスペクトしなくたって」
「なんにもわかってないわねー」
「あすかさん……。
正直、無理があります」
「無理!? 無理ってなによ」
「あすかさんは、あすかさんじゃあないですか」
「なにが言いたいのよあなた。ほんとうにもう」
「ですから。
昔の翻訳小説の女性登場人物みたいな喋りかたは、あすかさんには似合わないかと…」
「似合わないってなによ!! 似合わないって」
「そういう喋りかたは、姉だから、サマになるんですよ…」
「ヒドいわ。利比古くん、あなた、どこまでわたしをバカにするのよ」
「ば、バカにはしてないですよっ!!」
「しくしく」
「…泣き真似に逃げないでください」