【愛の◯◯】「不在」が「物足りない」と思っていたら

 

昼休み。

サークル部屋に入る。

居たのは、幹事長のミナさんと副幹事長の郡司センパイ。

挨拶を交わしたあと、入り口近くに着席して、お弁当箱を出す。

「手作り弁当だね、羽田さん」

輝くような眼で言うミナさん。

「もしかして、アツマさんのぶんも作ってあげた!?」

「そうですよ。よくわかりましたね、ミナさん」

「わかるに決まってるよ。羽田さんとアツマさんは、なんてたって――」

ここで郡司センパイが、

「そのへんにしとこーな、高輪(たかなわ)」

とミナさんに横槍をブスリと刺す。

「そのへんって、どのへん!?!? 意味わかんない、郡司くん」

「あんまりイジるもんでも無かろう、羽田の生活のことを」

「いや、羽田さんだけでの生活じゃないから。羽田さんとアツマさんの、ふたりでひとつの生活なんだから」

あははは……。

「食べてもいいでしょうか。ミナさん、郡司センパイ」

「あ、そうだった、お昼だった。わたしもお弁当作ってきたから、食べなきゃ」

そう言って、ミナさんもまた、お弁当箱を取り出すのだった。

 

× × ×

 

わたしとミナさんのお弁当箱の小ささを指摘した郡司センパイだったのだが、あえなくミナさんにお説教を食らってしまったのだった。

 

……さて。

お弁当箱を袋にしまって、わたしは、

「ミナさん。大井町さんは……やっぱり、今日も」

「……来てないねえ」

音沙汰なし。

ゴールデンウィークが明けても。

マズいパターンよね……これ。

「羽田さんは大井町さんと同じキャンパスでしょ? 彼女がキャンパスに出入りしてないかどうか、眼を配ってほしいな、わたし」

ミナさんは言う。

「幹事長としての……お願い」

とも。

「はい。気をつけてみます」

わたしはうなずく。

それから、ミナさんと眼と眼を合わせてみる。

なにも言わずに、見つめ合う。

真剣に。

……しかし、わたしとミナさんの真剣なムードを打ち破るようにして、

「高輪も、文学部キャンパスに行けばいいんじゃねーのか? 大井町を捜(さが)しに」

と言う郡司センパイ……。

「あのね郡司くん、そーゆー問題じゃないでしょ」

「なんでだよ。おまえと羽田のふたりで捜せば、見つかる確率は2倍になるだろ」

「うわっ……」

「!? なんなんだよ、そのドン引き具合!?」

「信じられない。郡司くん、大井町さんをポケモンかなにかみたいに思ってる」

「お、思ってねぇよ。ポケモンとか、そういう問題じゃないし」

加熱するふたり。

わたしは腕時計を見て、それから、

「おふたりとも――3限は?」

 

× × ×

 

幹事長&副幹事長コンビがダッシュで部屋を出た。

わたしも少し遅れて退室する。

 

わたしは3限には講義のコマが入っていなかった。

けれども、文学部キャンパスに向かってみた。

まず、生協の書籍売り場に行き、人文書の新刊をチェックする。

眼に飛び込んできた本があって、お値段も見ずにレジに持っていく。

学術書らしいしっかりとした価格だったが、わたしの財布は充実していた。

 

そしてそれから、例によってコーヒーが飲みたくなり、買いに行く。

生協を出て、辺りを見回しつつ、座れる場所を探す。

座れる場所を探すと同時に、大井町さんの捜索をするけれど、黒髪ストレートとジーンズがトレードマークの彼女の姿はどこにも見当たらない。

 

大井町さん。

やっぱり、あなたが居ないと、物足りないの。

あなたとケンカしたり、あなたとソフトボールで真剣勝負したり。

そういうことができないと、「張り合い」が無いのよ。

会うたびに反発し合うみたいな関係なんだけど、わたし、あなたのことが、嫌いじゃない。

ううん、「嫌いじゃない」というよりも、それ以上の……。

 

ベンチに座り、Mサイズホットコーヒーを飲み干した。

次の瞬間。

わたしのスマホの着メロが鳴り響いた。