【愛の◯◯】大井町さんの助けかた

 

漫研ときどきソフトボールの会」のお部屋に、4年生トリオが揃い踏み。

 

・ミナさん(幹事長)

・郡司センパイ(副幹事長)

・松浦センパイ

 

の3人なわけだが、やはり今日も、ミナさんが「強かった」。

「強かった」というのは、郡司センパイ&松浦センパイの男子2人に対して。

まず、『貸していた漫画単行本を持って来るのを忘れた』という理由で、松浦センパイにお説教。

次に、『副幹事長なのにサークル部屋に滞在する時間が短い』という理由で、郡司センパイにお説教。

 

お説教された4年男子コンビが、ションボリショボショボと隣同士で座っている。

強い幹事長女子のミナさんは、ションボリショボショボな男子コンビを睨(にら)んで、

「まったくもう。2人ともっ。どうしようもなく、だらしないんだからっ」

というコトバを浴びせる。

「ミナさん。少し言い過ぎかも」

やんわりと告げるわたし。

すると、

「羽田さんは優しいね」

と、わたしのほうを向いてミナさんは言い、

「だけど羽田さんも、こんな2人に遠慮する必要なんか無いんだよ?」

いやいや。

わたしまで遠慮しなくなっちゃったら、さすがにとっても可哀想ですし。

 

「ところで。」

ミナさんは窓の外に眼を凝らしながら、

大井町さんのこと、なんだけどさ。

 彼女、今週……たぶん、1回も部屋(ここ)に来てないよね」

というコトバを落とす。

確かに、そう。

大井町さんの姿が見えない。

サークル部屋で見ることが無いだけではなく、文学部キャンパスでも姿を見かけることが無い。

成績優秀で第二文学部の特別な奨学金も貰っている大井町さんが、急に学業までサボり出すなんて、ちょっと考えられないんだけど。

「わたし、心配」

右手で頬杖をつきつつ、ミナさんは大井町さんを案じる。

「わたしも心配です」

本心で、ミナさんに言う。

そう。

本心。

このサークルで唯一の、わたしと同期の女子。

第一文学部と第二文学部の違いがあるといえど、学んでいるキャンパスまで一緒なんだし。

 

× × ×

 

昨年度の終わりに、レポート提出で行き詰まっていた彼女を、秋葉風子さんと共に助けてあげた……ということがあった。

もしかしたら、現在(いま)も、彼女はピンチに陥っているのかもしれない。

学業的にピンチなのかもしれないし。

それに加えて、生活的にピンチなのかもしれないし……。

苦学生だもんね。

西武新宿線の都心からかなり離れたところのアパートでひとり暮らし……という状況は把握している。

 

「……アルバイト、掛け持ちしてるみたいだし。わたしが彼女みたいな境遇だったら、とっくに音(ね)を上げてるわよね」

「彼女って、だれのことだ?」

「あ。アツマくんだ。居たのね」

「い、居るに決まってるだろが。ふたり暮らしだし」

「わたしの呟きが聞こえちゃったか」

「聞こえた」

「聞こえたのなら……」

「ん?」

「アツマくん、あなたも、大井町さんのことを考えてあげてよ」

大井町さん? ……ああ、おまえが呟いてた『彼女』って、大井町さんのことだったんか」

「そうよ」

「おまえとサークル一緒の娘(こ)で、自分で生活費を稼いでるんだったっけか」

「そう。苦学生なのよ」

大井町さんに、なんか困りごとでも起こったんか?」

「詳しいことは分かんないけど、たぶんピンチなんだわ」

「ピンチ、ねぇ」

「もっと仲良くなりたいのに。もし大井町さんが、学業を続けていけないぐらいピンチだったなら……」

「心配なんだな」

「あたりまえ」

「連絡先は?」

「知ってる。知ってるし、メッセージも送ってあげたんだけど、なにも返ってこない」

「ふうむ」

丸テーブルに向かっているわたし。

彼は、そんなわたしと同じ向きになって、寄り添うように隣り合ってくる。

「……そこに移動した理由は、なんなの」

「おまえと同じ目線で考えたいからだよ」

目線……。

 

× × ×

 

同じ目線で、数分間黙りこくる。

双方、『大井町さんをどうやって助けてあげられるかな?』ということを思案。

少し、アツマくんに視線を寄せてみる。

視線が寄ったのにアツマくんが気づく。

気づくやいなや、彼は右手で、わたしの左肩を、ぽん、と押してくる。

「……。今のは、どういう意味合い??」

訊けば、

「おまえの、後押し」

後押しってなによ。

「後押しってなによ」

「や、『愛が、大井町さんのところに、行ってあげるのは?』と思ってさ。さっきのは、それの後押し」

 

……と、いうことは。

 

「つまり……。

 わたしが、彼女の住んでるところに行ってあげる。それから、家事だとか、身の回りのことをいろいろしてあげて、生活を助けてあげる。

 そういうふうにしてわたしが彼女を助けに行くことを、あなたは後押ししたかったのね」

「びっくりするぐらい理解が速いのな。おまえ」

「速いわよ。とーぜんよ」

「愛、おまえのそういうところ、マジで尊敬するよ」

「……どうも」

「尊敬するし、それから――」

「……なによ?」

「――そういうところが、好きでもある」

 

ちょ、ちょ、ちょっとっ!!

どうして、いきなり「好き」とか言っちゃうわけ!?

心の準備、できてないのに!?

そりゃあ、嬉しいに、決まってるわよ……?? 言われたら。

だけど、だけど……!!