【愛の◯◯】わたしのセンパイは彼より2ヶ月お姉さん

 

「――それで、あまりにも弱ってたから、思い切って、彼女の手を握ってあげようと思ったんですけど」

「積極的ね」

「『さわらないでっ!』って言われて、手を引っ込められちゃって」

「拒否られちゃったかー」

「残念でした」

「残念ね」

「まだ、わたしにココロを開いてくれてないみたい」

お邸(やしき)のリビング。

訪ねてきた葉山先輩に、昨日の一件を話しているところ。

昨日の一件とはもちろん、文学部キャンパスで、元気のなかった大井町さんをなぐさめようとしたこと。

「その大井町さんって娘(こ)と、よっぽど仲良くなりたいのね、羽田さんは」

「仲良くなりたいです」

「だから、スキンシップだとか、あの手この手を尽くすわけね」

首を縦に振る。

すると葉山先輩は、

「わたしなら、遠慮なく、さわってくれてもいいのよ?」

と。

「手を握ったって、オールOK」

とも。

わたしの視線はセンパイの手に向かう。

キレイな手。

「それとも、手じゃなくて、もっとキワドいところを、さわってみたかったりする?」

またまたー。

「もーっ、下品ですからー、センパーイ」

「あら」

ニヤつき加減のセンパイは、

「こっちから、あなたをさわったって、いいのよ??」

と言うけど、

「ダメ。スキンシップは、わたしがイニシアティブを取りたいんですっ」

と反発して、それから、急速にセンパイに肩を寄せて、それからそれから……!!

 

× × ×

 

ムニュ、とカラダに引っついてセンパイに甘えているわたしを見て、アツマくんがギョッとする。

「おれは……見てはいけないものを、見てしまってるのか」

なにを言ってるのやら。

「スキンシップってだけよ」

わたしはそう主張するが、

「おれのほうが恥ずかしくなっちまうようなスキンシップは、どうかと思うぞ」

「なによそれ!? センパイにカラダを預けてるってだけなのよ、わたし」

「だ・か・ら!! その、『カラダを預けてる』って、ひょーげんがっ!!」

そこまでしてわたしを不機嫌にさせたいの……と思い始めていたら、

「ケンカはやめましょうよ」

穏やかに、センパイに、叱られてしまった。

「言い合うのも、あなたたちらしさだとは思うけど。病み上がりの羽田さんに、激しい痴話喧嘩は、毒だわ」

さりげなく「痴話喧嘩」というワードを繰り出したセンパイから、そっと身を離す。

「それもそうだな。葉山には珍しい、正論だ」

「珍しいってなによ戸部くん」

む~っ、とした顔をアツマくんに向けるセンパイだったが、

「――ま、戸部くんに怒るために、ここに来たわけじゃないんだし」

と、柔和な顔になって、

「怒るんじゃなくて、祝うために来たんだもんね♫」

と声を弾ませる。

「本当の誕生日は22日だから、2日フライングだがな」

余計なことばっかり言うわねアツマくん。

オトナなセンパイは、アツマくんの余計さを全く気にすることなく、

「ボートレースだったら、返還欠場ね♫」

と楽しそうに言う。

「まーた公営競技に結びつけやがって」とアツマくん。

「あなたがフライングって口走るからでしょ」とセンパイ。

「おれは悪くないっ」

「悪いなんて言ってないですーっ」

敢えてコドモじみた話しかたをするセンパイ。

かわいい。

他方、溜め息をついてアツマくんは、

「……ま、たとえ2日早くても、わざわざお祝いに来てくれて、嬉しいよ。ありがとうな、葉山」

「22歳だっけ?」とセンパイ。

「そーだ」と彼。

「わたしのほうが2ヶ月早く、22歳になった」

「そーだな」

「悔しかったりする?」

「は!?」

「わたしのほうが2ヶ月お姉さんだって事実は、変えられないじゃないの」

「……けっ」

「出た。『痛いところを突かれた』っていう気持ちが露骨な、戸部くんの顔」

「うるさい」

「ふふふん♫」

「おれがおまえの弟だなんて、冗談じゃない」

「あらぁ」

「あーのなー。

 常日頃、思ってるんだがな。

 葉山、おまえのメンタリティは、永遠の18歳だ」

「?? なに、それ」

「いくつになっても、メンタリティが18歳から進歩しとらん、っつーことだよ!!」

「それは――良いの、悪いの?」

「『良い』が3割、『悪い』が7割」

「微妙ね。微妙すぎるぐらいに」

「……。

 このまま、歳を重ねていったら。

 葉山のことを、妹的な存在どころか、娘的な存在に感じてしまうようになっちまう……!!」

「よくわかんないんですけど~。もっと噛み砕いて~、戸部くん」

うろたえるアツマくん。

約30秒間、うろたえてコトバを喪(うしな)ったあとで、微妙にセンパイから視線を逸らし、

「か、噛み砕こうったって、簡単に噛み砕けるもんじゃないし」

と、弱くなった声で。

 

アツマくぅん。

答えになってないわよー?

葉山先輩に、完全に白旗ね。

『永遠の18歳』とか、安易に口走るからなのよ~~。