【愛の◯◯】肝心なことを確定できない彼

 

元・幹事長の久保山(くぼやま)センパイが、週刊少年ジャンプを読んでいる。

 

読み終えて、腕組み。

横幅が広いから、腕組みしてる久保山センパイ、貫禄がすっごく出てる。

 

…まあそれはそうとして。

 

「久保山センパイ。」

「ん? どーした、羽田さん?」

「ジャンプの、『あかね噺』っていう落語漫画、面白いですよね」

「――うん。面白い」

「アニメ化しますか? ジャンプの連載漫画って、どんどんアニメ化しますよね」

「何事もなければ、『あかね噺』も、ほぼ100%の確率でアニメ化すると思うよ」

 

なるほどー。

アニメ化確率、(ほぼ)100%かー。

なんだか、「アニメ化確率」って、降水確率みたいで、面白い。

 

――ところで。

 

「話は、変わるんですけど」

「うむ」

「わたし年末に、アツマくんと山陰旅行に行くことになってまして」

「ああ、聞いた聞いた」

「久保山センパイの地元が、鳥取県西部の某自治体じゃないですか」

「もしかして――米子(よなご)のあたりへ?」

「昨日の夜、アツマくんが、わたしに皆生温泉(かいけおんせん)の話をしてきて」

 

「――ほほぉ」

 

皆生温泉、主要目的地の1つになりそうです」

 

「――なるほど」

 

なにが「なるほど」なのかは推し測りかねるが、軽くうなずくような素振りで、久保山センパイは、

「ま、米子の代表的観光地ではあるわな」

と。

「賑わってるんでしょうか?」

訊いてみるわたし。

「90年代ぐらいまでは、今とは比較にならないほど賑わってた。――まあ今でも、閑古鳥が鳴いてるわけではない」

センパイはそう答えて、

「騒がしくないから、ゆったり過ごすには丁度いいと思うよ」

と言い足す。

「それは良かった。皆生温泉に泊まるの、確定にします」

わたしは言う。

「エッ、確定にしちゃっていいの」

「迷ってても仕方ないので」

「皆生に泊まる、確率は……」

「100%、です」

 

……降水確率ならぬ、宿泊確率。

 

さっそく、LINEアプリでアツマくんに、「確定」の連絡メッセージを送る。

 

× × ×

 

皆生温泉のほかにも、久保山センパイから、米子・松江近辺のこと、いろいろ教えてもらったの」

 

アツマくんの部屋でアツマくんと会話中。

わたしは、ココロ◯ライグマのぬいぐるみを抱きながら、彼と話している。

ココロ◯ライグマのぬいぐるみは、アカちゃんが自分で制作して、わたしにプレゼントしてくれたもの。

 

椅子からわたしを見下ろすアツマくんは、

「久保山くんか。おまえの誕生日のとき、邸(ここ)に来てくれたよな。おまえのサークルの幹事長なんだっけ」

「違うから。久保山センパイは幹事長引退したの。3年の高輪(たかなわ)ミナさんに引き継いだの。わたし、話してあげたわよね!?」

「あーっ」

「微妙な反応ばっかりしてると、椅子から引きずり降ろすわよ」

「…凶暴な」

 

凶暴で悪かったわね。

 

「…凶暴ではあるが、裏返せば、完全なる復調に、だいぶ近づいてるってことでもあるな、うん」

 

なにひとりで納得してんのよ。

 

「わたし、同じ目線になってほしい。」

 

要求。

 

「なぜ」

 

愚問。

 

「見下(みおろ)されるのは、なんかイヤ」

 

理由。

 

「おいおい、おまえもずいぶん、テキトーじゃねえか」

 

不用意!

 

 

……イライラとしつつあるわたしを宥(なだ)めようとする気持ちになったのか、彼は椅子から降りてくれる。

 

「……」

「……」

 

互いに無言。

謎めいた沈黙。

 

「……。

 宿泊先、皆生温泉に確定はしたけど。

 昼間のうちに考えてくれたのよね? 宿の候補」

 

「ああ。絞ったぞ」

 

「いくつに?」

 

5つ

 

ば、バカッ。

 

ぜんぜん、ぜんぜん絞れてないじゃないの!!

 

「エエーッ」

 

「絞るっていったら、ふつう2つか3つでしょ!? 手際が悪すぎるんだからっ!!!」

 

慌てて、ココロ◯ライグマのぬいぐるみを放り投げる。

ごめん、アカちゃん。

ごめんなさい、サ◯エックスさん。

 

ぬいぐるみを放り投げたわたしは、アツマくんのカラダに急速に接近。

 

ムギュ、と、彼の胸に引っ付きつつ――。

 

「早く、絞るのよ。

 候補。宿の候補。

 わたしも協力するからっ。

 

 ……できるわよね?

 こうやって、スキンシップまでしてあげてるんだから」