実家の自分の部屋で起床した。昨日、福岡から東京(こっち)に戻ってきた。一時帰省(いちじきせい)の2日目。
『AM8:00』というデジタルクロックの表示を見る。まだ午前8時になったに過ぎないというのは大事(だいじ)だ。『あいつら』に順繰りに電話をかけていけば、終わった頃にはちょうど1レースの発走時刻付近になっているはず。
そういうワケで、スマートフォンの電話帳を開く。
× × ×
岡崎竹通(おかざき たけみち)。とある高校の1期下。なおかつ「スポーツ新聞部」の1期下。
「岡崎よ。おまえがトップバッターだ」
『トップバッターってなんなんですか』
「おまえは、『スポーツ新聞部』関係者に順繰りに電話していくプロジェクトのトップバッターに選ばれたのさ」
『ですから、『トップバッター』というのがイマイチ分からんのですがっ』
「仕事はどーよ? リーマン生活、始まってるよな?」
岡崎は、少し口ごもってから、
『そりゃあ始まってますよ。始まってますけど、中村さんの方から唐突に仕事のコト振られたから、心臓がジャンプしそうになっちまったじゃないですかっ』
「――桜子(さくらこ)との『人生設計構築』、抜かり無くやってるか?」
おれがそう言った途端に、
『さささささくらこっ!?!? なんで、なんで、あいつの名前を、突然に……!!』
と、岡崎は絶叫。
笑い声を出すのをガマンするのが無理になる。
× × ×
一宮桜子(いちみや さくらこ)。とある高校の1期下。なおかつ『スポーツ新聞部』の1期下。
「桜子よ。おまえが2番バッターだ」
『……はい?』
首を傾げている桜子が眼に浮かぶおれは、容赦無く、
「おまえまだ千葉住(ず)みだったよな? 岡崎竹通は週に何回おまえのマンションまで通ってくるんだ?」
ここで、型通りの「沈黙」がやって来た。
桜子は、こうなるのだ。痛いトコロを突かれた途端に、口に出すべきコトバを見失い、自分の時計を自分で止める。
行(ぎょう)を1つ空(あ)けねばならん程に、桜子の時間は止まっていた。
止めたのはおれの方なのだから、『フォローとケアをしてやらんといけないか』と思い始めていたトコロだったのだが、
『竹通くんとのコトを掘り下げようとしてくるのはカンベンしてくださいっ』
と、非常に早口で、桜子の方から沈黙を破ってきた。
『中村さんだって今みたいに帰京(ききょう)してる時はマオさんの実家のお店に毎日通うんでしょう!? マオさんと毎日長時間一緒に居なきゃですよね!? そうですよね!?』
早口が面白過ぎるおれは、のほほんと笑うばかり。
× × ×
瀬戸宏(せと こう)。とある高校の1期下。なおかつ『スポーツ新聞部』の1期下。
「瀬戸よ。おまえが3番バッターだ」
理解が速い瀬戸は、
『……岡﨑、桜子と来て、おれの番なワケですね』
「そのとーりそのとーり。クリーンナップ突入だ」
『中村さん? どうせ、神岡恵那(かみおか えな)とのコトを突っついてくるつもりだったんでしょ? 覚悟はできていましたよ』
「するどーい」
『……』
瀬戸の沈黙を5秒間味わった後で、
「ほら。アレだ、アレ。アレになったら、アレになるだろ」
『中村さん、何回『アレ』っていう指示語使うんですか。もっと普通にやってください』
そーか?
それなら。
「今はまだ、『神岡恵那(かみおか えな)』さんで、ひらがなにしたら6文字だけども」
瀬戸のヤツが息を呑むのを想像しながら、
「『瀬戸恵那(せと えな)』になったら、ひらがな2文字短縮で、たったの4文字だぁ」
『お、おれ、いってますよね!? フツーにやってください、って!!』
「これが普通なんだが」
『これだから、お行儀の悪いスポーツ新聞部元部長は……』
「で、『式の日取り』は?」
『ばばばバカ!! バカじゃないですかホント!?』
× × ×
「説明しよーう。高校卒業間際の土壇場で、水泳部の神岡恵那さんに瀬戸は告白、カップルが即座に成立、故障で競泳選手を諦めていた瀬戸は、彼女にずっと献身的であり続けていて……」
虚空に向かって吐いていた説明ゼリフをいったん切る。
ところで、本当は瀬戸の次に、2期下の戸部(とべ)あすかさんにも電話しようと思っていたんだが、岡﨑・桜子・瀬戸との会話が弾み過ぎて、できなかった。
あすかさんに電話するとしたら、12レース確定後の夕方だ。
「夕方に回してでも、あすかさんと通話しておいた方が良(い)いわな。いろいろ訊きたいコトはある。ただ、的を絞らんと彼女の方が困るだろう。ここは1つ、彼女の就職先の◯◯に的を絞って……」
またもや虚空に独白である。だってガマンできないんだもん。
スーパーでスペシャルな属性を多数持っている戸部あすかさん。
彼女の就職先は、『青春(せいしゅん)スポーツ』というスポーツ新聞社だ。
スポーツ新聞記者になるんだから、おれが興味あるのは、当然のコトながら……!!