【愛の◯◯】彼の卒業式の待機

 

・わたし

・ミナさん(幹事長)

・松浦センパイ

・新田くん

・拳矢くん

 

現在(いま)、サークル部屋に居るのは、こんなメンバー。

 

新田くんと拳矢くんが声優トークを繰り広げている。

お馴染みの光景。

「……で、拳矢。結局おまえは、花澤香菜派と井口裕香派のどっちなのさ?」

新田くんがチャージをかける。

拳矢くんはやや苦笑いで、

「ですから、何回も強調してる通り、『どっち派』とかありませんから」

「ホントかよ」

「ホントです」

反撃の拳矢くんは、

「新田先輩はたぶん、井口裕香派なんでしょ」

「なぜそう思うか」

「根拠は――井口裕香さんと花澤香菜さんが共演してるアニメの中に」

「ほほぉ!?」

「なんなら今、そのアニメを再生したっていいんですよ?」

反撃の拳矢くんに対し、新田くんは腕まくり。

どうして腕まくりしたの。

少し気になったので、

「新田くん。その腕まくりの意味合いはなに」

と訊く。

新田くんは、うっ……と苦い顔に。

「ヤバいな。ハッスルし過ぎになってる?? 俺」

「というか、少し大人げないかも」

指摘のわたし。

「そうか……大人げないか」

ショボン、と新田くんは俯(うつむ)く。

俯いたけれど、すぐに目線の高さを戻して、

「よし、拳矢、この論争はまた今度にしよう」

また今度、ってことは……続けていくのね。

声優語りって、本当に沼が深いのね。

「そうですね。話題を変えましょうか」

と拳矢くん。

「どんな話題がいいかなあ……」

迷う拳矢くん。

そこへ、幹事長ポジションのお席に座っていたミナさんが、

羽田さんの彼氏を話題にしようよ」

 

いきなりわたしの彼氏、ですかっ。

 

「アツマさんですか」と新田くんはミナさんに。

「アツマさん、アツマさん」とミナさんは愉しそうに。

わたしの顔を見てきたのは拳矢くん。

彼が、

「アツマさん、今日が大学の卒業式なんでしたよね」

と言ってきたので、

「そうよ。わたしがサークル部屋に入ったときに説明した通り。式が終わるのを待って、それから合流する」

「おめでとうございます」

「あ、ありがとう、拳矢くん」

「去年の11月、羽田センパイの誕生日祝いでお邸(やしき)に行ったとき、アツマさんともお会いしましたけど」

「そ、そーね」

強そうな男性(ひと)ですよね

否定の余地もない指摘をする拳矢くん……。

第一印象で把握できるなんて、賢いのね。冴えてるのね、あなた。

そうよ。そうなのよ。

アツマくんは、わたしより――強い。

「男性声優だったら、だれの声がシックリ来るかなあ?」

「け、拳矢くん?」

「ハイ」

「なんでもかんでも声優さんに結びつけるのも、程々にね」

「あっハイ」

「……」

 

× × ×

 

新田くんがアツマくんのことについて質問してくる。

ミナさんはアツマくんのことについて、新田くんの10倍質問してくる……。

彼が高校3年のときの200メートル走のタイムまで質問してきたミナさんだったが、いったん質問攻めの勢いを緩めて、

「松浦くーーん」

と、存在感が薄らいでいた松浦センパイに対し、

「さっきから一切喋ってないじゃない。アツマさんに興味ないの?!」

と猛攻撃。

「や……おまえの質問攻めのせいで、羽田がタジタジになっちゃってるし。無闇に羽田の彼氏さんのこと、ほじくらなくっても……って」

「ダメだよ」

「なにがダメなんだ」

「乗ってきて。流れに」

「流れ??」

松浦センパイの疑問を無惨にも宙吊りにして、わたしの右斜め前の席まで移動してきて、

「どう?!?! もう終わるんじゃないの、式典」

とウキウキと言うミナさん。

 

ミナさんってば……。

 

わたしはスマホの画面を確かめる。

それから、敢えてミナさんに応答せずに、スマホを静かにテーブル上に置く。

それからそれから、両手を両膝(ひざ)に置いて、背筋を伸ばして、スーッ、と深呼吸する。

「え……。今の深呼吸の……意味って」

100パーセントスマイルで、ミナさんと眼を合わせる。

そして、

「ミナさん。アツマくんの卒業式会場までついてくる――とか、言いませんよね」

「え、えっ」

わざと、くすくすっ、と笑って、

「その気は無いみたいで、良かったです」

「は、はねださん……」

独り占めしたい日、なんだから」

「!? だ、だれを」

にぶ~~~い、ミナさん