『漫研ときどきソフトボールの会』から7人のメンバーが、わたしの誕生日を祝うためにお邸(やしき)に来てくれた。
× × ×
「羽田さんの彼氏、どこに居るの??」
日暮(ひぐらし)さん……やって来るなり、突拍子もないことを。
まあ、いいんですけど。
「バカじゃないか真備(まきび)。開口一番がそれかよ」
久保山(くぼやま)幹事長がすぐさま日暮さんをたしなめる。
微笑ましいな…。
「ぜんぜんいいんですよ、幹事長。いつもの日暮さんじゃないですか」
「羽田さん……真備は本来、抽選漏れだったんだ。でもコイツ、どうしても行くって言って聞かなくて……」
「嬉しいんですわたし。だって、日暮さん、そうまでして――わたしを祝ってあげたかったんでしょうから」
「その通りだよ羽田さん。いつ祝うの? 今でしょ! って感じで」
日暮さんが言う。
日暮さんは、こうでなくっちゃ。
うろたえ加減の幹事長の横で有楽(うらく)センパイが、
「体調は……だいじょうぶ?」
と気づかってくれる。
「ハイ!! どんどん回復してきてます」
そう答えるわたしを見つめて彼女は、
「安心かな」
と言ってくれる。
それから、
「お肌のツヤも良好だし」
とも。
「ねー。羽田さん、いつでも美人だよね~~」
日暮さん、またまたぁ。
「それで、彼氏は今、どこに??」
またまたぁ~~。
「いい加減にしろ、真備――」
ふたたび日暮さんをたしなめようとする幹事長、であったが、
「アツマさん、もしかしてキッチンに居るとか!?」
と…今度は、高輪(たかなわ)ミナさんが、すごいテンションでわたしに迫ってくる。
「どうしてわかったんですか? ミナさんは、すごいんですね」
彼女の言う通り、彼はキッチンで作業中だ。
「もう少し待っててくださいね。いろんなお料理が出ますから」
「ホント?! 楽しみ。アツマさん見るのはもっと楽しみだけど」
あははは。
「アツマくんのこともいいんですけども。
ミナさん、次の幹事長に任命されたそうで」
「そうね。わたし、ネクスト幹事長」
「で――、郡司(ぐんじ)センパイが、ネクスト副幹事長」
「だよん」
「そういうこった、羽田。そろそろサークルも新体制になる」
郡司センパイが言ってくる。
「楽しみです、新体制」
とわたし。
「新しい幹事長が暴走しないよう…監督する役目だ」
そう言った郡司センパイを、ミナさんがむ~~っ、と睨みつけ、
「わたしは暴走族じゃないよ、郡司くん」
「いや暴走族ってなんだよ」
「わかってるでしょ!? 高校からのつきあいなんだから。
わたし、暴れても、歯止めを自分でかけられるって」
「暴れるのが前提みたいに、おまえは……」
「ぷいっ。」
「なーにが『ぷいっ。』だ、なーにが」
「ネクスト幹事長命令で、郡司くんのお料理抜きにしちゃうよ??」
「…さっそく暴走か、高輪は」
「だからなんで暴走族と結びつけたがるの?!」
「結びつけてねーよ!! なんなんだおまえ、まったく…」
「わたしはわたし」
「…ハァ。」
「溜め息ついた!! お料理1品抜き!!」
面白い……。
「おー、おれたちの不毛なやり取りが、羽田のツボにはまったらしい」
「お、お、おもしろいから、オールオッケーですよ、おふたりとも」
「……腹抱えて笑う勢いだな、羽田」
× × ×
「羽田さん、この邸(いえ)すごいね」
でしょ? 新田くん。
「でしょー??」
「1階だけで…部屋が何部屋あるのかな」
「わたしも長年住んでるけど、把握しきれてないの」
「まさしく豪邸だな」
「わたしはただの居候よお」
「い、居候とは」
わざとらしく、天井を見上げてみた。
「……6年前からなの。ここに住んでるのは」
「……へえぇ」
「このお邸(やしき)が、わたしを育ててくれた」
「育てて……。」
「アツマくんだけじゃなくて、みんながわたしを育ててくれた。大事にしてくれた。今だって、支えてくれてる」
「……いいね。そういう環境」
「いつか、大井町さんも、呼べたらいいなって思ってる」
唐突に大井町さんの名前を出したからか……新田くんは口ごもる。
「…たしかに大井町さんとは、いがみ合ったりもしたけど。
キライなわけじゃないから。あの子のこと」
「……」
「おい新田。そこで黙っちゃいかんだろ」
叱る郡司センパイ。
「羽田はほんとうに偉いな。大井町のこと、よく理解してやってる」
「それほどでも。郡司センパイ」
「そうですね……郡司先輩。
俺、もうちょっといろんなことに……向き合ってみますよ」
新田くんがすごくいいこと言ってる!!
× × ×
そして来訪者はもうひとり。
1年生の幸拳矢(みゆき けんや)くん。
「どう? 拳矢くん。このお邸(やしき)の印象は」
「……」
「遠慮はナシよ♫」
「…。
もちろん、広さにもビックリしましたけど。
テレビが…このスペースだけでも、5台もあって」
「そうねー。完全にテレビは余ってる状態」
「すごく上等なステレオコンポだとか……」
「あーっ。あそこのステレオコンポは、この邸(いえ)だとまだ安物のほうよ」
「えっ!?」
「拳矢くん。あなた、お家にレコードプレーヤー、ある??」
「い…いいえ。レコード自体、聴いたこともなく…」
「じゃあ、あとで聴かせてあげてもいいわよ」
有楽センパイが興味深げに、
「CDもいっぱいありそうだけど、レコードもいっぱいありそうよね」
と言うから、
「ありますよー。ちょっとしたコレクションですね」
「すごい、すごい」
「音楽関係だけじゃなくて、ですね」
「えっ? まだなにか、すごいコレクションがあるの?!」
「邸(ウチ)はですね。……蔵書の数が、ヤバいんです」
「ほーっ」と有楽センパイ。
「なるほどねぇ」と日暮さん。
「スゴそう~」とミナさん。
「さすがだな」と郡司センパイ。
「本もですか!」と拳矢くん。
「もしかして――書庫みたいなのがあったり?」と訊く新田くん。
「ビンゴよ新田くん。あなたが大好きなマンガもかなーり眠ってると思う」
「マジか」
真剣な眼になる新田くん。
「――ま、書庫ツアーみたいなのは、後回しとして、」
幹事長がダイニング・キッチンのほうを見やって、至極冷静に、
「なーんか、お料理のいい匂いが、漂ってきてるぞ。
そろそろ……スタンバイOK、っていう雰囲気になってきた」
……鼻がいいんですね、幹事長。