【愛の◯◯】新・幹事長はわたし、新・副幹事長は……

 

漫研ときどきソフトボールの会』のサークル部屋に3年生メンバーが勢揃いしている。

すなわち、

・わたくし羽田愛

・侑(ゆう)

・新田くん

・脇本くん

の4名だ。

加えて、いちばん奥のほうのお席には、現・幹事長の高輪(たかなわ)ミナさんと現・副幹事長の郡司健太郎(ぐんじ けんたろう)センパイが並んで座っている。

 

「今日3年のみんなを呼び出した理由は、もう分かってるよね」

幹事長たるミナさんが笑顔で話を切り出す。

「もうすぐ幹事長のわたしも『ご卒業』。加えてそこの副幹事長の郡司くんもどうにか卒業」

「高輪ッ。自分で自分の卒業を『ご卒業』と言うなッ」

素早くツッコミを入れる郡司センパイ。

息の合いかたが大変よろしいようで。

「『どうにか』卒業だとか、おまえはいっつも余計なことを言い過ぎる!」

不平の郡司センパイを見た3年生カルテットの間に笑い声が拡がっていく。

「ぐ……大井町までそんなに大笑いするか。予想外な」

うろたえ気味に郡司センパイが侑を見た。

「すみません」

余裕タップリに侑がお返事した。

さらにうろたえの郡司センパイ。

早くも『収拾がつきませんよモード』に突入しかかっているので、

「ミナさんミナさん。お言葉を続けてください」

とわたしが促す。

「わかった、続けるよ」

ミナさんは割りと真面目色(しょく)の強い喋りかたで、

「幹事長職を引き継ぐ季節なのね。ついでに副幹事長職も」

『ついで』扱いされた現・副幹事長たる郡司センパイに一切構うこと無く、

「それで、だれに引き継ぐかって話なんだけど」

「次の幹事長のこと、ですね」

「そーよ羽田さん」

「ミナさんにはココロに決めた後輩が?」

「いるよ羽田さん」

「だれですか」

「あなただよ」

!!

「羽田愛さん。あなたをこの場で、次期幹事長に指名します」

ミナさんが言った。

言った彼女と、わたしは見つめ合い始める。

『……』と見つめ合って約20秒。

どこからともなく拍手する音。

拍手の音は拡がっていき鳴り響いていく。

「羽田さんなら120%立派に職務を全うしてくれる。漫研のほうもソフトボールのほうも実力文句なしだからね」

言うミナさんに、

「漫画の詳しさのほうは、未だ中途半端ですが」

と苦笑しながら答えるが、

「細かいことは置いておこうよ」

とミナさんは答え返し、

「漫画のほうも、郡司くんよりは2段階は詳しくなったでしょ?」

と、微笑(わら)う。

今にも『ケッ……』と不満を垂れそうに、郡司センパイがそっぽを向く。

ちょっと可愛いと思っちゃった。

 

× × ×

 

幹事長引き継ぎに関わる諸々のやり取りをしたあと、

「じゃあ、もう今日この日から、よろしくお願いします……」

と、急にあらたまったようにわたしに幹事長の職務をお願いするミナさん。

どうしたのかな。

恐縮してるような……。

「んっと、んーーっと、はねださん??」

「どうしましたか? なんかヘンですよ? ミナさん」

「あのその、あの、そのっ」

下向き目線で、

「い、『1年間よろしく』って、言おうと思ったんだ。でもホラ、羽田さんあなた、1年間の次の『もう1年間』が……!」

なるほどなるほど。

「なるほどですミナさん。それで縮こまり気味なんですね」

「……」

「気を遣う必要、ゼロですよ。」

「でもっ」

「4年になっても、5年になっても、頑張るだけですから」

顔がすこしほころび、頬をほんのり染めつつ苦笑いで、

「流石だね。強いな、あなたは」

やったあ、ホメられた。

「肝心なとこで不甲斐ないのな、高輪は」

郡司センパイ郡司センパイ。ミナさんを不用意に煽ったらヤケドしちゃう危険性が……。

……ほらほら。ミナさん、既に郡司センパイの右手の甲を強くつねり始めちゃってるし。

 

× × ×

 

ほっこりとした空気は続いていく。

 

今年度当ブログで影がかなりかなり薄い説濃厚な脇本くん。

彼が、

「あのお」

と、右手の甲を痛がっている郡司センパイのほうを向き、

「ところで、副幹事長は? 郡司センパイが副幹事長は指名する流れなんでは?」

しかしながら郡司センパイは自らの右手の甲の痛みに苦悶し続けている。

戸惑う脇本くん。

だったのだが、真横の席の新田くんが、

「火を見るよりも明らかだろ、次代副幹事長は」

「えっ? なんだよそれ新田」

「まだわからんのワッキー」と新田くん。

「……わからん」とキョトーン状態な脇本くん。

向かい側の侑が、

ワッキーく……脇本くん? わたしでも既に勘づいてるのよ?」

「え!? 大井町さんも!?」

わたしは思わず吹き出してしまった。

真向かいにいる脇本くんは、なおも怪訝そうに、

「みんないったい、だれに副幹事長が引き継がれると思って……」

ここで、ようやく右手の甲の傷が和(やわ)らいだ現・副幹事長が、

「あーあー、次の副幹事長はおまえだ、ワッキー

「まままマジですか!?」

「おいおいおい。くれぐれも驚き過ぎて椅子から跳び上がらんでくれよ」

「じゃ、ジャンプなんか、しませんが……!」

「よし」

と言い、それから郡司センパイは、

「おまえ就活せんのだよな? 就活の代わりに司書資格の勉強するんだったよな?」

「言いましたっけ……」

「言った」

郡司センパイは、

「進路がそういうふうならば、新田や大井町よりは時間に『ゆとり』ができるだろ。幹事長やる羽田も、なんだかんだで負担が多くなると大変になっちまう。サポート役だ。ヘルプ役だ。場面場面で羽田を支えて助けてやってほしい。できるよな? ワッキー。できないなんて言わせないぞ」

脇本くんが一気に真面目クンな顔面に。

「わかりました」

芯の強い決意の声。

男の子だ。

 

「脇本くん。」

「……うん。羽田さん」

「気を張り詰めさせ過ぎないようにね。サポート役ヘルプ役はもちろんありがたい。郡司センパイは大事なことをあなたにおっしゃっていたわ。だけども」

愛の籠もった満面スマイルでもって、

「力の抜きどころも重要よ」

と言って、

「それにわたしは優しいから。あなたの手の甲をつねったりは絶対にしないから

後ろから、

「けっこう……羽田さんも容赦ないトコあるよね」

と、ミナさんの、ボヤき。