【愛の◯◯】彼女は無限の◯◯に満ちて

 

昨日はカフェで小野田さんとふたりで宮島くんを好き勝手にして愉しかった。

宮島くんは今度あすかさんと出逢ったときに上手く対応できるのかしら。

気掛かりだけど微笑ましいわね。

 

さて、今日のわたしの出向く先はと言えば。

 

× × ×

 

「あすかさんと合流できなくって少し寂しいかもです」

あすかさんの実家たるお邸(やしき)の広大なリビングの絶妙に座り心地が良(い)いソファに座って羽田愛さんに向かって言う。

「仕方ないわよ。あすかちゃんは大学でいろいろやることがあるみたいだから」

「アクティブですね」

「アクティブね。いろんなことを振り切るみたいに」

「振り切らなくちゃやってられないんでしょう」

「確かに」

愛さんはソファの背もたれに身を委ねて、

「もう徳山さんも1年の後期が始まってるわよね。大学には完全に慣れた感じかしら」

わたしは、『素敵なロングスカートだな』と思いつつ、なおかつ『わたしのほうが身長は高いのに、愛さんのほうがどんなコーディネートでも似合うんだ』とココロの中で軽く嘆きつつ、

「完全にではないけど、慣れました」

と答える。

愛さんはやや背筋を伸ばし、

「えーっと、あなたが卒業するのは3年後で」

と言い、

「わたしが卒業するのは『2年後』の見込みだから、わたしのほうがゴールは1年早いのか」

と言う。

……『2年後』?

「1年後じゃないんですか、愛さんは? 3年の後期なんですよね?」

「りゅーねんがきまってるのよ♫」

 

ああっ……。

 

わたしは急激に申し訳なくなり、

「すみません、不用意なことを言って」

「気にしない気にしない」

愛さんがわたしの座っているソファの位置に近寄って、

「あすかちゃんと大学卒業の見込みが同じってことね。あすかちゃんと足並みが揃うんだから、そこはポジティブシンキングで」

「ですけど……」

「コラコラ♫」

満面の笑みでさらに距離を詰めていき、わたしの髪を軽く撫でる。

こそばゆい。

撫でられたら撫で返したくなるのが人情だから、

「こそばゆいですよっ、愛さん」

と、わたしのほうから彼女の左肩に右手を置いてみる。

いっぺん彼女の肩を撫でてみたかったのだ。

 

× × ×

 

愛さんのお部屋に移動した。

「愛さんのコンディションが良好でなによりです」

「まだときどき不安定になるけどね。りゅーねんのおもみってゆーのが」

「落第云々でいつまでも引っ張らなくたって」

「エヘヘ」

小悪魔的に笑う愛さん。

びっくりするほど可愛い。

勉強机の椅子に腰掛けている驚くべき可愛さの彼女に見惚(と)れてしまう。

「徳山さーん」

あちらから、

「コンディションは良好で間違いないのよ。でも、今日は気温もちょうどいいし、お陽(ひ)さまも気持ちいいし、ベッドでくつろぎたい気持ちもあるのよね」

カーペットのわたしは、

「自分の部屋なんだから、自由に好きな姿勢をとって良(い)いじゃないですか」

「あなたの言う通りだわ」

立ち上がる愛さん。

綺麗な足取りでベッドに近づく愛さん。

優雅にベッドに背中を託す愛さん。

栗色の長い長い髪がベッドに広がる。

艶(なま)めかしさすらある。

こんな美しい女子大学生、他には居ない。そう強く信じてしまう。

わたしは勇気を出して、

「愛さん」

「どーしたの?」

「わたし左隣に来ても良(い)いですか」

「寝転ぶってこと?」

「ハイ」

「拒むわけないでしょ? 許可なんてとる必要もないわ」

「それでしたら」

背中からダイブするようにしてベッドに乗る。

ベッドに背を預け、愛さんと共に天井を見つめていく。

 

『……』

 

ふたりに心地良い沈黙が下りる。

 

× × ×

 

15分は天井を見つめ続けていた。

心地良さのあまりに、

「浪人のとき愛さんが家庭教師役になってくれたコトぐらい幸せなコトって、ありませんでした」

と言ってしまう。

言ってしまった後悔はなく、

「奇跡みたいだったって思う」

と付け加えていく。

「徳山さぁん。おーげさ」

愛さんは笑い含みに、

「全部あすかちゃんのおかげでしょ? あすかちゃんの『斡旋』だったんだもの」

「確かに」

「あすかちゃんにも、わたしに対してと同じくらい感謝しておくのよ?」

「あ、叱られちゃった」

わたしはくすぐったくなって苦笑い。

「叱りかたまで上手なんだから……愛さんって」

「スゴいこと言うのね」

「スゴくないですよ、他の人でも同じこと言いそうだし」

「例えばだれが?」

「それはもうアツマさんですよ」

いきなり現在の彼女の暮らしの『パートナー』の名前を出してしまうわたし。

彼女の寝転びかたがわたし方面の横向きになり、ちょっとだけカラダが丸くなって、

「どうかしらね。普段彼のこと叱り過ぎてるから、ウンザリの度合いも高いのかも」

「パートナーを疑っちゃダメですよー。絶対アツマさん、愛さんの叱り上手をリスペクトしてますって」

「……ごりごり推していくのね」

「アツマさんをですか?」

「彼を」

天井に自分の笑顔を向かわせながら、

「魅力120%な男子(ひと)じゃないですか。愛さんは同居してるんだから、180%ぐらいの魅力を感じてるんでしょう?」

「……」

「まったくー。黙っちゃやーですよ☆」

軽く彼女を横目で見てみた。

女子高校生みたいなあどけなさが顕(あらわ)れ始めている。

そんな彼女に、

「叱り上手に教え上手……なんてカンペキなのかしら」

と愉しく言って、

「りゅーねんだとかラクダイだとかで、縮こまらないでください。言うまでもなく無限の可能性があるんですから、愛さんには」

と、励ましてあげる。