【愛の◯◯】徳山さんの急接近

 

徳山すなみさん。

あすかちゃんの親友。

あすかちゃんとは、高校時代同級生で。

今は、予備校生。

年が明けて1月だから……受験の追い込み。

 

× × ×

 

「あけましておめでとうございます、愛さん」

お邸(やしき)にやって来た徳山さんに丁寧に挨拶される。

「あけましておめでとう、徳山さん」

「――あのっ」

「?」

「アツマさんは、居(お)られないんですか?」

「え、どうしてそんなことを……」

「愛さんとアツマさんがいっしょに居(い)るところが見たくって」

焦り気味になって、

「か、彼は彼で、忙しいみたいだから……」

と言うと、

「そうですよね、就職されるんですもんね」

と、彼女は朗らかな笑みで。

そして、

「あすかさんも――」

「うん。あすかちゃんも、外出中。プロ野球関連の本が充実してるお店に行きたいとか言ってた」

「愛さんの弟さんは?」

「利比古も、自分の所属クラブの先輩だった子たちと会うって言って、出かけていった」

朗らかな笑みのまま、

「じゃあ、ほとんど2人きりですね」

と徳山さん。

「そ…そーともいえるかな?!」

少し困惑のわたし。

徳山さんの朗らかな笑顔に、朗らかさ以上のものを読み取ってしまう。

 

× × ×

 

わたしの部屋に移動。

「徳山さん、体調は……大丈夫そうね」

「はい、元気です。このまま本番まで元気で突っ走りたいですね」

「突っ走る……」

「――もちろん、気づかってくれるのは、嬉しいですけど」

「え…? なに」

「わたしのほうが、愛さんを気づかってあげたいかな」

「?!」

「まだ完全に回復したわけじゃないんでしょう?」

う……。

「あすかさんに昨日電話で言われました。『まだ完調手前だから、気にしてあげて』って」

「……だいじょーぶだから。あなたの指導は、ちゃーんとできるんだから」

隣の椅子に座る徳山さんの微笑。

『強がらないでください』というメッセージが放たれているような、微笑……。

 

× × ×

 

現代文の問題を解かせるところから始めた。

「できました」

徳山さんがそう言ったので、問題集を受け取り、赤ペンを持つ。

ところが。

採点はできたんだけど、どういうふうに解説してあげればいいのか、頭の中でまとまらない。

赤ペン先生になることができない。

まるで――消耗の証(あかし)みたく。

眼に見えないくたびれが、わたしに――!?

「どうしました? 愛さん」

徳山さんが近づいてきて、

「もしかして、気分悪いとか」

「き…気分悪いんじゃなくて、ね。

 どう言ったらいいのかな……。

 なんだか、わたし、消耗しちゃってるみたいで」

「それは大変」

「どうしてなのかしら……。もしかしたら、年末に山陰旅行に行ったのと、お正月三ヶ日(さんがにち)ではしゃぎ過ぎたのが、ミックスされて……」

「――今になって、蓄積された疲労が、ドバっと出てきちゃってると」

「そうなのかも……。ごめんね、徳山さん。調子に波があるのは当たり前なんだけど、よりによって、あなたの受験勉強を見てあげなきゃならない時に……」

彼女はわたしに、さらに接近してきていた。

彼女の左肩とわたしの右肩が、触れ合いそう。

ドギマギし始めていたら、彼女が向きを変えた。

ほぼ真正面からわたしを見てくる。

それから。

わたしの両肩に……両手をぽん、と乗せてくる。

「愛さん」

「……なにかな」

「休みましょう」

「えっ……。でも、わたし、あなたの先生になってあげないと――」

「しゃべり過ぎは、カラダに毒」

「と、とくやまさんっ」

「ベッドに横になって」

「きょ、強制!?!?」

構うことなく、

「ひとりで、ベッドに横になれますか??」

と徳山さんは……。

少しうつむいて、

「それぐらいは……できるけど」

とわたし。

「だったら、これから90分、自習タイムということに」

「90分も!?」

「120分でもいいですけど」

「どこまで……心配してるの、わたしの調子」

「とりあえず、寝ましょうよ」

「……」

「わたしの言うこと聞いてください」

「……積極的ね」

「あすかさん、こんなことも言ってたんですよ。

『スキンシップが、おねーさんには効果的だよ』って」

 

あすかちゃん……イジワルなんだからっ。

 

だけど、わたしは観念して、抱きかかえてくる勢いの徳山さんに、

「ありがとう。あなたの言うこと、聞く」

と……弱々(よわよわ)な声で、応(こた)えてあげるのである。