「おはよう、愛。さっそくだが……」
「えっ、なになに??」
わかってはいるんだけど、
わざと、もったいぶらせてしまう。
アツマくんは軽く息を吸って、
「……誕生日、おめでとうだ。おまえももう18歳なんだな」
「ありがとうアツマくん! 18歳になっちゃった」
それから、アツマくんの顔をじっとりと直視して、
「大人っぽくなったかな……? わたし」
思わずことばをためらう様子のアツマくんだったが――やがて、
「……もうじゅうぶん大人っぽいだろ」
「ふふっ」
「笑うな」
長く伸ばしている髪を、わざとらしく、手でならして、
「それで、プレゼントは??」
「おまえのほうから欲しがるなっ」
「えへへ」
「なにが『えへへ』だコラ……ほら、やるよ」
「うわーっ!! 文房具がいっぱい」
「好きに使ってくれ。受験勉強とか」
「――アツマくんにしては、わたしの好み、よく把握してるチョイスね」
「『アツマくんにしては』は余計だ」
「だってあなた、こういうのいかにも適当に選びそうじゃない」
「おまえの誕生日プレゼントなのに、適当に選ぶわけがない。じっくり悩んで、考えに考えて、決めたんだ」
「ま、そうよね」
「あたりまえだろ」
「見直した」
「いまさら見直すな」
「わたし――このボールペンが、いちばん書きやすいの」
「それはよかった」
「このマーカーの色も好き」
「おまえが好きな色ぐらい、わかってる……つもりだ」
「そこは『つもりだ』じゃなくって、ハッキリ『わかってる』って言ってよね」
「今度からな」
「ま、そんなことはいいとして。
わたしがいちばん言いたいのは、
ありがとう、アツマくん。
大好き。」
「………大切に使ってくれよなっ」
逃げようとしなくてもいいじゃない。
恥ずかしくなったのね。
まったくもう。
× × ×
「アツマさんからプレゼントもらったんだね、お姉ちゃん」
「いの一番にね」
「でもアツマさんいないのはどうして?」
「さあねー、顔でも洗ってるんじゃないかしら」
「……まあいいや。18歳だね、お姉ちゃん」
「そうよ!」
「おめでとう、誕生日」
「ありがとう利比古っ!」
「ハグしてこなくたっていいじゃんか。ほんとにもう」
「満更でもない、って顔してるよ」
「別に……」
「うれしいよ、あんたと一緒に誕生日を過ごせて」
「ぼくもだよ」
「♫」
「でもさあ…」
「?」
「いくつになっても、お姉ちゃんはこうして抱きついてきたりするんだね」
「え~~~っ」
「その……ぼくは……イヤなわけじゃないけど……」
「イヤなわけじゃないのならいいじゃないの!!」
2度ハグ。
× × ×
「ぼくもプレゼント買ったんだよ」
「えらいわねえ」
「貯金を切り崩して、ね」
「初めてか、利比古から誕生日プレゼントもらうのは」
「もうぼくも高校生なんだし」
「――読書灯。」
「そうだよ。机でもベッドでも使えるよ」
「どうして、読書灯にしたの?」
「お姉ちゃんは……やっぱり、文学少女だから」
「え、なんか決めゼリフみたい」
「そんなに笑わなくたって……」
「文学少女に見える?」
「どう見ても」
「ふ~~~ん」
「ど、どういうリアクションなのそれ」
「秘密」
「……」
「わたしがいちばん言いたいのは――、
ありがとう、利比古。
文学少女の名に恥じないよう、大切に使ってあげるね」
そこにアツマくんが再登場して、
「――だと思った」
「いきなり現れて、どういう意味?」とわたしが訝(いぶか)しんだら、
「やっぱり、読書灯だったか」
「アツマさんには、バレバレでしたか」と利比古。
「ま、読書関連グッズだって利比古言ってたから、そんなところだろうとは思っていた」
「さすがです、お兄さん」
「え」
「あ」
「ちょちょっと利比古ッ!! わたしが恥ずかしいじゃないの」
「いいだろーが愛。ついつい言っちゃうことだってある。そんな極度に恥ずかしがらんでもいい」
「そうですよね――アツマさん。」
「だろー?」
なに納得してんのよ利比古。
読書灯、使ってあげないよ……。
× × ×
あすかちゃんも、やってきた。
「おねーさん、顔が赤くないですか?」
「茶番を演じていただけ」
「そっかー、茶番かー」
茶番には慣れた様子で、あすかちゃんは、
「きのうはキムタクの誕生日だったけど、きょうはおねーさんの誕生日ですね。
おめでとうございます。18回目の、バースデー」
「うん、ありがとう、あすかちゃん」
「これからはもっとオトナになってくださいね☆」
「え」
「アポ無しでいきなりわたしの学校にやってきたりしちゃーイヤですよー」
「きのうの…ことは…水に…流して……」
「おまえあすかの学校に行ったのかよ」
「忘れ物届けに行っただけよ」
「大胆不敵な」
「アツマくんまで…」
「段取りって概念がおまえにはないんだな」
「ある!!」
「まーまーそんな怒らない怒らない」
「あすかちゃん……」
「おねーさんが落ち着くまでプレゼントあげません」
「どうしてそんなに厳しいの……」
「わたしはおねーさんのお姉さんなので」
「?!?!」
あすかちゃんはハニカミ顔で、
「ごめんなさい、困惑させるようなこと言っちゃって。
――、
手袋。
手袋を、作ったんですよ」
「あすかちゃんが!? 自分で!?」
「秘密にしててごめんなさい。上手くは作れなかったけど……実はアカ子さんにも、こっそり作りかたを教えてもらったりして……苦労したけど、なんとかきょうに間に合った。受け取ってください」
わたしはとっても感激して、
「あすかちゃんありがとう!!! わたしもっとオトナになるよ!!!」
「ほんとですよー」とあすかちゃん。
「ほんとだほんとだ」とアツマくん。
「あすかさんがいいこと言ってくれたね」と利比古。
「オトナにならなきゃ、だね、お姉ちゃん」
「――よし、きょうからはわたし、オトナのおねえさんだ」
決意表明するわたし。
そこに流(ながる)さんがやってきて、
「……どうして愛ちゃんは、両手でガッツポーズ?」
「大人の女性としての決意表明です」
「ええっ……」
× × ×
「愛ちゃんももう18歳なんだな」
「はい、もう子どもじゃないんです」
「……そうは言うけれど、やっぱり無邪気だ」
「エッ流さん」
「ぼくから見れば――ね」
流さんは余裕の微笑み顔。
「タジタジだな、愛よ」
「アツマくんうるさい」
「流さんも、愛にプレゼントあげるんでしょ?」
「もちろんだ、アツマ」
流さんから、わたしへのプレゼントは――、
「――野球グローブ。」
「おー、すげえ」
「『おー、すげえ』じゃないでしょ、アツマくん」
「でも、愛だって、結構なサプライズプレゼントだったんじゃないのか?」
否定、できない。
できないし、嬉しい。
とっても、嬉しい。
「驚かせるような意図はなかったんだけど」
嬉しさを隠せないわたしを慮(おもんばか)るようにして流さんは、
「キャッチボール、するでしょ? たまに」
「ハイ、アツマくんとするし、流さんともすることがある」
例えば、今年のGW、流さんと少しギクシャクして、仲直りのためにキャッチボールをしたこととか。
「愛ちゃん専用のグローブがあったほうがいいと思ってさ」
「わたしの、グローブ……嬉しい、すごく嬉しい、流さん……ありがとうございます」
「それとさ」
「? まだなにか――」
「お守り。」
合格祈願のお守り。
流さん、そんなものまで、用意してくれてたんだ。
――手渡されたお守りを、右手のなかで、あたためる。
「流さん。流さんが――やっぱりいちばんオトナだったよ」
「あたりまえさアツマ。いったい何歳だと思ってるんだよ」
「――何歳だっけ?」
「――素(す)で記憶してないって反応だな。ま、いいんだ」
「流さんのそういうとこ、オトナだなー、見習いたい」
……ほんとによ、アツマくん。
見習うべきは、流さんよ。
あと……いっしょに住んでるひとの年齢ぐらい、憶(おぼ)えておきなさいよ。
わたしはちゃんと憶えて……、
憶えて……、
あれ!?