こんにちは。
僕、宮島と申します。
宮島なので、「ミヤジ」というニックネームで呼ばれることが少なくないです。
もちろん普通に「宮島くん」と呼ぶ人も多いです。
どっちの呼びかたでも、イヤな気はしません。
それはそうと、趣味は野鳥観察。
日◯野鳥の会に入っているかどうかは……伏せます。
× × ×
さて。
ところで。
カフェに来ているわけなんです。
女性客の比率が高く、少しカラダが強張(こわば)っております。
そして。
僕の右斜め前と左斜め前には、それぞれ女子大学生が。
ふたりとも、高校時代の同級生。
右斜め前には、徳山さん。
左斜め前には、小野田さん。
こういうシチュエーションになった経緯(いきさつ)は……。
× × ×
「宮島くんだーー!!」
街を歩いていた。
すると叫び声をまともに浴びせられた。
絶叫の主(ぬし)は、小野田さんだった。
「本当だ! 宮島くんじゃないの!! とっても偶然ね」
小野田さんの隣に居た徳山さんからも、声を掛けられた。
立ち止まる同窓女子2名。
なぜか立ち止まり続け、なぜかニコニコとして僕を見続けている。
なにか「裏」のあるような微笑みだった。
女子のこんなふうな微笑みは、コワい。
僕には鳥の鳴き声が耳に届いていた。しかし、悪寒と緊張のせいで、鳴く鳥の名前を特定できなかった。
つまりいつもの僕では無くなっていた僕。徳山さん&小野田さんコンビに次になにを言われるのだろうかと思うと、眼が回る寸前になってしまう。
「闇」のようなものすらも感じる笑みを見せてきたのは、生徒会長まで務めた経験もある小野田さんのほうだった。
「ねえねえ」
『腹黒い』という風評も流布していた生徒会長経験者の彼女が、
「徳山さん、せっかくの機会だから、宮島くんを『つかまえて』みない?」
と、横にいる相方女子に言った。
『つかまえる』って。
漢字表記だと、『捕まえる』、だよな。
僕、捕らえられちゃうの。
捕縛されちゃうの。
鳥じゃないんだよ。人間なんだよ。
「いいわねぇ」
残酷にも徳山さんが頷いて、
「ヒマしてたし、この際、宮島くんとゆっくりと『おはなし』がしてみたいわよねぇ」
と言って、眼を細くしていく……!!
× × ×
そして僕は、この女性客比率の高いオシャレカフェに連れ込まれたワケだ。
狼狽(うろた)えながらも、
「僕と、どんな話がしたいんだよ。こっちは話の引き出しも少ないし、そっちも僕のコトについては知らない情報も多いだろ?」
と言うが、
「情報ならタップリあるのよ」
と、余裕タップリに徳山さんがアップルパイをフォークで突っつく。
悪寒がレベルアップする。
チーズケーキを咀嚼(そしゃく)していた小野田さんが、
「宮島くんはわたしたちの情報網を見くびり過ぎなんじゃないの?」
と、不敵な笑みで痛烈なコトバを飛ばしてくる。
「ザッハトルテ」
と小野田さん。
「ザッハトルテ?」
と僕。
「このお店の名物がザッハトルテなの。宮島くんに奢(おご)ってあげるよ」
「奢ってどうするの」
「奢ってあげたからには、突っ込んだハナシもしたっていいよねぇ?」
ヤバい。
元・生徒会長、すっげぇ強引だ。
× × ×
名物であるはずのザッハトルテの味が分からない。
小野田さんが頬杖をついてニヤついている。
徳山さんも頬杖をついて愉しそうにニコニコしている。
……予測は、していた。
ここに居ない『あいつ』と、ここに居る女子2名は近しかった。
特に、徳山さんのほうは、かなーり近しかった……。
『情報網を見くびり過ぎだ』と小野田さんは言った。
女子の情報網のエグさについては、少しは把握している。
噂、である。
僕と『あいつ』に関する、噂、が、瞬く間に情報網を伝い、果てしなく広がって行っているならば……。
悪寒を覚え過ぎて、室内の暖房を冬並みのレベルにして欲しいぐらいになってしまう。
「それでさぁ」
小野田さんの口が開かれてしまった。
胃袋がギリギリ痛む。
やはり、
「あすかさんとは、破局してから、1度も会ってないんだよねぇ?」
という、決定的で致命的な問いかけが、小野田さんから為(な)される……。
心臓バクバクの僕は、首を縦に振る方法も忘却してしまう。
9割がた固まった。
小野田さんが声を出して苦笑いする。
徳山さんも『しょーがなさ過ぎるでしょ』と言わんばかりに苦笑している。
× × ×
僕に言語が戻るまで5分はかかった。
今度は徳山さんが、
「宮島くん。対策を練り上げましょうよ」
「たっ対策ってなに」
「鈍いのね。そういう鈍さは、あすかさんと『合う』と思ってたんだけど、案外だったみたいね」
ぬなな……!
「元カノと次に出くわしたときの『対策』に決まってんじゃーーん!!」
そう言ったのは小野田さん。
「互いの大学が近い! ニアミス確率すさまじく高い! ニアミスすれば気まずい!!」
高過ぎるテンションで言い、
「肝心なのは、ニアミス時にどういった態度を取るかだよ、『ミヤジくん』」
と、ニックネーム呼びのおまけ付きで、僕を追い込んでくる。
「それよね」
余裕の笑みの徳山さん。左手をアゴの下に引っ付けて、小野田さんとの「追い込み」のコンビネーション。
× × ×
説教みたいなことを、おびただしく浴びせられた。
凹(へこ)む。
凹まざるを得ない。
凹み過ぎて、やり返す気力がしぼんでいく。
僕だって、眼前(がんぜん)の相手の『情報』は、手に入っているのだ。
どんな『情報』かというと。
・徳山さんは、高校の同級生だった濱野(はまの)と本格的な男女交際を始めている
・小野田さんは、驚くべきコトだが、生徒会長時代に書記をしていた丸山くんという後輩男子に想いを寄せている(交際云々については定かではないが)。
……しかしながら、こういう入手した情報を彼女たちに投げてぶつける気力は、既に失せているも同然だった。
やり返せない。
彼女たちは、強い。
ふたりとも……「予備校時代」を1年経験しているからか。
「予備校」。なんという鍛錬の場であることか……。