【愛の◯◯】愛さんの チアコス姿 実現す

 

青を基調とした私の母校のチアリーディング・コスチューム。

ポニーテールに結わえ、そのコスチュームに身を包んでいる女の子。

その女の子の名は、羽田愛さん。

 

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勇気を出して、電話で伝えた。

『あのね、愛さん……愛さんは、あのその、チアリーディングのコスチュームとか、着てみたいときとか……あったりする??』

伝えたら、なんと彼女は興奮したような声で、

『しぐれちゃん持ってるの!? チアのコスチューム』

『も、持ってるというよりもね、高校の同級生から譲られて』

『わあ~、ぜひ着てみたいわ!!』

ビックリし過ぎて椅子から転げ落ちるかと思った。

拒まれるかもしれないかと不安だった。

気持ち悪がられたら、必然的に微妙な空気になるし。

でもそんな空気にはなることもなく。

愛さんが……ここまで前向きだったなんて。

いや。「前向き」というよりも、彼女にも『チアコス着てみたいですよ欲』があったってことなんだな。チアリーディング部がある学校が、そんなに羨ましかったのか。

興奮冷めやらぬ愛さんは、

『そのコスチュームのサイズとかはどうなの!?』

『……愛さんだったら、ピッタリ合うと思う。そういうのを譲られたから』

『譲った娘(こ)とわたしの体型が似てたのね』

『そうともいえるかな』

私は、『体型は似てるけど、愛さんのほうがカラダは引き締まってるよ』という発言を、口に出さないよう、懸命に飲み込んだ。

 

× × ×

 

羽田愛さんは身長160.5センチ。

身長から体重を引いたら、110よりも多くなる。

素敵な体型(スタイル)だってことだ。

 

女子の平均身長よりも少し高いだけの身長が、却って彼女の容姿の麗しさを際立たせていると思う。

これは、私見じゃない。多くの人々、特に同性の子は、口を揃えてそう指摘するんじゃなかろうか。

 

× × ×

 

お邸(やしき)の愛さんのお部屋。

腰に両手を当てて背筋をピン! と伸ばして立っているチアコス愛さんを、改めて眺めてみる。

まず、ポニーテールに結わえた栗色の髪が、強烈に鮮やかだ。

なにか特別なシャンプーやトリートメントを使っているというわけではないんだと思う。自然と彼女の栗色の髪は鮮やかになるのだ。

しかも窓から陽(ひ)が射してきているから、髪の栗色がキラキラして強烈にヴィヴィッドである。

しかもしかもポニーテールなのだ。

眼を奪われるのはもちろん、髪やルックスだけではない。

カラダも……。

全ての部分がバランス良くまとまっている。

そして、細い。

本当に羨ましい細身。

さらに、羨ましい細身であって、なおかつスポーツ万能であるというのだ。

例えば、私はまだ彼女がテニスラケットを持っている姿を眼にしたことがないけど、とある筋からの情報によれば、

『ほんとにもったいないよね。あの娘(こ)はテニスに特化してたら、国際レベルのプレーヤーになってると思うのに』

というふう、らしいのである。

それから、水泳と陸上に関しては、具体的な「記録」が残っている。

愛さんの母校の水泳と陸上の最高記録は、全て愛さんがマークしたものなのだ。

これは間違いがない。

愛さん自身もそれとなく言っていたし、とある方角から「記録」が記載されたものが回ってきたこともあるのだ。

……。

なんか私、愛さんをストーキングしてるみたいで、悪いな……。

 

『ねぇしぐれちゃん。撮らなくてもいいのー?』

 

ああっマズいマズい。

妄想にかまけていたら、邸(ここ)に来た本来の目的を忘却していた。

「わたし、ポーズとりたいの」

言うやいなや愛さんは、左脚を斜め前に突き出して、ポンポンを持った右腕を右のくびれに当てて、やはりポンポンを持っている左腕を真っ直ぐに伸ばし、自らの左方向に高く掲げていって、

「じゃんっ☆」

と声を発する。

「ほらほら、決めポーズよ? 撮らないわけにはいかないでしょ」

私はテンパってデジカメを構えた。

指が震えるのを抑え切れない。

 

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ノリノリだった。

愛さんは多彩なる決めポーズを次々に演じてみせた。

チアリーディング部が存在しない女子校の出身にしては、チアを熟知してるみたいだけど……なんでなんだろう。

 

『しぐれちゃ~~ん。あなた、『チア未経験の人間が、どうしてこんなに多くの決めポーズを知ってて実演できるんだろう?』って思ってるんでしょ~~♫』

 

テンパりが極まり、私はデジカメを取り落とした。

デジカメがコロコロ転がっていく。

「驚いちゃったみたいね」

彼女は、照れ笑いと苦笑いのミックスされたルックスで、

「脳裏にあったチアの知識を動員して、カラダを動かしてるだけよ」

「……賢いから、そんな芸当ができるんだよね」

デジカメを拾いながら言う私。

そんな私に、

「あなただって賢いじゃないのよ」

「!?」

 

× × ×

 

撮影は終わった。

愛さんはチアコスのままベッドに座っている。

青いスカートの上で手指を軽く組みつつ、

「わたしのほうから2点伝えておくわ」

「2点って、ガイドライン的な?」

「賢いわねえ」

いやいや、愛さんほどでは……。

「2点、ってゆーのはね。

 1つに、今日撮った画像を、WEB上に決してアップロードしないこと。

 2つに、今日撮った画像は、他人に決して売り渡したりしないこと。

 約束ね?」

私は真剣に首を縦に振って、

「守るよ。常識的なことだし。私、愛さんを傷つけたりしたくないし」

「よろしい♫」

そう言ったかと思うと、彼女はやや前のめりになって、チアコスのスカートの膝部分のあたりを両手で軽くつまみ、カーペット座りの私に対し、120%のスマイルで、

「もし守らなかったら――もう、お分かりよね? しぐれちゃん、あなたもチアコスに身を包んでもらうからね☆

 

ぐぐ……。

 

「あなただって最高に似合うわよ。168センチだったわよね? それでいてモデル並みのプロポーションなんだもの。わたしよりスタイルいいんだから、必然的に……!」