甲斐田しぐれちゃんがお邸(やしき)にやって来てくれた。
わたしの部屋。
カーペットで体育座りみたいになって、ベッドに座るわたしをしぐれちゃんは見上げている。
見上げながら、
「睡眠はだいじょうぶ? ちゃんと眠れてる??」
と訊く彼女。
「眠れてる。というか、眠りすぎてる。ロングスリーパー」
とわたし。
「そっか。……『寝る子は育つ』だもんね」
「えっ!? だ、大学生よ、わたし」
「冗談冗談」
しぐれちゃんの……ユーモア。
× × ×
しぐれちゃんが立ち上がった。
ベッドに移動してきて、わたしの右隣に腰を下ろした。
寄り添いつつ、スマホを見せて、
「これ、見てよ」
と言ってくる。
渡されたスマホ。
動画の再生が始まっている。
画面には、学ラン姿の男の子。
学生帽をかぶって、ハチマキを締めている。
もしかして。
「もしかしてこの子が…篠崎くん?? しぐれちゃんがときどき話に出してた……」
「そうだよ、愛さん」
しぐれちゃんと高校時代同期だった子。
…そうか。
応援部だったんだよね、たしか。
だから、こんな格好になってるんだ、彼は。
篠崎くんは絶叫する。
『愛さん!!
きみに、元気を、与えたい!!』
絶叫して、それから――動画の中の篠崎くんは、応援パフォーマンスを始めていく。
× × ×
「――どうだったかな?」
訊くしぐれちゃんに、
「鳥肌、立った」
と答える。
「わたし女子校だったから、こんなパフォーマンス、観る機会がなくって。すごく……新鮮で。しかも、鮮烈で、強烈で、なにより熱気が溢れてて。だから――鳥肌立っちゃった」
そう感想を言うと、
「良かった。――動画を見せて正解だったよ。不安もあったんだけど」
としぐれちゃん。
「不安? どうして?」
「篠崎くんのパフォーマンスをいきなり見せて、ドン引きさせちゃう可能性もあるなー、って思って」
「しないしない、ドン引きなんか」
冷めない余韻。
「元気、もらった。それから、勇気も」
「すごいな。篠崎くん効果、絶大だな」
「うん、絶大」
「……あとで、篠崎くんに伝えておくよ。愛さんが喜んでくれたって」
「ぜひ、そうして」
「きっと大喜びになるよ、彼。愛さんファンだったから」
「ファンだったのね」
「愛さんに惚れちゃう勢いで」
「え!?」
「親衛隊を作ろうとしてたり」
「し、親衛隊って……」
「私が全力で止めたんだけどさ」
「い……今は、どうなの??」
「――愛さんファンであるのには、変わりないと思うけど。
彼……大学に入って、『変わった』みたい」
「……変わりないけど、変わったんだ」
「ヘンな表現だけどね。……ひと味違う篠崎くんになって」
しぐれちゃんはなぜか、窓の外の風景を眺めつつ、
「大学デビューというか、リア充化したというか」
と言う。
……なんだか、切ない声。
どうして切なく聞こえるのかしら……?
× × ×
「篠崎くん語(がた)りも、いいんだけど」
「……うん」
「彼は、応援部だったんだけど。
応援には…チアリーディングも、不可欠で」
「ああ……。高校野球とかそうよね」
「そうそう。高校野球には付きもの」
「わたし、甲子園の中継は毎回観てるから」
「さすが野球好きの愛さん」
「そういえば、わたしの女子校、チアリーディング部無かったな」
「どこにでもあるわけじゃないしねえ」
…どうしてチアリーディングに言及したんだろう、しぐれちゃん。
若干、不可思議。
ニコニコと、わたしを見つめ続けている。
それもまた不可思議。
「……しぐれちゃん。わたしの見た目で、気になるところがあるの?? 寝グセがひどいとか、顔になにか付いてるとか……」
彼女はやんわりと首を振る。
「違うよ。
私は、こう思っただけ。
『愛さんに、チアのコスチュームを着せたら、きっと必ず似合うだろうなあ……』って」
しょ、
しょ、
衝撃発言、食らっちゃった。