今朝も、ダイニングで、あすかちゃんが、アツマくんにじゃれついている。
「おに~ちゃ~ん」
わたしは、不満。
モヤモヤする。
アツマくんを、あすかちゃんに取られちゃった感じ。
つまりは――ヤキモチ。
あすかちゃんに、なにがあったのか知らないけど。
あすかちゃんばっかり、ずるいって――思っちゃう。
× × ×
夕方アツマくんがバイトから帰ってきた。
すぐにあすかちゃんがアツマくんのもとにやってきて、ふたりはアツマくんの部屋に消えていった。
それを目撃したわたしは、ズカズカと階段を上ってゆき、兄妹のあとを追った。
いくら兄妹だからって、
あすかちゃんにアツマくんをひとりじめに、させたくないっ。
できるだけ穏当にアツマくんの部屋をノック。
ドアが開いて、アツマくんが出てくる。
ただし、もれなく妹付き。
「よ、よぉ、愛」
「とりあえず、おつかれさま」
「あ、あんがと」
「それはそうと、さいきんあすかちゃんよくひっついてるねー」
わたしの先制パンチにも動じず、あすかちゃんはアツマくんの右腕をしっかりと握りしめている。
「あすかちゃん、アツマくんがドアを開けるときぐらい、離れたら?」
しかしあすかちゃんは首をふるふる、と振るのだ。
微塵も離れる気はないみたい。
わたしとあすかちゃんの板挟みになって、アツマくんは激しくうろたえる。
× × ×
ベッドで、彼に寄り添って座る。
ただし、もれなく妹付き。
ばっちりと、わたしの反対側で、彼をつかんで離さない。
こっちにこい、アツマっ。
「やめろっ、そんなにひっぱるなっ、愛…」
「やだ。
やめろっていったってやるもん。
あすかちゃんだけ、
ずるいずるいずるい」
そうするとあすかちゃんが今度は自分側にアツマくんを引っ張ってくる。
「あすかちゃん、やめなさいよ! アツマくんが痛がるでしょう!?」
「おまえもだろうが!!」
アツマくんに構わず、引っ張り合い。
あすかちゃんは終始無言の抵抗。
てごわいっ。
――けれども、
我慢の限界に達したのか、アツマくんが、
「えーかげんにせーやっ!!」
と、左右の手で、左右のわたしとあすかちゃんをポーンとはたいた。
あすかちゃんが、一瞬真顔になった。
「落ち着けや、ふたりとも」
「……」
「……」
「ケンカ両成敗ってことば、知ってるよな」
「…知ってるわよ」わたしから、口を開いた。
「でも、近ごろアツマくん、ずっとあすかちゃんばっかしだったから」
苦悶のアツマくん。
「たまには、わたしも見てよねって、思っちゃうよね。
わたしアツマくんのこと好きだし」
「さらりと言うなぁ…」
「あら、何度でも言ってあげるわよ。アツマくん、わたしあなたが好き――」
「わかった、わかったから」
あんがい照れ屋だ。
「……おねーさんは、お兄ちゃんのこと、好きだけど、」
あすかちゃんが今回初めてマトモな口を開いた。
「わたしだって、きょーだいなんですっ」
そしてボスッ、と『お兄ちゃん』に身を預けるのだ。
「あすかちゃんが甘え続けるなら、わたしだって甘え続けるよ!?」
わたしだってアツマくんの左脇腹に抱きついて離さないんだもんっ!!
「お兄ちゃ~ん、こっち見て~」
「…わたしだけ見てっ」
「…どうしようもねぇな」
「なにあきらめたような顔になってるの!?」
抱きつきながら、わたしは不満の意思表示。
「あすか、あんた力強すぎ、このバカッ」
「いつの間にか呼び捨てになってるじゃねーか!? 敵意むき出しかよ!?!?」
「アツマくんのせいよ」
「……。
両側から子猫に噛みつかれてる気分だ」
『わたしたち猫だったの!?』
「……ふたり同時に言うなよ」