「あの……。みんなに顔を見せることができなくて、本当に申し訳無かったと思います……。新入生の勧誘にもぜんぜん貢献できなかったし。会のいろんな人に迷惑をかけてしまいました」
大井町さんが謝っている。
今、サークル部屋に居るメンバーは、
・わたし
・大井町さん
・ミナさん(幹事長)
・脇本くん
・新田くん
の5名。
ミナさん以外はみんな3年生の同期だ。
「大井町さん。勇気を出して謝ってくれてありがとう」
幹事長であるミナさんが大井町さんに視線を合わせて言う。
「復帰してくれて嬉しいよ。この部屋まで来るのも勇気が必要だったはずだし」
と言い、
「羽田さんが助けてくれて本当に良かったよね」
とわたしに視線を寄せて言う。
「だけど――」
ミナさんは再び大井町さんに視線を戻して、
「もうちょっと頼ってほしかったかも。特にわたしや郡司くんに。このサークルの幹部なんだし」
と言って、
「コミュニケーション、もっと取ろうよ」
と言って、
「寄りかかることも大切だよ? これからはそういうことも頑張ってほしいな」
と言う。
わたしの左隣に座っている大井町さん。
ミナさんにたしなめられて、視線を下げてしまう。
わたしはさりげなく大井町さんの右肩に左手を置き、
「ミナさんの顔を見てあげようよ。ショボンってなるのは分かるけど。せっかくミナさんが大事なことを言ってくれてるんだから」
と促す。
スローモーションで彼女の視線が上がる。
ミナさんに視線を当て、弱く小さい声で、
「……すみませんでした」
と言う。
サークル部屋の右サイドの、大井町さんと真向かいの席についていた新田くんが、
「幹事長。湿っぽいのはこのぐらいにしておきましょうよ」
とミナさんに。
「だね」
微笑み顔のミナさんが、
「湿っぽいのはここまで」
と言い、
「大井町さん。感謝してあげなよ、新田くんの優しさに」
と促す。
「感謝……?」
そう言って戸惑う大井町さん。
「『ありがとう』ってひとこと言ってあげるのよ。新田くんだって、あなたのこと助けたいのよ。彼もずいぶん、あなたのこと気がかりだったんだから」
わたしはアドバイス。
アドバイスされて、ゆっくりと新田くんに顔を向けていく。
まっすぐに新田くんの顔を見つつ、
「……あ、ありがとうっ」
と感謝。
よくできました。
その調子その調子。
感謝された新田くんが、なぜか窓のほうに視線を逸らした。
意味深。
× × ×
だんだんと打ち解けていく大井町さん。
こうでなくっちゃね。
「大井町さん、戻れるよね? 文学部キャンパスにも」
そう訊いたのは脇本くん。
「勉強にも、戻っていけるんでしょ」
「――うん、そのつもり」
だいぶ表情が柔らかくなった大井町さんが答える。
「良かった。ひと安心だ」
と脇本くん。
「ひと安心なのは脇本くんだけじゃないわ。わたしだって新田くんだって安心よ。ここに居る3年生カルテットはみんな、文学部キャンパスの人間なのよ?」
指摘するわたし。
「そうだよね」
うなずく脇本くん。
「新田」
彼は新田くんに対し、
「ひと安心どころじゃないんじゃないのか? おまえは」
と、からかう如(ごと)く言う。
「え。それ、どういう意味だよ……ワッキー」
脇本くんは、「へへへ……」と笑うだけ。
新田くんは困惑し、次第に混乱していく。
ここで、
「新田くん。」
と大井町さんが呼びかける。
「わたし、あなたを、ライバル認定してあげる。」
と彼女は宣言する。
「今後は対等な立場で、ライバル同士――高め合っていきたいと思ってるわ」
――力強いお気持ち表明ね。