『漫研ときどきソフトボールの会』副幹事長の有楽碧衣(うらく あおい)センパイは、わたしと同じく、横浜DeNAベイスターズのファンだ。
だから、気が合って、ベイスターズファン同士、語り合うこともしばしば。
なのだが……今季のベイスターズは絶賛低迷中で、ポジティブになれる要素も多くなく、チームの近況を話すことも稀になっている。
最近では、現在(いま)のベイスターズを語る代わりに、過去(むかし)のベイスターズの思い出話に花を咲かせることが多い。
あの試合で、こんなことがあったよね……とか。
あんな選手がいたよね……とか。
きょう、有楽センパイに訊きたかったのは、
「センパイは、どの時代から、ベイスターズファンなんですか?」
センパイが答えるには、
「監督でいうと、牛島監督のときかな。2005年か2006年ぐらい? うっすら記憶にある」
それはすごい!
「牛島監督時代が記憶にあるなんて、ベイスターズファンとして、センパイをますます尊敬しちゃいます」
「あら、尊敬されちゃった。……羽田さんのほうは、どうなの? いちばん古い記憶にある監督とか」
「第2次大矢政権から観てると思うんですけど、最初に認識したのは、尾花監督ですね」
「じゃあ、TBS時代の最末期だ」
「そういうことになります」
「ハーパーとかがいたころね」
「まさに。わたしも真っ先に、ハーパーの名前が」
…ブレット・ハーパーを皮切りに、助っ人外国人の話題で盛り上がりまくっていると、
某月刊漫画雑誌を読むのに没頭していたはずの久保山幹事長が、こっちに目線を送っていることに気づいた。
少し気まずくて、
「すっすみません、盛り上がりすぎだったでしょうか、わたしたち」
「いや」
久保山幹事長は、やんわりと、
「熱いな――って」
「熱い!?」
「羽田さんと有楽のベイスターズ語りが、熱かったから。つい、見入ってしまったんだ」
そっ、それは……照れちゃうっ。
いたって冷静な有楽センパイ。
「久保山くんは、ひいきの球団とかないわけ?」
久保山幹事長に、話を振っていく。
「いや~」
苦笑いの幹事長は、
「そもそも、野球はあまり、観ないんだ」
「あー、そうなんだよね、久保山くんって」
「ソフトボールやるサークルの幹事長が、野球に詳しくなくて、すまんね」
「ぜんぜんいいのよ。幹事長としては、よくやってるんだから」
「タハ……」
「幹事長の地元に、『米子市民球場』ってありますよね??」
気づいたら口を挟んでいた。
「な、なんで知ってんだぁ、羽田さん」
大きく眼を見張る幹事長。
「プロ野球公式戦の開催実績がある球場のことは、だいたいリサーチしてるんです」
「……最近はプロ野球、来てないみたいだけどね」
「でも昔は、広島対阪神とか、やってたらしいじゃないですか?」
「――すごいなきみは。どうしてそこまで知ってるのか」
「ですから、リサーチですよ」
「リサーチ力が……すごい」
えへへん。
「――地理的に、やっぱり、広島ファンか阪神ファンが多め、って感じでしょうか」
「……そうでもないよ。実のところは」
うそっ。
意外。
有楽センパイが、サッカーに話題を転じる。
「あるよ。あることは、あるけど」
「……歯切れ、悪くなってない?」
「だって、ガイナーレ、弱いし。J3でも苦戦してるし」
「ショボショボな声のトーンね……」
「当初はJ2だったのに、坂道を転げ落ちるように」
「ポジれないの? ガイナーレで、なにか」
「へ??」
「だからぁ、ガイナーレのポジティブ要素、なにかないの、ってことよ」
「……ない」
「どうして速攻で『ない』って断言しちゃうのよ」
「ないものは、ない……」
「久保山くん。もっとポジっていこうよ」
……幹事長はとくにポジティブになることもなく、
『ブルーロック』(サッカー漫画)の単行本を棚から持ってきて、読み始めた。
「そういえば、週刊少年マガジンのサッカー漫画、増えたよね」
有楽センパイが横から声を飛ばす。
「増えたよ。『iコンタクト』」
律儀に答える幹事長。
偉いなあ。
「そうそう、『iコンタクト』。マガジン、スポーツ漫画が増えて、ポジれるじゃん」
「……おまえはなにを言い出すんだ?? 有楽」
「え、ポジれるでしょ」
「どこがだ」
「えー」
「むしろ、サッカー漫画が2つになったことで、兼ね合いというか、雑誌的なバランスが……」
「ネガネガね、きょうの久保山くんは」
「……」
「そんなにネガってばかりいると、マガジンの売上がサンデーに抜かれちゃうよ?」
「いやそれはありえない」
「びびビックリするじゃん、いきなり大声になって――」
「マガジンがサンデーに抜かれることだけは断じてありえない」
「――よっぽど、久保山くんにとって、週刊少年マガジンは『ひいき雑誌』なのね」
「ですねー、有楽センパイ」