【愛の◯◯】バースデーはスペシャルにお願いするわよ

 

土曜出勤ならぬ、土曜通学。

 

図書館のAVルームで、音楽を聴いていた。

AVルームといってもとうぜんいかがわしい意味合いはなく、静かな環境でゆったり音楽鑑賞ができる。

お邸(やしき)にもクラシックのCDやレコードはたくさんあるけど、たまにはこういう場所で交響曲を聴くのもいいわよね。

 

図書館で過ごしたのち、学生会館へ。

エレベーターに乗って、5階へ。

漫研ときどきソフトボールの会のお部屋、開いてる、開いてる。

 

室内には、

 

・久保山幹事長

・有楽(うらく)センパイ

・脇本くん

 

の3人。

 

正午を過ぎていたが、「おはようございま~す」とあいさつして、席につく。

 

× × ×

 

有楽センパイがわたしのお弁当に興味を示した。

「それ、羽田さんの手作り?」

「そうです。きょうは時間があまりとれなくって、雑になっちゃったんですけど……」

「それにしてはしっかりしたお弁当ね」

「……ですか?」

「うん。冷凍食品とか、使ってないんでしょう」

「はい、そこは、ちゃんと。よくわかりましたね、センパイ」

「わかるから。――でもいまどき、お弁当に冷凍食品をいっさい使わないっていうのも、珍しいよね」

「――そうなんですか?」

「あら、羽田さん、世間ズレしてない?」

「わたしはずっとこういうふうにお弁当を作ってきたので……」

「ねえ」

有楽センパイは、もの欲しそうに、

「あなたの手作りミートボール、ひとつちょうだいよ」

「え? ……ま、まあ、いいですけど」

「わたし、都合よく割りばしを持ってきてるから」

 

彼女がひょい、と割りばしでミートボールをつまみ上げた。

口に運ぶ。

 

「すごく美味しい!」

「……ありがとうございます」

「良妻賢母」

「えっ!?」

 

× × ×

 

久保山幹事長は週刊ヤングジャンプを読んでいた。

ひとしきり読み終わったのか、雑誌を閉じ、テーブルに置いて、ため息をつく。

ため息の理由は、なんだろう。

 

「評論家みたいな顔。久保山くん」

「なんだそれ、有楽」

「だって評論家みたいな顔だったんだもん」

「……」

 

にわかに反攻に転じるように、久保山幹事長は、

「有楽よ、」

「え、なに」

「おまえ――身長が、また伸びたんじゃないのか?」

不意を突かれ、

出し抜けになによ!?

と叫ぶ有楽センパイ。

「――気のせいか。まあ、おまえは元から高いもんな」

沈黙の有楽センパイ。

「170はあるだろ」

「……久保山くんこそ……」

「こそ?」

横幅が――また伸びたんじゃないの??」

 

……デリケートなところを突っつかれて、気を悪くしたのか、久保山幹事長、軽く舌打ち。

 

× × ×

 

「ところでところで」

有楽センパイが、わたしの顔を見て、

「羽田さんのお誕生日っていつなの」

「目まぐるしく話題転換しやがって、有楽」

「ちょっと黙っててよ久保山くん」

「ぐぐ」

 

 

「――あした、ですが」

 

 

ええっ!? そうなの!? 羽田さん」と有楽センパイ。

めでたいじゃないか!!」と久保山幹事長。

そうだったんだ!!」と脇本くんも。

 

『おめでとう!!』と各々に言われる。

 

一気に3人に祝福されてしまった。

素直な嬉しさ。

 

「もっと早く訊いとくべきだった~!」と有楽センパイ。

「僕も、うかつだったよ。誕生日訊く機会なんて、いくらでもあったのにね」と、苦笑いで脇本くんも言ってくる。

「ううん、ぜんぜんいいのよ。うかつだったなんて言わないで」

「11月14日なのかぁ」

「キムタクの誕生日と1日違いなの」

「へぇ」

「19歳よ。ナインティーンよ」

「そうだねぇ。――日曜日だったら、きみのお邸で盛大に祝ってもらえるんじゃないの?」

「毎年……お祝いは盛大なんだけどね」

 

脇本くんは、意味深な含み笑いに。

 

彼は言う。

「『おめでとう』って言われて――特別嬉しい男のひとが、いるんでしょ」

 

「ど、どうしてわかるの……、どうしてわかるのかな、脇本くん」

 

「そりゃ、わかるさ」

 

余裕で笑っている、脇本くん……。

 

× × ×

 

・アツマくん

・利比古

・流さん

 

戸部邸男子3人衆だ。

 

このうち、脇本くんが指し示した『男のひと』は……言うまでもなく。

 

 

「――なんだぁ?? 昨夜同様、スキンシップしに来たんか」

じぶんの部屋のドアを開けるなり、めちゃくちゃなことを言ってる。

デリカシーの欠如に、呆れる。

だけれど、

「それも、ある」

と言いながら……わたしは、アツマくんの部屋に入っていく。

 

「ねえ。あしたわたし、邸(いえ)に引きこもるから。誕生日だし」

「ほーーん」

 

なんて、そっけなさ。

無神経の極致ね……!

 

ぐぐうぅ、と、アツマくんの左腕をつかむ。

つかんで、離さない。

 

「や、痛いから、腕」

「ただの、おしおきよ」

「なんのだよ」

 

「なんのだよ」には答えず、

「……アツマくん。ぜったいぜったい、祝福してよね、誕生日。せっかくわたし、1日中在宅するんだから」

「あたりまえだろが……ちゃんと、祝ってやるからよ」

「そうよね。ことば、足りなかったわ」

 

顔に、顔を寄せて。

 

スペシャルな、祝いかたを……してちょうだい」

 

「もっと具体的に言えや……」

 

「ヤダ」

 

「ば、ばか」

 

「まごころと、愛情込めて、スペシャルに。あなたならできるでしょう? あなたなら」

 

 

要求は、苛酷に。

特別だから。

好きだから。