【愛の◯◯】祝福と引き継ぎ

 

祝日の前日なのだが、サークル部屋に人の出入りは案外少なかった。

 

静かな室内には、

 

・僕(=脇本)

・久保山(くぼやま)幹事長

・秋葉風子(あきば ふうこ)さん

 

の3人だけ。

 

 

読み終えた週刊少年マガジンをテーブルに置く。

正面を見ると、久保山幹事長はまだ初期の『ダイヤのA』の単行本を読みふけっている。

 

やがて幹事長は読み終えた『ダイヤのA』をまた1冊積み上げて、それから、

 

「――今後の話でも、すっか」

 

と言った。

 

「今後の話、ですか?」

僕が訊くと、

「そう。『議題』は2つあってだな」

と幹事長。

「議題、っていっても――今、この部屋、3人だけなんですよ」

「分かってるさ、ワッキー。今ここで本格的に議論する、とかではない。議題を軽く提示する、ってだけだ」

 

「いったいどんなことを提示したいのさ、クボくんは」

独特の口調で秋葉さんが幹事長に訊いた。

そしたら、

「まず1つ目。…羽田さんの、誕生日祝い」

 

あー。

なるほどー。

 

「迫ってますもんね、彼女のお誕生日。11月14日だったはず」

と僕。

「2週間を切ってる――彼女を元気づけるためにも、祝福してあげたいところだ」

と幹事長。

 

「――羽田さんの邸(ウチ)に行ってみるのは、どうかな?」

こう提案したのは秋葉さんだった。

「わたし少し前に彼女のお邸(やしき)に行ってみたんだけど、大人数(おおにんずう)で行っても全然大丈夫そうだったよ。デカくて、広い。10人ぐらいで行ったって余裕なんじゃないかな」

 

「ふむ……」

思案するような顔つきになる幹事長。

 

……やがて、

「たしかに、10人で行っても大丈夫! な豪邸なんだろうけど。

 だけど、あまり大群(たいぐん)で押し寄せても、迷惑がかかるだろ」

と、幹事長は。

 

「言えてますね。羽田さんだけが暮らしてるわけではないんだし」と僕。

「だよな、ワッキー」とうなずく幹事長。

 

「アツマくんが住んでるもんね」と秋葉さん。

「羽田さんの…恋人か」と幹事長。

「アツマさんだけじゃないでしょう? お邸(やしき)に6人暮らし…じゃなかったですっけ、確か」と僕。

 

「じゃあやっぱり、10人以上で押し寄せるのは、あっちも困りそうだよな。

 となると……。

 選抜か」

 

「選抜ってどういうことですか?? 幹事長」

ワッキー。クボくんは、サークル構成員の中で行く人と行かない人を分けたい…って考えてるんだと思うよ」

「まあ、おおむねそんなとこだ……風子」

 

秋葉さんが幹事長に向かって少し身を乗り出し、

「だけど、どうやって行くメンツを決めるんだい? あみだクジでもするつもりかい??」

と問う。

問われた幹事長は、

「それは後日決める。具体的には――祝日明けの、明後日とか」

「急がなきゃならんと思うよ、クボくん」

「分かってるって」

 

――急に、秋葉さんが僕のほうを向き、

ワッキーは、是非とも彼女のお邸(やしき)に行きたい…って顔だねえ」

と、くすぐってくる……。

 

本音を言わせてもらえば、

行きたい。

 

× × ×

 

「ところでクボくん、お題の2つ目は?」

「それはだな、風子……。

 できるだけ早く、次の代の幹事長と副幹事長を決めたいんだ」

 

あーっ……。

 

そうなのだ。

3月で卒業なのだ、久保山幹事長。

そして副幹事長の有楽(うらく)先輩も、同じく3月で卒業…。

 

「鉄は熱いうちに打て――というわけで」

 

いくぶん真面目に幹事長は言う。

 

でも。

 

次の代の幹事長には……だれが適任なんだろうか?

 

ワッキー

秋葉さんが僕に言う。

ワッキーは、だれがいいと思うかね?」

「幹事長ですか?」

「幹事長」

「うーーん……」

「あのね」

「……ハイ」

「わたしは、次の幹事長に相応(ふさわ)しい人間は、1人しかいないって思ってる」

「エッそうなんですか、秋葉さん」

 

秋葉さんが……余裕で笑っている。