【愛の◯◯】彼の「伝家の宝刀」

 

朝。

わたしたちのマンションに2泊したアカちゃんが帰ろうとしていた。

「ご迷惑をおかけしました」

アカちゃんがアツマくんにペコリ。

「では……」

と、玄関のほうに向かっていこうとするんだけど、

「アカ子さん」

「え??」

「ちょーっと待った」

「ど、どーしましたか!? わたしになにか至らない点が……」

「違うよ」

朗らかに笑うアツマくん。

「『もう少し元気づけてあげたい』と思っただけさ」

アカちゃんの前に歩み寄って、

「頑張ってほしいって思ってるから。だから」

そう言って、

「ココロの傷つきが、しばらく尾を引くかもしれんけど……ヤケ酒(ざけ)は、程々にな」

と言うやいなや、アカちゃんの頭頂部に、手を乗せる。

置いた右手で、頭頂部をナデナデ。

ナデナデされたアカちゃんの大きな驚きが、離れたところでやり取りを観ているわたしにも伝わってくる。

大きく驚いたあとで、やっぱり、アカちゃんは顔面から発熱。

みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。

『ホントに湯気が出てるんじゃないかしら?』と思うぐらいの顔面発熱だ。

ナデナデする手をストップさせるアツマくん。

その手を約5秒間置いたままにする。

それから、

「これで、頑張れるだろ」

と言って、そっと手を離す。

顔面発熱→言語喪失というステップを踏んでしまうアカちゃん。

無理もないわよねー。

 

× × ×

 

「あなたの必殺技が繰り出されたわね」

「『伝家の宝刀』と言ってくれや」

「いやいや、あんまり意味合いは変わらないでしょ」

「やり過ぎだったかもな」

「そんなことないわよ」

「ホントかー?」

「ホント。アカちゃんを立ち直らせるために、あなたが距離を近づけてあげることは必要だった」

「そうかね」

「そうよ」

「……」

「? なによ、ジーッとわたしを見下ろしてきて。髪に寝グセでも発見したの?」

「違う違う」

「じゃあなに」

「愛の髪とアカ子さんの髪、コントラストを成(な)してるよなって」

「もしや……『色』のことを言ってるの」

「正解。おまえの栗色の髪、アカ子さんの純粋なる黒髪。甲乙つけがたい」

いやいや。

『純粋なる』黒髪って。

『甲乙つけがたい』って。

「わたしにたった今、疑問が産まれたわ」

「は? 疑問ってなんぞ」

「アツマくんって、髪フェチなの??」