アツマくんが帰ってきて、侑(ゆう)とバトンタッチした。
アツマくんも、いろいろしてくれた。
× × ×
キッチンから香ばしい香りが立ちのぼっている。
「チキンのクリーム煮なわけだが――昼はハンバーグ、夜はチキンと、肉が続いちまったな」
「別にいいわよ、2回連続でお肉なことぐらい」
アツマくんの立つ場所に歩み寄ってみる。
15センチ以上身長の高い彼の顔を見つめてみる。
「ありがとうね」
そう素直に言うことができた。
頭頂部に彼が手のひらを置いてくる。
とってもくすぐったい感覚。でも、嬉しい感触。
「侑ちゃんより先に気付いてやれたら良かったんだけどな」
「謝らないでアツマくん。わたし謝られるのイヤだ」
「そーかい。だったら、そうする」
「そうして」
頭頂部を撫でられる。
今にも抱き締めたくなる。
× × ×
「愛、コーヒーは?」
「今晩は飲まないわ」
「分かった。そーゆー日だってこったな」
「うん。そーゆー日」
「侑ちゃんが居てくれてて助かったよ」
「ホントね」
「お礼しなきゃな、おれも、おまえも」
「わたしは、大学に行ったら侑と会うから」
「ウム」
真正面に座っているアツマくん。
彼に対し、勇気を振り絞って、
「ねぇ……。移動しようよ」
「移動?」
「ソファの所に……行かない?」
「ダイニングテーブルじゃ、いかんのか」
「いかんのよ」
彼は小さく笑い、
「ソファのとこに行って、なにするんだ」
「……」
「おーい」
「……ベタベタしたい」
「ほほお」
× × ×
アツマくんはハンク・モブレーのCDをラジカセにセットして、再生ボタンを押す。
ブルーノートな雰囲気が醸し出される中、彼はわたしのそばに寄ってきてくれて、どっかりとカーペットに腰を落ち着ける。
とりあえずわたしはわたしの右肩を彼の左肩にくっつける。
「ははっ。――マジでベタベタしたいんだな、おまえ」
よりいっそうカラダの重みを彼に傾けていくわたし。
甘えたい。
「これは『ソウル・ステーション』だけど、ハンク・モブレーのアルバムだと他にも有名なやつあったよな?」
甘えたいから答えない。
「なんだよー。おまえなら認知してるだろー」
全力で甘えたいから答えてあげない。
× × ×
「音楽鑑賞したあとは、やっぱり読書だよな」
立ち上がったアツマくんが本棚に向かう。
「お、本が整理整頓されてる」
気付く彼。
そんな彼の背後にわたしは立って、
「侑が整理整頓してくれたの」
と言って、
「今日はなにを読むの? アツマくん」
と言って――、背中に両腕を回す。
「なんにしよっかねぇ」
「あなたが決めるまで――離さないよ」
「そーかいそーかい」
「離さないんだから。」
「ハハハッ」
「そんな笑い声出さないでっ」
「んーっと」
「決められないの? 決められるでしょ、あなたなら」
「よしっ」
「……決めたのね」
「アントニオ・タブッキの『供述によるとペレイラは……』。これで行こう」
「素敵な趣味ね。流石はわたしのパートナー……」
「おー」