【愛の◯◯】せっかくだから、甘え倒しちゃう。

 

「ずいぶんのんびりと朝ごはん食べてるわね、アツマくん」

「ああ。今朝は、のんびりだ」

「……『リュクサンブール』の研修は?」

「来週からの予定」

「……そう。だから、のんびりできるのね」

「そういうこった。――愛、おまえも、のんびりしろよな」

「な、なにそれ、のんびりしろよな、って」

「ことば通りだ」

「……」

 

わたしが戸惑っていたら、

「とりあえず、モーニングコーヒー、どうだ? 淹れてやるよ」

と、彼に言われた。

 

× × ×

 

ふたりとも、朝ごはんを食べ終えたあと。

 

「もう一杯コーヒー欲しいだろ、おまえ」

アツマくんが訊いてきた。

そう訊かれるのは、わかっていた。

いつもなら、うなずいて、コーヒーを淹れてもらうところ。

だけど……今朝は。

 

首を振って、

「ううん。今はいい」

と言うわたし。

「え、なぜに??」

不思議がるアツマくんに向けて、

「コーヒーよりも……あなたがいい

と、わたしは爆弾発言。

 

× × ×

 

向かい合いから、隣同士になって。

肩を、わたしのほうからすり寄せて。

甘え切って……。

長い間、ひっついていた。

 

いっしょに居られるだけ、いっしょに居たい。

 

……そういうこと。

 

× × ×

 

だから、彼の部屋をノックする。

 

「なんじゃいな」

出てきたアツマくんに、

「入らせて」

とすぐに言う。

「入るのは、そりゃ…構わんが」

「じゃあ、」

彼の眼をまっすぐに見て、

ずっと、居させて

とお願いする。

 

彼は動揺したのか、

「ずっと、って……いつまでだよ!?」

と上ずった声で言う。

「そうねえ」

わたしは、

「あなたが、晩ごはんを食べたくなるまで」

と返答。

「オイオイ……まだ昼過ぎだぞ。18時に晩飯食うとして、あと5時間もあるじゃねえか」

「5時間しかないでしょ」

「ぬっ……」

わたしは、柔らかく、

「あなただって、わたしのことが気がかりでしょ?」

と言い、距離を詰める。

「そりゃあ……おまえ、調子崩してるし」

「心配だったら、見守っててよ」

「ぬぬ……」

「アツマくん。

 きょうはね。

 いつもよりも……あなたに甘えたい気分なの。」

 

× × ×

 

「涼しいわね」

「…設定温度、低かったり?」

「そんなことないわ」

「…なら、いいんだが」

 

ベッドに腰を下ろした彼。

そんな彼に、

いきなり、膝枕。

 

おおおおい!! 甘えるって、そういうことかよ

「――どうしてそんなに驚くの?」

「だ、だれだって驚く」

「あのねー。

 わたしとあなた、何年つきあってると思ってるのよ」

「……。

 な、何年だっけ??」

 

ばか。

 

「煮え切らない態度はペナルティよ」

「なにがしたいんだ……おまえ」

「このまま、あなたの膝上で、お昼寝しようかしら」

「……本気か?」

「本気もなにも。

 前にも――こういうシチュエーション、あったじゃないの」

「き、きおくにない」

 

む~~っ。

 

「いい加減怒るわよ? アツマくん」

「きょ、きょうのおまえおかしい」

 

おかしくないっ。

だれがなんと言おうとっ。

 

しびれを切らし、立ち上がる。

次の瞬間、彼に正面から抱きつく。

 

彼のシャツを、鷲づかみ。

 

「押し倒す気か!??! おまえ」

 

…わたしは彼の胸の中で「フフッ」と笑う。

 

そして、

「どーかしらね??」と言う。

 

それにしても……やっぱり、アツマくんのカラダ、ガッシリしてる。

ずーっと鍛えてるだけはある、上半身。

ひっつきたくならずには、いられない。

わたしを守ってくれる……上半身。

 

「――愛。」

「なによ。」

「おれのシャツを、そんなふうに握ってるってことは――つまり」

「つまり?」

「つまり……その、」

「脱がしたいんじゃないのか? って、疑ってるんでしょー」

「ぐ……!!」

「ふふふ」

「おまえ……!!」

 

胸の中で、こみ上げてくる笑い。

 

…どうしよっかしら。

 

…好きにすれば、いいわよね。

わたしの。