自分のつま先をずっと見続けている。ベッドに座り込んだまま動けない。今日起こったこと、今日見てしまったものを受け入れられないでいる。
現実を拒み続けていたら夜になった。階下(した)ではクリスマスパーティーが繰り広げられ始めていることだろう。ごちそうが食卓に並んでいることだろう。白くて丸くて大きなクリスマスケーキも用意されていることだろう。
× × ×
母がわたしの部屋にわたしを呼びに来たのは30分前だった。わたしがドアを開けようとしなかったから、母の方から開けてきた。
『どうしたの?』
ベッドに座り込むわたしの姿を見て、母が訊いてきた。
『どうもしてないっ』
そう言うと同時に、母とは反対方向にうつ伏せに倒れ込んでしまった。
ベッドに這いつくばるわたしに向かって母が何度か声をかけた。わたしはその全てに不誠実な応答をしてしまった。
『モネ』
わたしの名前を優しく呼んだ母が、
『ごはん食べないと、元気出ないよ?』
とたしなめた。
とうとう諦めて、母は部屋のドアを閉じた。
【何があったかは知らないけど】
とは言われなかったのが救いだった。
そういう配慮は嬉しかった。でも、嬉しいのと同じぐらいに歯がゆかった。
× × ×
わたしの誘いを断った勘一郎がどこで何をしているのか気になった。
気になるキモチが膨らみ続けて抑えきれず、できるだけ目立たない服装をしてクリスマスイブの朝の家を出た。
ハッキリ言ってわたしはストーカーと同じだった。勘一郎が行きそうな場所に行き、勘一郎を探す……。幼馴染だったから、あいつが行きそうな場所は絞り込めた。クリスマスイブだったから、より一層絞り込めた。
公共交通機関を乗ったり降りたりして、5つ目の『候補地』に来た時だった。
注意深く道を歩いていたら、冬木立(ふゆこだち)の向こうに幼馴染の18歳の男子らしき姿を発見したのだ。
その瞬間からわたしは30分間、0.01ミリも動けなかった。
なぜか……?
わたしと違って短髪の女の子が、わたしと違って平均身長の女の子が、勘一郎の横に寄り添っていたから。
× × ×
その娘(こ)が割りと可愛い子なのは疑いようがなかった。
『勘一郎って……あんな顔立ちの子が好みなんだ』
弱々しく家に帰ってきてから、このコトバを胸の奥で1000回以上呟いた。
× × ×
依然として階下はクリパで騒がしいことだろう。
「わたしの背が高過ぎるのがいけないのかな。わたしの脚が長過ぎるのがいけないのかな」
つま先を見つめ続けるがあまり、こんなどうしようもないヒトリゴトを言ってしまった。
背が高いっていっても……166センチだし。勘一郎よりは低いよ。
それから……脚は、短いよりは、長い方がいいよね、ゼッタイ。
『……だったら、わたしの何が良くないって言うの』
そんなコトバが口から出る寸前だった。
慌てて首をブンブンブンブンと振りまくった。答えの出ない問いに落ち込みたくなかった。……もはや、落ち込んでいるも同然だけど。
秋本モネという人間史上最高にラチのあかない状態。
打開策としては、例えば、例えば……服を着替えてみるとか。イヤな思いの染み付いた服を脱いで、新しい服を着てみる。それも1つの策かもしれない。
徐々にカラダにチカラを入れていき、ベッドから立ち上がろうとしてみる。
しかし、このタイミングで、枕元に置いていたスマートフォンが派手に振動。
枕元に飛びつくようにしてスマホを掴む。
『中川 紅葉』
放送部の同期の紅葉(もみじ)からの着信だった。
イヤなコトになる予感しかしない。
短時間で通話を終えたいキモチでいっぱいだった。
余分なチカラを込めに込めて受話器マークボタンをフリックする。
その1秒後には、
『メリークリスマス!!』
という紅葉の陽気な声が、わたしの両耳に突き刺さってきて……。
何も言えない。
何も言えなくて、それで、ベッド上でなぜか正座になって、カラダを小さくして……。
「えっ、どーしたモネ、まさか、メリークリスマスな気分じゃなかったり? サンタクロースさんに裏切られでもしたか」
紅葉の声は、軽い。
重々しいモノを背負ったわたしは、
「……バカっ」
と、情けないヒトコトを、ベッドの掛け布団の上にこぼす。
紅葉に、わたしの「バカっ」が聴こえたかどうかは、分からない。