きのう電話で徳山さんに言われたことが、頭から離れない。
わたしとミヤジが、「似合ってる」って。
それって。
単なる友だち以上の関係、的な意味で…「似合ってる」ってことでしょ。
徳山さん。
イジワルなこと、言わないでよ。
…意識しちゃうじゃん、過剰に。
ミヤジと……男女の仲、になるなんて……そんなこと……。
× × ×
通学の電車に乗っているあいだ、こころの中で、
『ありえないありえない』
と唱え続けた。
わたしとミヤジのキャンパスは近い。
遭うのが怖い。
ミヤジと遭遇するのが怖い。
怖いけど、十二分にあり得ること。
出遭って、眼が合ってしまったら、どうしよう?
様々な意味で……ミヤジから逃げたら……もっと面倒くさいことになっちゃう。
どうしよう……。
× × ×
わたしの大学の学生会館。
こんなところまでミヤジが来るはずもない。
ひとまず、警戒を緩める。
学生会館の中に居る限りは、大丈夫……とこころに言い聞かせて、『PADDLE』の編集室へと向かう。
× × ×
編集室の前に、見知らぬ男のひとが立っていた。
カッコいいおにいさんだ。
編集室に向かって突き進んでいた脚が止まる。
立ち止まったわたし目がけて、謎の男性は、ウインク。
え。
なに……このひと。
「ゆ、結崎純二さんに、ご用件でも??」
戸惑いながらも、尋ねてみる。
すると、謎の男性は、
「結崎純二は――おれの弟だ」
と答えた……!!
× × ×
結崎一眞さん。
「一眞」は「いっしん」という読み。
たしかに、結崎純二さんの面影が、無くはない。
だけども、お兄さんである一眞さんのほうが、ハンサムだし、スタイルもいい。
「純二は、編集室に引きこもってると思ったんだけどね。予想が外れた」
――いま、わたしは、学生ラウンジで、一眞さんと向かい合っている。
学内カフェテリアの数量限定メニューである『スペシャルプリンアラモード』を彼は奢(おご)ってくれた。
そのスペシャルプリンアラモードの空き容器を見つめながら、わたしは、
「一眞さんは……社会人なんですよね? こんな時間帯に会社を抜け出しても、大丈夫なんですか……?」
と訊く。
彼はあっさりと、
「そこらへんは自由な社風なんだ」
と回答。
そして、
「名刺、持っとく?」
と笑いながら言ってくる。
うろたえつつ、わたしは、
「え、遠慮しておきます、ごめんなさい」
と断ってしまう。
彼はさらにニコニコ顔になって、
「あすかさんは面白いねえ~~」
と言い、右手で頬杖を突く……。
「結崎さんの様子を観に来たんですか?」
訊くと、
「おれも結崎なんだけど」
と軽~く言われてしまう。
「よ…呼びかた、ややこしいですよね。ど、どーしよっかなあ」
「おれのことは『一眞』、あいつのことは『純二』でいいんじゃないの?」
「ど……どーしましょーかねえ」
「迷ってるんだ」
「……弟さんのことは、ずっと『結崎さん』と呼び続けてたので」
「じゃ、あいつに関しては、『結崎さん』呼びを続けるか」
「……ハイ」
「だけど、おれのことは、名前で呼んでくれ★」
「……強制、ですか」
「そのほうが、おれは嬉しい★」
「では……い、いっしんさん」
「噛んじゃったね★」
あぁ……もうっ。
ミヤジのことで悩みまくってたら、
今度は、結崎さんのお兄さんに捕まってしまった。
ハンサムで、スタイルが良くって、社会人。
良い会社に勤めてますよ的な雰囲気が出まくっている。
ふと、
『わたしの兄と…どっちが背が高いんだろう』
と思い始める。
すると不意に、
「あすかさんって、お兄さん居るんじゃないの??」
と訊かれて、ビックリする。
慌てて、
「それは、直感ですか!?」
と言うわたし。
「直感以外の何物でもないねえ」
「当たりです……。兄が、ひとり。3つ年上の」
「ふむふむ」
「……」
「きみは、お兄さんのこと――どのくらい、好き??」
「ええっ」
素っ頓狂な声を出してしまった……!!
は、恥ずい。
恥ずかしすぎる。
「アハハ~~。
高校4年生って感じだねーっ、きみも★」
結崎一眞さんは……面白そうに、笑うばかり。