ゴールデンウィークということで、お邸(やしき)に「プチ帰省」している。
「日頃の恩返しがしたい」と、わたしのためだけに、アツマくんがお昼ごはんを作ってくれた。
とっても嬉しい。
「美味しかったわ」
食後のダイニング。
コーヒーの入ったマグカップを両手で持ちつつ、向かいのアツマくんを見つめて、
「ありがとう」
と言う。
「感謝をするのは、おれのほうだよ。あっちでは、食事当番はほとんどおまえなんだし」
と言ってくれるアツマくん。
「あっち」とは、ふたり暮らしをしているマンションのこと。
アツマくんはさらに、
「自分で料理作ってみると、毎日食事当番してる大変さとかも、理解できるし」
「大変さ?」
「大変だろ。愛、いくらおまえが料理に習熟してるっていっても、毎日キッチンに立たなきゃならんとなると……」
わたしは若干わざとらしくクスッと笑って、
「それぐらい、頑張れるわよ」
「そうか?」
「頑張れるのには、理由(ワケ)があって」
「……どんな?」
答えてあげない。
彼の顔をじーーっと見つめるのが、答えの代わり。
彼が動揺するのを見計らって、
「ねえアツマくん。せっかくあなたが、ごはんを作ってくれたことだし」
と言い、わずかに間(ま)を置いてから、
「わたしの部屋に、来てちょうだいよ」
と言う。
× × ×
「理屈が分からん。
おれに昼飯を作ってもらったから、自分の部屋に連れ込みたい?
昼飯作ってもらうのと、部屋に連れ込みたいってのに、関連性が無いじゃねーか。
たぶんおまえ、昼飯食う前から、おれを部屋(ここ)に連れ込むつもりだったんだろ」
クドクドとアツマくんが言っている。
わたしの部屋に入った彼は、床にあぐらをかきながら、わたしの強引さにクレーム。
そのクレームにわたしはビクともせず、
「そんなこといちいち言ったってしょうがないでしょ、アツマくん。あと、部屋に『連れ込む』って表現は、感心できないわね」
「……けっ。」
「ねえねえ。どうかしら、わたしの部屋は」
「どうかしら、とは?」
「ステキでしょ。カワイイでしょ」
「ステキもカワイイもなにも、プチ帰省するときしか使わなくなったんだから、普段から整ってるに決まってるだろ」
なにそれ。
ちょっとムカつくんですけど。
「ホメてくれないわけ!? わたしの部屋を」
「えー、だって、ホメるもなにも無くね??」
「あなたってそんなにヒドかった!?」
「なんだよ、怒ってんのかよ」
「……なんだか、邸(ここ)に帰ってくると、あなたに怒りたくなる」
「なぜに」
「あー、もうっ!!」
「いきなり大声かよ。突拍子も無くイライラしやがって」
ベッドから素早く降りるわたし。
正座して、彼を睨みつける。
そして、
「罰として、あなたが最近読んだ本の感想を言ってもらうわ」
「いやそもそも『罰』って」
「罰ゲームっ。これは、罰ゲーム」
「おいおい」
「あなたが本の感想を言い終わるまで、ここから出させない」
「やけに攻撃的だな。そういう日ってことかぁ??」
「バカバカバカ」
「どうした」
「あなた、ここに入ってから、失言のオンパレード」
「オンパレードとはヒドいな」
「ブログ読者の皆さまに、アツマくんが何回失言をしたか、数えてもらいたいぐらい」
「まあまあ」
「……」
「わーったよ。メタフィクショナル発言は控えめにしてほしいから、読書感想、言う」
「……」
「言うから、愛にはもっと目線を上げて聴いてもらいたいんだがな」
「……ふんっ。」
「うつむくなよ、そんなに」
「うつむくわよ。」
「おまえの顔がもっと見たいよ」
「――えっ」
「なんだなんだ、ビクッとしやがって」
「だって……あなた……わたしの美人な顔を……目に焼き付けたい……って」
「拡大解釈か♫」
「ち、ちがうもん!!! ちがうもんっ」