ゴールデンウィークゆえに、兄とおねーさんが邸(いえ)に戻ってきている。
おねーさんと一緒の時間を過ごせるのは、幸せ。
問題は兄だ。
仕事の反動か、この連休中、ダラけた姿を見せまくり。
今日も……。
「ちょっとちょっと、そんなふうにソファに身体(からだ)を預けないでよ、お兄ちゃん」
「エーッ、この体勢、ダメか」
「5月病みたいなダラけかたはやめて」
「ウォーッ、いつもながら、あすかの罵倒はヒドいを通り越してんなあ」
お兄ちゃんの態度のほうがヒドすぎるでしょ。
あと、「エーッ」とか「ウォーッ」とか、へんちくりんなリアクション言葉もやめて。
「エーッ」とか「ウォーッ」とか、ウザいし、キモい。
体勢を変えようとしない兄。
ダメだこのバカ兄。
10秒以内になんとかしないと。
10秒以内になんとかするために、飛びつくように、バカ兄の両肩に掴みかかる。
× × ×
「おれのカラダ、揺らしすぎだから。おかげで、いまだに世界がグラグラして見えるぜ」
「誇張(こちょう)でしょっ」
足を崩して床座りのバカ兄が、
「おれをグラグラさせたと思ったら、自分の部屋に連行しやがるんだもんな。
あれか??
お説教がしたいってか、おまえは」
「わたしが今いちばんやるべきことは、バカ兄に説教することだから」
「あすかぁー。説教もいいけどさぁ」
「なに」
「おれ、せっかくなんだし、ミヤジくんのこと、もっと知りたいかも」
「ば、バカ兄貴ッ、どこまで愚かなの」
「こういった機会じゃないと、おまえの彼氏情報とか、インプットできないだろ?」
「はぁぁ!? ぐぐぐ愚兄(ぐけい)ッ」
「おいおい」
「ぐ、愚兄(ぐけい)って、100万回言ってやるっっ」
「あすかおまえ、お説教できなくなりそうなテンションになってんぞ」
「うるさい!! うるさいっ!!」
愚兄に背を向けるわたし。
愚兄どころじゃない。
クズ兄だ、クズ兄貴だ。
……ただ、あまり「バカ」とか「クズ」とか多用しすぎると、ブログのコンプライアンス的なものにも関わってくるので、激しいコトバを飲み込んで、枕元に置いていたぬいぐるみを掻き集める。
掻き集めたのは、このお邸(やしき)の割りと近くに全天候型テーマパークを持っている、キャラクターグッズ業界最大手級のあの企業のキャラの、ぬいぐるみ。
振り向いて、
「これから強制反省タイムだよ、お兄ちゃん」
「へ??」
「お兄ちゃんを矯正(きょうせい)させるための、強制(きょうせい)的な反省のお時間」
「なにがいいたいのおまえ」
「にぶい!!!!!」
「おいおーい」
「今年の4月1日から今日までのこと、全部反省して」
「反省して、どうすんの」
「うまくいかなかったことがあったら、わたしに言う」
「うまくいかなかったこと??」
「あるでしょ!? 仕事場のお店で失敗して怒られたとか、おねーさんと夫婦喧嘩しちゃったとか」
「さりげなく、夫婦喧嘩って言いやがったな」
「夫婦喧嘩は夫婦喧嘩でしょーが」
「どーかねえ」
たまらず、ク◯ミちゃんのぬいぐるみを、ボケナス兄貴に投擲する。
サンリオの皆さん、乱暴なことして、ごめんなさい……。
「ぬいぐるみが泣いてるぞよ、あすか」
「そ、そんなこと、わかってる」
「本来の用途とは違うだろ? 投げられるポ◯ポ◯プリンやシナ◯ロールの気持ちも考えろよ」
「ま、まだ、プリンとシナモンは、投げてないし」
「投げる勢いだったぞ」
「……」
「とくに、シナモンだ」
「!?」
「ツイッターやってなくても知ってるんだよ。誹謗中傷騒ぎとかあっただろ」
「……よく知ってるね。なんにも知らないと思ってた」
「おれはな、」
不可解にも、ポケットからスマホを取り出したかと思いきや、
「シナモンの可愛いLINEスタンプ、ゲットしちまって」
ええぇ……。
「――お兄ちゃん。」
「どしたぁ?? 一気に、おれを憐(あわ)れむような顔になって」
「お兄ちゃん……」
「なんなんだよ、そのつぶらな瞳は」
「お兄ちゃん……お仕事そんなに……激務なの。シナモンのスタンプ、買っちゃうぐらい」
「いやいや、あらぬ心配しすぎだから」
「お兄ちゃん……」
「オイオイ」