【愛の◯◯】久しぶりにお兄ちゃんの部屋に行ったのに……

 

GW3日目!!

 

× × ×

 

ブログの過去ログを読むみたく、校内スポーツ新聞のバックナンバーを読んでいる。

勉強机に広げた新聞。

ぬいぐるみの『ホエール君』も一緒だ。

久々? の登場なので、ホエール君を少し説明すると、

彼は、吠えているクジラのマスコットで、

『ホエール君』というネーミングは、つまりそのまんまなわけだが、

ひとことで言えば――めちゃくちゃかわいいのである。

わたしはホエール君が好き。

愛すべき相棒だ。

ぬいぐるみだけどね。

 

――文字稼ぎみたいなことしちゃった。

新聞の過去ログ……もといバックナンバーを読んでいく。

 

新入生の3人も、記事を書いている。

 

日高ヒナちゃんの担当になって、芸能欄・テレビ欄がふたたび充実してきた。

中村『名誉部長』の卒業以降低迷していた芸能欄・テレビ欄が、息を吹き返した感じ。

ヒナちゃん、中村さんの後継者だね。

テレビ欄の致命的な誤植(ごしょく)もなくなった。

正確な番組表が作れて、ヒナちゃんはすごいな。

わたしも負けないぞ。

――ヒナちゃんは、『今日のプロ野球中継』という欄を作って、どのチャンネルでどの試合が中継されるか、まとめてくれている。

これが、非常に役に立つ。

 

水谷ソラちゃんと会津くんも、記事の文章を書いている。

中学を卒業したばかりの子にしては、長くてしっかりした文章が書けていると思う。

将来有望だ。

加賀くんやミヤジの文章レベルとは、雲泥(うんでい)の差。

 

――ソラちゃんの、野球部に取材した記事を読む。

主将の好きなテレビ番組とかを訊き出していて、面白い。

『主力選手に訊いた、あこがれのピッチャー』なる企画までやってる。

ダルビッシュ、大谷、菅野、山本由伸……みんな、てんでバラバラ。

ひとりだけ、『今中慎二』と答えてて、アナタおいくつですか~、とツッコんでみたくなる。

 

会津くんも負けてはいない。

関西地方のふたつのプロ野球チーム――つまり阪神タイガースオリックス・バファローズについて、詳細な比較を試みた記事を書いている。

スポーツのこと知らないで入部してきたのに、短期間でこんなにリサーチして、記事が書けるなんて、すごい。

とくに、甲子園球場と京セラドーム大阪を比較した分析が、面白い。

ここまで細かく記述できているのなら、かつての甲子園の『ラッキーゾーン』にも触れてほしかったけど。

彼に、期待しているからこそ、欲張りになるのだ。

 

ソラちゃんと会津くん――活動教室での、ふたりの関わり合いを見ても、

ぜひ、張り合って、お互いを高めていってほしいと思う。

ときどき、会話のやり取りが、意地の張り合いみたいになる――そんなふたりが、微笑ましいのだ。

 

× × ×

 

読んじゃった。

バックナンバー全部、読んじゃった。

わたしも自分の新聞に対しては、速読だな。

起きるの早かったし、まだ11時にもなってないよ。

お腹も空かない。

どうするかな。

 

机の上のホエール君に、じ~~っと視線を注ぐ。

ホエール君のぬいぐるみは、なにも語りかけてくれないけど――、

ぱーっ、と、閃(ひらめ)いた。

ホエール君を眺めていたら、閃いた。

 

 

久しぶりに、お兄ちゃんの部屋に行こう。

 

 

× × ×

 

「――もっと、片付けしなよ、お兄ちゃん」

 

乱雑。

 

「ほっといたら、すぐ散らかすんだから」

「愛みたいなこと言うなー、おまえ」

「だれだって言うよ……」

 

せっかくカレンダーも吊るしてあるのに、4月のまま、めくられていない。

 

「お兄ちゃん、きょう、何月何日かわかる?」

「んーーっと、」

「5月3日!! おわかり!?」

「あー、そうだそうだ」

ニコニコとして、

「おわかってるよ」

なーにが『おわかってるよ』だっ。

愚兄(ぐけい)。

 

ベッドに座っているわたし。

若干イラついて、脚をジタバタさせる。

 

「どうしたよ。落ち着きがないぞ」

「兄貴が悪いんでしょ」

「――『兄貴』とか言えるテンションってことは、調子がよくないとか、そういうわけではなさそうだな」

「からだは元気だよ。気分はムカムカし始めたけど」

「――そもそも、どうして突然に、おれの部屋来たんだ?」

「暇つぶしに決まってるでしょ」

「ホントかいなぁ」

 

あ~っもう。

 

「見てらんないよっ。わたしも一緒に、整理整頓するっ」

バーッと立ち上がるわたし。

「……ほらっ、こんなに雑誌を積むから、いけないんだよ」

「愛だって、異常なまでに本を部屋に積み上げてるだろーが」

「おねーさんを引き合いに出さない!」

「理不尽な」

「理不尽とか言わない」

 

だめだ、この兄貴……。

午後になるまでに、なんとかしないと。

 

「――床に落ちてるものを、ぜんぶ拾いなさい」

「またそうやって命令してくる…」

「Shut Up(シャラップ)!!」

「…どういうテンションだ、そりゃ」

「早く拾いなさいよ」

「急(せ)かしやがって…」

「床を綺麗にするのよ。お昼ごはんの前に。綺麗にできなかったら、お昼ごはん抜きにしちゃうわよ」

「…おまえのその話しかた、なんなんだ?」

「疑問を抱く前に、手を動かしなさい。怒るわよ」

「語尾が、おかしい、『のよ』とか、『わよ』とか」

うるさいわね!!!

「ひえっ」

「……おねーさんのモノマネでもしないと、バカ兄(あに)にハッパがかけられないから」

「……愛になりきってたつもり、だったのかよ」

悪かったわね!! 口調を真似るのがヘタで」

「怖いものが……ふたつある」

「はぁ!?」

「ひとつは、愛のパンチ。

 もうひとつは――、あすかの怒鳴り声」

「……妹だったら、恫喝(どうかつ)のひとつやふたつぐらい……」

「おぉ」

「なに、こんどはなに」

「『恫喝』って言葉とか、よく知ってたなぁ、あすかよ」

なめくさってんじゃないわよっ!!!

「……落ち着こうな」