先週金曜の『KHK紅白歌合戦』の画像を見尽くして、スマートフォンを置く。ベッド上に仰向けに寝転んだまま、『KHK紅白』の余韻を味わい続ける。
みんな輝いてたな。出演する方も、観る方も。
だけど何といっても、いちばん輝いていたのは、KHKのタカムラかなえちゃんだった。
まだ1年生なのに、あんな大イベントを主導して、成功させちゃうんだもんね。1年生の時のわたしより100倍行動力があるよ。
3年生だけど、1年生に負けてる。
少しだけ、悔しいな。
『……3年生といっても、卒業間近だし、できるコトは限られるんだけどね』
天井に向かってココロの中だけで呟く。
12月も終わりかけているし、大学受験シーズンが迫りまくっている。
わたしの志望大学は、文字数などの理由で伏せておく。
1月の共通試験は是非とも受けねばならない……とだけは記しておく。
いちばん大事な試験が来月なのだから、一刻も早くベッドから起き上がって勉強机に向かうべきではある。
だけど、瞬時にベッドから起き上がれるはずもなく。
ベッドの掛け布団が気持ち良過ぎるのがいけないんだよ。……そういう風に、ベッドに責任を転嫁する。
× × ×
ようやく起き上がってゆるゆると受験勉強をしているんだけど、どうもソワソワして仕方がない。
なぜか。
『あいつ』に電話をかける時間帯をまだ決めていないからだ。
今日電話しなきゃいけない。日が暮れるまでに電話しなきゃいけない。
分かっていても、決められない。
自分にイライラして、右足で床を数回叩く。
ついにシャープペンを放り投げてしまう。
× × ×
再びベッド上に仰向けになる。眼を閉じる。息を吸い込んで吐く。スマートフォンを持ち上げる。電話帳をスクロールする。
ためらっちゃダメだと思い、勇気を出して受話器マークのボタンを押す。
「もしもし?」
という男子の声が聞こえてくる。嬉しくなって、ホッとする。
ココロが満たされたから、カラダがほぐれる。ほぐれたカラダを横向きにして、スマホを間近に置いて、
「勘一郎(かんいちろう)、今はヒマ?」
と問いかける。
「モネこそ、どーなんだよ」
わたしの幼馴染の勘一郎から問い返される。
「1日フリーだよ。デートしてくれる男の子も女の子も居ない」
「おまえらしい答え方だなあ」
でしょ?
「ねーねー、勘一郎」
スマホにカラダを寄せて、
「明日、どーゆー日なのか、もちろん知ってるよね」
と言う。
言った直後から、胸が高鳴ってしまう。
言ったのは、触れたのは、自分なんだから、この胸の高鳴りも受け入れるしかない。
「わたし、明日の予定、『真っ白』なんだけど……」
胸の高鳴りをさとられないように、いつもの喋り方と同じ喋り方になるように努力して、予定の空白を勘一郎に伝える。
無音になった。
勘一郎からの返事が来ない。
わたしの中に焦りのようなモノがジワジワと拡がる。
勘一郎が何か言ってくる気配が無い。
わたしの中にあった期待が萎(しぼ)んでいき、枯れていき、黒ずんだ不安に変わっていく。
なんで。
どうして。
なんで。
どうして。
「……勘一郎? 聴いてる? 聴こえてる?」
チカラを振り絞って声を出した。
収まらない不安。悪い意味で速くなっていく胸の鼓動。
……数十秒後、
「悪い、モネ、ほんとに、悪い」
という、勘一郎のチカラの無い声が返ってきた。
「悪いって……何が?」
耳に響く鼓動音に懸命に耐えながら、わたしは、
「わたしの予定は『真っ白』だけど、勘一郎の予定は『真っ黒』だっていうの」
と、ギザギザした声を出す。
「……上手い言い方するな、おまえ」
幼馴染の煮え切らない声が返ってきた。
過敏に反応してしまって、
「は、ハッキリ言ってよ!? 明日の予定が埋まってるのなら、埋まってるって」
と叫び声同然の声を出してしまう。
無音がまた訪れた。
わたしも勘一郎も両方追い込まれている。明らかにそんな状況。
縮こまりながら、スマホから声が聞こえてくるのを待った。
でも、いつまでも何の音もしなかった。
恐る恐る、
「……わたしに会えない理由でもあるの。もしかしたら、『会えない』じゃなくて『会いたくない』なの」
と訊いてみる。
少しの間(ま)の後で、
「『会いたくない』とは、ちょい、違う」
と、勘一郎から、煮え切らない声。
「どうしちゃったの。どうしちゃったの、ねえ。今の勘一郎、勘一郎じゃないみたいだよ。肝心なコトをいつまでも伝えてくれないし」
気付いたら、眼を閉じながら、言っていた。
口から出た声に悲しみの色が濃く混じっていた。
泥沼に沈み込んでいる、わたしも、勘一郎も。
段々と、這い上がれる気が、しなくなってくる。
誰も助けてくれるわけがない。