【愛の◯◯】「このまましばらく甘えてよね」

 

昨夜兄に甘え切ってすっかりスッキリしたわたし。昼下がりの自分の部屋での勉強も捗る。

背後からノックの音がした。邸(こっち)に来ているおねーさんのノック音で間違いない。

 

× × ×

 

「何だかわたしの部屋のエアコンの効きが弱いの」

カーペットに両膝をひっつけ、苦笑いしながら、今日も超絶美人なおねーさんが、わたしの部屋に来た理由を言った。

「それはいけませんね。冷えは大敵ですからね。もうすっかり冬だし、エアコンの効きが弱かったら、寒さをしのげない」

「そういうワケなの。このお部屋でしばらく過ごさせてね、あすかちゃん」

「どうぞ遠慮なく」

椅子に座ったままおねーさんの超絶美貌を味わうわたしに、

「大学の勉強をしていたんでしょう? わたしより断然マジメな女子大学生ね」

えへへー。

「勉強頑張ってたけど、おねーさんが来てくれたから休憩です」

「どのくらい?」

「お腹がすいて夕ご飯が食べたくなってくるまで」

「それ、もはや休憩って領域を超えてるじゃないの」

「えへへへ」

照れ笑いでもってわたしはおねーさんと眼を合わせる。

おねーさんが美しい笑顔を届けてきてくれる。アイコンタクト大成功。

 

× × ×

 

ひと昔前の楽曲がタブレット端末から鳴り響いている。2013年とか2014年とかそこら辺の楽曲だ。ほぼ邦楽ロックバンドオンリー。

邦楽ロック縛りだけども、その縛りの中でさらに独自基準を設けてプレイリストを作成したのであるが、文字数と時間の都合で詳細は省略する。

「相変わらずあすかちゃんは自分が小学生だった頃のJ-ROCKが好きね」

ベッド側面に背中を委ね、両脚を前方にまっすぐ伸ばしているおねーさんがそう言ってくる。

「小学校に入る前のJ-ROCKは、もっと好きなんですよ?」

わたしはそう伝え、

「その頃は、ロキノン系も今より確実に勢いがあったし」

おねーさんは愛くるしい苦笑で、

「まるでタイムマシンに乗って2000年代のロック・イン・ジャパン・フェスを見てきたみたいねぇ」

「まぁ、実際に見たのと同等なぐらいに、聴き込んでますから☆」

力強く答えて、テーブル上のタブレット端末に近寄り、さらに昔のJ-ROCKが詰まったプレイリストに切り替える。

わたしやおねーさんが産まれる前の楽曲までもが流れてきた。

向井秀徳もしぶといわよねぇ」とおねーさん。

岸田繁だってしぶといですよ」とわたし。

「張り合うモノでもないでしょ。あの2人仲が良いんだから」

ふふふ。

「確かに」

そう言いつつ、ジト目の笑顔をおねーさんへとわたしは贈り届ける。

おねーさんもニッコリ。

互いに、まるでナンバーガールくるりがデビューした当時を体感しているかのような。そんなコミュニケーションが成り立っている。

 

× × ×

 

音楽が終わった後でおねーさんはシェイクスピアのマイナーな戯曲を読み始めた。文庫版ではなく全集的なハードカバーの本だ。

わたしは江國香織の小説のページを開いている。こちらも文庫版ではないが文字数と時間の都合で作品情報は省略する。

『誰もが文字数と時間の都合で面倒くさい物事を省けたら、苦労なんて存在しなくなるよね……』

そういう風に99パーセント余計なコトを脳内で呟いていたら、おねーさんがいったんシェイクスピアを閉じた。

「どーしたんですかあ?」

訊くと、

「一気に読んじゃうのが勿体ないと思って」

「あーなるほど」

「あすかちゃんも江國香織に栞(しおり)を挟んで、ちょっとわたしの方に来てみない?」

おーっ。

おねーさんが、誘ってきた。

おそらく、エアコンが効いていても残る肌寒さを、わたしの体温で消したいんだ。

勉強机の引き出しを開け、最高に都合良く見つかった栞を江國香織に挟む。

それから瞬時に椅子から立ち上がり、あっという間におねーさんの右横まで行って、速やかに腰を下ろしてベッド側面に背中を付け、彼女と同じ方向を向いて彼女の右肩に左肩を合わせる。

「だいじょうぶ? あったかくなってる? おねーさん」

敢えてタメ口な口調になって問いかける。

「うん」

おねーさんからの嬉しい受け答え。

「よかった。それなら、このまましばらく甘えてよね」

また、敢えてのタメ口。

「ありがとう。……柔らかいのよね、あすかちゃんの肩の感触って。いつも思ってる」

「おねーさんには負けるよ?」

わたしがそう言うと、おねーさんは、最高に可愛らしい小さな笑い声をこぼした後で、

「じゃあ、今は、あすかちゃんに勝っておくわ♫」