朝ごはんを食べたあとで自分の部屋に戻り、某小説家が書いたエッセイを読む。
本を読み終えて、机上(きじょう)の置き時計を見る。もうすぐ9時になろうとしている。
『ひょっとして』とわたしは思った。
『アツマくんのことだから……』
わたしの部屋を出て、アツマくんの部屋の前に立つ。
ノックしてもムダかもしれない。
彼、二度寝で眠りこけてそう。
× × ×
ノック無しで部屋に踏み込んでいった。
案の定である。
グーグー寝息を立てつつ二度寝を堪能している。
「だらしないわねっ」
彼には聞こえないけれども、見下ろしてグチる。
「お邸(やしき)に戻ってきたから羽を休めたいのは分かるわ。だけどもう9時を過ぎてるのよ?」
掛け布団に手を伸ばし、一気に剥ぎ取る。
まだ目覚めてくれない。
ビンタでもしようかしら。
……いいえ。もっと穏便な起こしかたがあるはずだわ。
× × ×
「どういう起こしかただ、おまえ。自分もベッドに座って、おれの上半身をナデナデしてくるとは」
「それで起きてこられたんだから、いいじゃないの」
「おまえが撫でた感触が残ってる」
「カラダに?」
「ああ」
「ふーーん」
アツマくんに流し目を送りながら、
「もっと触ってあげてもいいのよ?」
「いやらしい」
「いやらしくない」
猫背で溜め息をつく彼。
あなた本当に不甲斐ないわね。
わたしはベッドの彼の間近のところに座り続けているのだが、
「出ましょうよ。ベッドを出て部屋を出て、階下(した)に下りましょう? コーヒー飲んで眠気を覚ますのよ」
「えー、めんどい」
「朝ごはんのあとで、わたしと一緒にコーヒー飲んでくれなかったでしょ? 今度こそ一緒に飲んでほしいの」
いつの間にか、わたしは彼の上半身に抱きついている。
「愛。朝っぱらから、おまえの愛情が激しすぎる」
「激しすぎてなにが悪いの」
「おまえなー」
「わたし急いでるんですけど」
「は? どんな理由で急いでるんだよ」
「今日のブログ記事は原稿用紙2枚程度におさめたいから」
「……」
「絶句してるヒマなんて無いのよ」